第19話 精霊の宿オープン!
夕方になった。
教会が経営する宿屋『精霊の宿』が、急遽オープンである。
教会が経営といっても、シスターメアリーとシスターエレナには、宿屋を運営・経営するノウハウはない。
お二人は聖職者だ。
信者からの寄付金や領主からの補助金で教会と孤児院を運営してきた。
俺の感覚だと、日本の公的機関の職員に近い人物で、商売っ気はない。
二人とも現金収入に強い意欲を持っているが、いきなり宿屋を運営・経営しろというのは無理な話である。
そこで俺の出番だ!
俺も宿屋に関するノウハウは持っていないが、民間企業で長く働いてきたし、旅行や出張でホテルや旅館に泊まったことはある。
そういった会社員時代の経験で何とかやってみようと思う。
俺はシスターメアリー・シスターエレナと相談しながら人員配置を決め準備を整えた。
俺が受付カウンターに立つ。
シスターメアリーとシスターエレナは、俺の横でどんな風に仕事をするのか見てもらう。
宿屋のドアが開いた。
大通りに配置した孤児院の男の子が、客を案内してきたのだ。
男の子が案内してきたのは、若い冒険者たちだった。
男が五人。
五人とも表情に幼さが残る。
駆け出しの冒険者といったところか。
俺は元気に愛想良く、五人の冒険者へ挨拶をする。
「いらっしゃいませ! 精霊の宿にようこそ!」
五人の若い冒険者は宿屋の中を見回して、何やら相談している。
「へえ、こんなとこに宿屋が出来たんだな」
「きれいだな!」
「ああ、良い感じだ!」
「これで野宿しないで済むな!」
「そうだな」
野宿と言っているから、宿屋にあぶれていた若手冒険者だな。
俺は狙い通りの人物が宿屋に訪れたことに、内心ニヤリと笑う。
リーダーと思わしき、ツンツン頭の赤毛男が俺に話しかけた。
「受付のモナさんに紹介されて来たんだ。五人泊まれるかな?」
「はい。大丈夫です。相部屋は一泊銀貨一枚。個室は一泊銀貨三枚です。食事はないですが、キッチンが使えます。薪代は大銅貨五枚。薪を持ち込んでもらえれば、薪代はかかりません」
赤毛君の第一印象は良い。好青年タイプだな。
赤毛君が振り返って、仲間の四人に相談する。
「どうする?」
「薪はあるから、一人銀貨一枚で済むな」
「相場だし良いんじゃね?」
「ここにしようぜ!」
「決めないと、他のヤツらに部屋を取られちまうぞ!」
若者らしく、ワイワイと賑やかだ。
俺は『微笑ましいな』と思いながら、彼らの返事を待った。
リーダーの赤毛君が、五人を代表して宿泊の意思を告げる。
「五人一部屋で頼む」
「では、五名様で銀貨五枚です。身分証を確認させていただけますか?」
「ああ。冒険者ギルドのギルドカードで良いか?」
「結構です」
五人が冒険者ギルドの身分証を手渡す。
冒険者ギルドのギルドカードは、ドッグタグのような金属製のカードで、名前と冒険者のランクが刻印してあった。
俺は手元の宿帳に、五人の名前をボールペンで書く。
宿帳は移動販売車にあった大学ノートだ。
そして、代金を受け取り木箱に入れる。
部屋のカギが沢山入った木箱から、二階の部屋の鍵を赤毛君に渡す。
「二階の201号室。一番端の部屋です。キッチンとトイレは一階にあります。井戸は外です」
「わかった。ありがとう」
五人はカギを受け取ると、おしゃべりをしながら階段を上っていった。
俺はシスターメアリーとシスターエレナに向く。
「こんな感じです。やれそうですか?」
「ええ。大丈夫です」
「意外と簡単ですね」
「一応手順を宿帳の最初のページに書いておきましたので、何をするか迷ったら最初のページを見て下さい」
「わかりましたありがとうございます。しかし、これで銀貨五枚が手に入るのですね!」
年上のシスターメアリーが、木箱に入った銀貨五枚を見て目をギランと光らせた。
「銀貨五枚……お肉が買えますわ!」
若いシスターエレナも嬉しそうだ。
そうだよね。
自分たちでお金を稼ぐと張り合いがあるし、生活が見えてくると嬉しいよね。
「今は夕方です。夜にかけて宿泊客がもっと来るでしょう。つまり……もっともっと稼げますよ!」
「げ……現金収入!」
「そ……そうですわ! 現金収入ですわ!」
シスターメアリーとシスターエレナが嬉しそうに手を握りあった。
ドアが開きお客様が入って来た。
シスターメアリーとシスターエレナが、元気に声を上げる。
「「いらっしゃいませ! 精霊の宿にようこそ!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます