第20話 ビール販売!

 精霊の宿の滑り出しは順調で、既に半分部屋が埋まっている。

 冒険者ギルドの受付嬢モナさんと看板を買ってくれたガイウスの紹介で、次々と冒険者がやって来るのだ。


 ガイウスも仲間と泊まりに来てくれた。

 ガイウスたちは結構稼ぐ冒険者らしく、個室にお泊まりだ。

 ガイウスは『ここの看板は俺が寄付したんだぜ!』と仲間に向かって誇らしげに語っていた。


 シスターメアリーとシスターエレナも受付を問題なくこなせるようになったので、俺がついていなくても大丈夫そうだ。

 俺はお二人に許可をもらって受付から離れた。


 ここから第二ラウンドだ!


 仲良しの女の子ソフィーがトテトテと宿の廊下を歩いてきた。


「リョージ! みんなごはんを食べだしたよ!」


「おっ! じゃあ、そろそろかな!」


「うん! 良いタイミングだと思う!」


 俺とソフィーは、目を合わせてそっと笑う。


「「うしししし!」」


 冒険者の仕事は、魔物と戦うハードワークである。

 ハードワークといえば、ビールだ!


 一日汗をかいて、晩メシをかっくらう。

 しかし、何か足りない……。

 そう! ビールがなければ一日が終らない!


 俺は宿屋の庭で酒とオツマミを販売する許可を責任者のシスターメアリーにもらったのだ。


 ソフィーと二人で、さっそく店を広げた。

 店といっても学園祭の出店程度で、テーブルの上に缶ビールなど酒類と缶詰、乾き物、惣菜パンを並べる。


 店の売り物は全て移動販売車の在庫だ。

 つまり原価ゼロである。

 売り上げの一割をテナント料として教会に納める取り決めだが、それでも売れればボロ儲けだ。


 精霊の宿の売り上げは教会の財布に入る。

 俺はびた一文受け取らない。

 その代り酒類販売で、ちょっとお小遣い稼ぎをさせてもらうのだ。


「ソフィー! ガイウスを呼んできてくれるかな? お酒を買わないですかって誘ってみて」


「うん!」


 ソフィーが食堂へ走り、ガイウスの手を引いて戻ってきた。

 ガイウスはソフィーに手を引かれて嬉しそうだ。

 ガイウスの仲間二人も一緒に来てくれた。


 さあ! 営業開始!


「よー! ガイウス! 酒を買わないか!」


「おお! 酒があるのか!」


「あまり量はないけど。美味しい酒を用意したよ。酒がまったくないってのも味気ないだろう?」


「わかってるじゃねえか! この野郎!」


 ガイウスは嬉しそうだ。

 仲間の二人もニンマリ笑っている。


「オススメは、このビールだ」


「ビール?」


「この国だとエールっていうらしいな。俺の国ではエールを冷やして飲むんだよ。美味いぞ~!」


 ガイウスたち三人の喉がゴクリと鳴った。

 俺は目の前で缶ビールを開けてみせる。

 プシュッ! と景気の良い音がして、ビールの匂いが風に乗る。

 ガイウスの鼻がヒクヒクと動いた。


「おお……良い匂いだな! よしっ! ビールをもらおう!」


「毎度! 大銅貨五枚だよ! ツマミも一緒にどうだい?」


「どんなのがあるんだ?」


「これなんかどうだ?」


 俺は焼き鳥の缶詰をパカンと開けてみせた。


「へえ! よく出来てやがるな! こんな入れ物は見たことねえぞ!」


「俺の国では普通に売ってるんだ。これは焼き鳥といって、鶏肉を味付けた食い物だ。酒と合うぞ。試しに食ってみろよ」


 俺は焼き鳥に爪楊枝を刺して、ガイウスたち三人に試食させた。


「美味い!」

「甘塩っぱくて酒に合いそうだな!」

「鶏肉なんて洒落てやがるな!」


「ビールとツマミ一つ。セットで銀貨一枚だ!」


「「「買う!」」」


「毎度あり~!」


 ガイウスたちは、ビールと焼き鳥の缶詰、ハムカツサンド、柿の種を買って食堂へ戻った。


 速攻で銀貨三枚ゲット!

 日本円換算で三千円売り上げた!


「リョージ! 売れたね!」


「ああ! 様子を見に行こう!」


 俺とソフィーが立てた作戦は、まず一組に酒を売る。

 酒を買った一組が、食堂で美味そうに酒を飲む。

 すると他の宿泊客もつられて酒を買いに来る。


 俺とソフィーは、こっそり食堂をのぞき込んだ。

 食堂は沢山の宿泊客がいる。みんな冒険者だ。革鎧姿でテーブルに座り、自分たちで作った料理を食べている。


 そんな中でガイウスたちが、缶ビールを飲み始めた。


 プシュッ!


「ング! ング! おお~!」

「美味い! 冷えたエールはこんなに美味いのか!」

「エールじゃねえ! ビールだ! こいつはたまらねえぜ……あああああ……」


 ふふふふ……冷えたビールが体に染みてやがる!

 わかる! わかるぞ! ガイウス!


「ガイウスのおじちゃん、すっごいおいしそうに飲んでるね! ビールって美味しいの?」


「苦いよ」


「えっ!?」


 ソフィーが嫌そうな顔をした。

 俺はソフィーの頭を撫でながら大人の事情を教える。


「大人になると苦いビールが美味しく感じるようになるんだ」


「そうなの!?」


「うん。不思議だよね」


「ソフィーも大人になったらビールが美味しくなるの?」


「うん。きっと美味しく飲めるよ」


「じゃあ、早く大人になってリョージとビールを飲む!」


 泣かせるなぁ……ソフィー……。

 俺は娘がいたらこんな感じなのかなと思い、ジーンと心を震わせた。


「そうだな。ソフィーが大人になったら一緒にビールを飲もう!」


「約束だよ!」


「うん! 約束だ!」


 俺はソフィーと、とても楽しみな約束を交した。


 さて、ガイウスたちは、ゴキュゴキュと美味そうにビールを飲み、ツマミを口に運ぶ。

 周りの冒険者たちは、うらやましそうにガイウスたちを見ていたが、若い冒険者がガイウスに声をかけた。


「ガイウスさん。それ、どこで手に入れたんですか? 美味いッスか?」


「おう! すげえ美味いよ! こりゃビールっていうエールに似た酒なんだけどよ。外で売ってるぜ!」


「マジですか!」


 食堂に居る冒険者たちの目がギラリと光った。


「あっ! ソフィー!」


「リョージ! 来るよ!」


 俺とソフィーは大慌てで、庭の店に戻った。

 すると俺たちを追うように冒険者たちが殺到した。


「オイ! ビールくれ!」


「俺にもガイウスさんと同じの売ってくれ!」


「はい! 並んで! 並んで!」


「ビールは大銅貨五枚でーす! オツマミとセットで銀貨一枚でーす!」


 ビールとオツマミのセットは大好評で、俺とソフィーはガンガン売りまくった!

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