第18話 良いヤツ! ガイウス!

 冒険者ギルドのモナさんとドアマンのガイウスを、俺は移動販売車で冒険者ギルドまで送る。

 俺も宿の準備を手伝いたかったのだが、二人が『馬のない馬車で送れ!』と強硬に主張したのだ。


 二人は協力者だから、むげに出来ない。

 俺は二人を乗せて移動販売車を走らせている。


「やっぱりこの馬なし馬車は凄いですね……」


 モナさんが移動販売車にいたく感心している。


「荷台はどうなっているんですか?」


「荷台はお店になっているんです。この車は移動販売車……、えーと……行商用の車なんです」


「へー! ますます凄いですね!」


 冒険者ギルドに到着するとモナさんだけ降りた。

 ガイウスは助手席に陣取る。


「ガイウス?」


「ちょっと寄って欲しいところがあるんだ。モナ、しばらく抜けるぜ」


「早く帰ってきなさいよ!」


 ガイウスの案内で俺は移動販売車を走らせる。

 冒険者ギルド近くの工房で移動販売車を止めた。


「ちょっと待ってろ」


 ガイウスは、ドスドスと無遠慮に工房に入っていった。

 俺は何だろうな? と疑問に思いながらも運転席で待った。


 十分ほどして、ガイウスが何かを抱えて工房から出て来た。

 ガイウスは助手席に乗り込むと、俺に抱えていた物を押しつけた。


「ほらよ! 持ってけ!」


「えっ……これは……看板か!」


 ガイウスが俺に押しつけたのは、木製の看板だった。

 縦横三十センチくらいの大きさで、ベッドを模した大きな焼き印が入っている。

 そして、ベッドの上に『精霊の宿』と、この世界の言葉で焼き印が押してあった。


 なかなか雰囲気がある看板だ!

 それも二枚!


「おいおい! なかなか洒落た看板じゃないか!」


「だろう? 俺のおごりだ! 持ってけよ!」


「おごりって……良いのか?」


 俺が問うとガイウスは照れくさそうに鼻の頭をかいた。


「へっ! まあ、その……なんだ……。メシが食えないガキどもを何とかしてやろうってんだろう? 俺はそういうの嫌いじゃないぜ。俺にも一肌脱がせろよ」


 この野郎……カッコいいな!

 顔はおっかないけど、心は優しいのか!

 俺はガイウスを大いに見直した。


「ガイウス! オマエ良いヤツだな! しかし、看板なんてよく思いついたな! 俺は全く考えてなかったよ」


「いや、冒険者は字が読めないヤツも多いからな。こういう絵の入った看板を出しとかないとわからねえこともあるんだよ」


「なるほどな!」


 そうか! 識字率か!

 日本みたいに識字率が高くなければ、こういうベッドのマークが入った看板でアピールするのが正解か!


「やるな! ガイウス! しかし、何で二枚なんだ?」


「そりゃ、オメー、通りに一枚だろ? 建物に一枚だろ? そうしなくちゃわからねえだろう?」


「おお! そうだな! 鋭いな!」


 色々考えてくれたんだな……。

 俺は野獣みたいな男の意外な優しさが嬉しかった。


「ほれ! 釘ももらっといたからよ!」


 ガイウスは、ぬうっと手を伸ばした。

 手の中には釘が数本。

 こいつ意外と細やかなところがあるんだな。


 だが、この看板と釘を俺が受け取るわけにはいかない。

 ガイウスに看板を取り付けてもらって、教会のシスター二人と孤児院の子供たちにガイウスの協力を知ってもらおう。


 俺はちょっとした嘘をつく。


「なあ、ガイウス。俺は大工仕事が苦手でなぁ」


「苦手? 看板を釘で打ちつけるだけだぞ?」


「俺は生来不器用なんだ。釘が曲がってしまうよ。だから、ガイウスが看板を取り付けてくれないか?」


「え? 俺がか?」


「な! 頼むよ!」


「なんだよ~、しょうがねえなあ~。じゃあ、俺がやってやるよ!」


「おお! ありがとう! 助かるよ!」


 俺はガイウスを連れて、教会へ戻った。



 ガイウスはナイフの柄の部分を使って、器用に看板を釘で打ちつけてくれた。

 シスターメアリーとシスターエレナが笑顔でガイウスの作業を見守り、孤児院の子供たちは大はしゃぎだった。


「看板! かっこいい!」

「おじちゃんありがとう!」


「おう! 大事にしてくれよ!」


 いかめしい声で返事をしたガイウスだが、ガイウスの表情は声とは反対で目尻が下がりっぱなしだった。

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