第17話 宿泊料金
俺は冒険者ギルドを再訪問した。
「こんにちは~!」
「なんだ! また、オメエか!」
冒険者ギルドのドアを開けると、スキンヘッドのドアマンが迎えてくれた。
名前は確か……ガイウスだ!
ガイウスも冒険者だ。
精霊の宿を利用してくれるかもしれない。
友好的に振る舞っておこう。
「ガイウスだよな? 俺はリョージだ。よろしく!」
俺はガイウスに手を差し出した。
ガイウスは、片頬だけつり上げ恐ろしい表情で笑った。
「おう! ガイウスだ! よろしくな! で、どうした?」
「ああ、教会で宿屋を開くことにした」
「教会で……? 何だ? そりゃ?」
俺はガイウスに教会と孤児院の窮状について話した。
同情でも良いから味方を増やし、客を増やしたい。
ガイウスの口から仲間の冒険者に『精霊の宿』が伝われば嬉しい。
「そうか……。あのガキどもには、ちょこちょこ雑用を頼んでいたが……。ちゃんとメシを食えてないのか……」
「そうなんだよ。だから子供たちの食い扶持を確保するために、教会で宿屋を経営したら良いと思ってさ」
「ああ! そりゃ良いな!」
ガイウスが再び恐ろしげな笑みを浮かべた。
俺は愛想笑いを返して、カウンターに向かう。
カウンターには、先ほど話をした赤毛美人のモナさんが座っている。
「あれ? リョージさん? 戻ってきたんですか?」
「はい。モナさん。教会で相談してきたのですが、宿屋を始めることにしました。宿の名前は『精霊の宿』です!」
「へえ。覚えやすくて良い名前ですね! いつごろオープン出来そうですか?」
「建物は、もうあるんです。今、シスターや孤児院の子供たちが掃除をしています。食事なしの素泊まりなら、すぐに使えますよ」
「それはありがたいですね! じゃあ、見に行きましょう!」
モナさんは、冒険者ギルドの奥へ声を掛け、カウンターから出て来た。
俺とモナさんが、冒険者ギルドから外へ出ると、ドアマンのガイウスも一緒についてきた。
「ガイウス? ドアマンは良いのか?」
「一緒に行ってやるよ! まあ、モナの護衛ってことで!」
「ガイウスも連れて行きましょう。ガイウスは現役冒険者ですから見てもらった方が良いわ」
ということで、モナさんとガイウスが精霊の宿を見学することになった。
移動販売車に乗せると、二人は大騒ぎを始めた。
「オイ! 何だよ! これ!」
「俺の国で使われている馬車だよ」
「馬がいねーじゃねえか!」
「馬のいない馬車だよ」
ガイウスとトンチのような問答をしながら教会へ向かう。
冒険者ギルドはサイドクリークの町の西側エリアにあり、教会は北側エリアにある。
移動販売車なら五分、徒歩なら十分程度だろう。
教会に着き二人を宿坊へ案内する。
「この建物が『精霊の宿』だよ」
「こんな立派な建物が教会にあったんですね」
「ああ、知らなかったぜ」
宿坊の中は、孤児院の子供たちが一生懸命に掃除している。
元々新しい建物だったから、掃除した箇所はきれいだ。
宿坊の中に入ると、モナさんは驚きつつ好意的な声を上げた。
「なかなかきれいな宿屋ですね」
「元々信者向けの宿泊施設として作られたんです。広い台所もありますよ」
「見せて下さい」
台所に案内すると、モナさんは納得の表情をした。
「これなら自炊できますね。竈もお鍋もある」
台所は合格をもらえた。
続いて大部屋を見せる。
「おお! ベッドが入ってるな!」
大部屋には二段ベッドが設えてあり、六人が寝られるようになっている。
大柄なガイウスがベッドに横になると見た目ピチピチだが、ガイウスは気にしていない。
「狭くないか?」
「そうか? どこの宿屋もこんなモンだぜ。ベッドは新品! 新しい部屋で気分が良いぜ!」
ガイウスは好意的な評価をくれた。
続いて個室と食堂を案内し、シスターメアリーとシスターエレナと合流した。
食堂のイスに座り、モナさん、ガイウスを加えた会議である。
シスターメアリーとシスターエレナは、ちょっと緊張している。
二人は経営のことはわからないので、俺が話を進めてくれと言う。
俺は会社員時代の会議の要領で、冒険者ギルドのモナさんと話を進める。
「モナさん。精霊の宿は、宿屋としていかがでしょう?」
「非常に良いと思います。新しい建物できれいですし、収容人数が百人なのも良いですね。宿にあぶれた冒険者がいるので、今夜からでも利用させてもらいたいです」
「なるほど。シスターメアリーとシスターエレナは、どうでしょう? 今夜から営業開始でよろしいでしょうか?」
「ええ。結構です。宿にお困りの方がいるとは知りませんでした。ぜひ、精霊の宿を使って下さい」
「私も今夜からで大丈夫です」
シスターメアリーとシスターエレナの了解が取れたので、精霊の宿は今夜オープンと決まった。
俺は会議をリードし、次のお題へ進む。
「それで食事は自炊してもらいたいのです。こちらは人員に余裕がないので、しばらくは自炊OKのお客様だけ受け入れる方針です」
「良いと思います。若い冒険者は自炊して節約したい人が多いですし、懐に余裕のある冒険者は外食するでしょう。ただ、食事も出した方が稼ぎが増えますよ?」
稼ぎが増えると聞いて、シスターメアリーの目がキラリと光った。
現金収入に燃えているのだ。
だが、無理は禁物だ。
「宿屋の経営が軌道に乗ったら、食事の提供を検討します。しばらくは自炊OKの客を紹介して下さい」
「わかりました」
宿泊料金は、モナさんと相談して相場の価格に決めた。
相部屋は一泊銀貨一枚。日本円で千円相当。
個室は一泊銀貨三枚。日本円で三千円相当。
新しい建物だからもうちょっと宿泊料金が高くても良いとモナさんは言ったが、ピッタリの料金にすれば、お釣りを準備しなくて済むと俺が提案した。
シスターメアリーの決断で、ピッタリ価格になった。
薪代は宿泊代とは別にして、大銅貨五枚、日本円で五百円にした。
薪を持ち込む人は、薪代無料だ。
薪代はガイウスからのアドバイスだ。
冒険者は魔の森に行くので、帰りがけ薪になる木の枝を拾ってくることが出来るらしい。
有料にしておけば、冒険者は自分で薪を拾ってくるので、教会側の手間がかからなくなる。
オペレーションを予測した、なかなかナイスな提案だった。
シスターメアリーとシスターエレナは、俺にお任せ状態だったが、目だけがランランとしていて、まだ見ぬ銀貨に期待しているのが分かった。
収入が増えるのは嬉しいよな!
「では、今夜からお客様を受け入れます! よろしくお願いします!」
責任者のシスターメアリーが、精霊の宿屋オープンを宣言して会議は終った。
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