第28話 雷魔法ビリビリ!

 ソフィーが氷魔法を覚えた。


 呪文が『カチカチ!』というのは、どうかと思うが、『カチカチ!』で魔法を行使しやすいなら、『カチカチ!』でも良いだろう。


 俺は続けてソフィーに水を凍らせる『氷結』の練習をさせた。

 ソフィーは冬場にタライの水が凍るのを見ていたので『氷結』も問題なくマスターした。

 ただ、呪文が『パリパリ!』であったが。


「ソフィー。『パリパリ!』は人に使ってはダメだよ」


「どうして?」


「人の体は水が多いんだ。だから『パリパリ!』を人に使ったら死んでしまうよ」


「あわわわわ! 人には使わないよ!」


 ソフィーは氷魔法を二通りマスターした。

 これから先はソフィー自身で魔法を改造発展させてくれるのを期待しよう。

 ソフィーは、まだ子供なのだ。

 成長とともに、もっと難しい魔法にチャレンジすれば良い。


「リョージ! 雷も教えて!」


 ソフィーが俺にねだってくる。

 しかし、雷か……。

 どうやって教えよう。


 雷は電気だ。

 移動販売車には、バッテリーが積んであるし、コンセントも付いている。

 だが、危ないからダメだな。

 ソフィーや孤児院の子供が悪戯して感電死したらシャレにならない。


 まずは、雷について話をしてみよう。

 俺はソフィーに自分の体験を話してみることにした。


「ソフィーは雷を見たことがある?」


「ある! 遠くでゴロゴロ! ピカッって光る!」


「そうだね。じゃあ、近くに雷が落ちたことはある?」


「ううん、ない」


「俺は近くに雷が落ちたことがあるんだ。仕事で外に出ていた時に急に雨が降り出して、ゴロゴロ雷が鳴り出したんだ」


 ソフィーは俺の話をフンフンと楽しそうに聞いている。


「それで雨が一気に激しくなった。俺はびしょ濡れだ。そしたら目の前でパッと光った! 同時にドーン! と凄い音がしたんだ! 俺の近くに雷が落ちたんだよ」


 これは日本で体験した話だ。

 その時は電気設備に雷が落ちたらしく、辺り一帯が停電してしまった。


 ソフィーはビックリして俺に聞き返す。


「ドーン! なの?」


「そう。雷が光ってから、ゴロゴロと音がする時は遠くに雷が落ちているんだ。近くに落ちると光ると同時にドーンと凄い音がする」


「怖いね」


「ああ、怖かったよ。とっさに頭を手で押さえてしゃがみ込み、そのまま動けなかった」


「あわわわわ!」


 ソフィーが目を白黒させる。

 ふふ、面白いな。


 充分興味が引けたところで、俺は雷が電気であるという話に進んだ。


「ソフィー。雷の正体はね。電気なんだ」


「電気? 電気って何?」


「ちょっと待っててね」


 俺は移動販売車に戻りレジ袋を取って戻った。

 レジ袋を両手で持って髪の毛にこすりつける。

 そしてレジ袋を持ち上げると、髪の毛がレジ袋にくっついた。


「リョージ! 変なの!」


「あははは! 面白いだろ? これは静電気といって、凄く小さな電気が発生して髪の毛とこの袋をくっつけているんだ。触ってご覧」


 ソフィーが好奇心一杯の目で俺の髪の毛を触る。


「なんか変な感じ」


「ほんのちょっとだけ電気が発生しているんだ。冬にドアや人に触った時に、ピリッとしたことはない?」


「あるよ! パチッ! ってなる!」


「あれも電気なんだ。あのパチッ! っていうのが、大きくなったら雷になるんだよ」


「へえ!」


 ソフィーは俺の下手くそな説明を一生懸命聞いて理解しようとしてくれた。

 こんなことなら理科だの科学だのもっと勉強しておけば良かった。


「じゃあ、ソフィー。俺にパチッ! ってヤツをしてごらん」


「わかった! パチッ!」


「うお!」


 一発でビリッときた!

 またも一発再現か!

 凄いな!


「おお! ソフィー! 凄い! 本当にパチッ! となったよ!」


「出来た! パチッ! パチッ!」


「痛い! 痛い!」


 ソフィーが楽しそうにパチッ! パチッ! とやる。

 俺は笑顔でプチ雷魔法の練習台になった。


「ソフィー。このパチッ! っていうのを強く出来る?」


「強く?」


「そう。ビリビリ! となるくらい」


「出来るかな~? うーん……。ビリビリ!」


「あっ! ぐっ……」


 ソフィーが少し悩んだ後、俺に手を向けて『ビリビリ!』と叫んだ。

 同時に俺の体が硬直し、俺は意識を失った。



「はっ!」


 目を覚ますと俺はシスターエレナに膝枕をされていた。


「あっ! すいません!」


「いえ! 良いのです! リョージさん。大丈夫ですか?」


「ええ。気を失っていたようです。ソフィーは?」


 俺は首を回してソフィーを探した。

 するとソフィーは、シスターメアリーにしがみついて泣いていた。


「私とシスターメアリーが執務室で仕事をしていたらソフィーが泣きながら飛び込んできたんですよ。リョージさんが倒れたって……」


「そうだったんですね。すいません、魔法の練習に熱が入ってしまいました。もう、大丈夫です」


 俺はシスターエレナに頭を下げ、少し離れた所にいたシスターメアリーにも頭を下げた。

 ソフィーが泣きながら俺に駆け寄り抱きついてきた。

 俺は笑顔でソフィーを抱きとめる。


「うえええ! リョージ! ごめんなさい!」


「大丈夫だよ! おお! よしよし! ソフィーの魔法は凄いよ! やっぱりソフィーは魔法の天才だよ!」


「うえええ!」


 俺は一生懸命ソフィーをあやしつけた。


 こうしてアクシデントはあったけれど、ソフィーは氷魔法とスタンガンのような雷魔法をマスターした。

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