第15話 冒険者ギルドで、てへぺろを決める

 冒険者ギルドは、町の南側にあった。

 南側は魔物が跋扈する魔の森に近い。

 魔の森に出入りする冒険者には便利なロケーションなのだろう。


 俺は移動販売車の留守番をシスターエレナに頼み、一人で冒険者ギルドに入った。

 本当はシスターエレナにも来て欲しかったのだが、ソフィーが可愛い顔で寝ていたので……。

 ソフィーを起こすのはかわいそうだし……。


 冒険者ギルドは、木造二階建ての建物だった。

 俺はガッシリした造りのドアを開けて、冒険者ギルドに入った。


「失礼しまーす」


 冒険者ギルドの中は閑散としていた。


 ドアを入ってすぐに広いホール。

 ホールには頑丈そうな木製のテーブルや椅子、ベンチが置かれているが、座っている人はいない。

 左側の壁には掲示板があり、沢山のメモがピン止めしてある。

 一番奥に銀行のようなカウンターがあるが、女性が一人座っているだけだ。


 俺が奥にあるカウンターへ行こうとすると、ドアのそばにいたスキンヘッドのゴツイ男がノッソリと立ち塞がった。


「ようこそ冒険者ギルドへ」


 棒読みだな。

 ドスのきいた声で言われても歓迎されている気がしない。


 スキンヘッドは俺よりも頭一つ背が高い。

 身長百八十センチオーバーで、プロレスラーのような体格をしている。


 正直、怖い。

 俺は、来るところを間違えたかと後悔した。


 スキンヘッドは俺を見下ろす。


「何か用か?」


「あの……えっと……」


 スキンヘッドが怖くて、俺は上手く話せない。


「用がないなら帰れ!」


 スキンヘッドは片手で俺の肩を押した。

 だが、俺の体はピクリとも動かない。


「ぬ!」


 スキンヘッドは眉根を寄せた。

 そして両手で俺を押した。

 だが、俺は動かない。


 昨日、ゴブリンに襲われた時に気が付いたが、俺の体は強化されているようなのだ。

 スキンヘッドの両手押しは、子供にじゃれつかれた程度にしか感じない。


 俺は気持ちに余裕が出てきた。

 スキンヘッドは見た目こそ怖いが、俺の敵ではない。

 ちょっとからかいたくなった。


「俺を押したな? なら、今度は俺がアンタを押す番だな?」


「何?」


「そーれっ!」


「うわああああああ!」


 俺が両手でスキンヘッドを押すと、スキンヘッドは後ろへ吹っ飛んだ。

 冒険者ギルドのテーブルや椅子がガラガラと音を立てる。


「おっと! 力加減がわからなかった!」


「テ……テメエ!」


 スキンヘッドが寝転んだまま首だけ持ち上げて俺を見る。

 涙目になっているのは気のせいだろうか。


 俺は、もめるために冒険者ギルドに来たわけじゃない。

 ここらで穏便に済ませよう。


「あー。すいません。私はリョージと申します。昨日、銀翼の乙女のクロエさんと取り引きした者です。怪しい者ではありません」


「いや、その格好は怪しいだろう!」


 スキンヘッドが俺を指さす。


 俺の服装は、スーパーの制服である紺色の化繊ズボンに白のワイシャツだ。

 日本では普通の服装だが、この町には馴染まない格好だ。


「いや、私の国では普通の仕事服なんですよ。昨日、この町に来たばかりで、この国の服は持ってないんです」


「むうう……。そうなのか……。まあ、銀翼のクロエと取り引きしたって言うなら、信用しても良いが……」


 スキンヘッドは、ヨロヨロと立ち上がった。

 そんなに強く押してないんだが、ダメージがデカそうだ。

 悪いことしちゃったな。


 俺は心の中で『てへぺろ』と思いながら、カウンターへ向かった。


 カウンターには、気の強そうな美人のお姉さんが笑顔で座っていた。

 この騒動を見て笑顔をキープ出来るとは、なかなか強心臓だ。


 俺は気持ちを改めて丁寧に挨拶する。


「はじめまして。リョージと申します。昨日、この町に着いて、今は精霊教の教会に泊まっています。ちょっとご相談というか、教えていただきたいことがあって伺いました」


「ご丁寧な挨拶をどうも。私は冒険者ギルド・サイドクリーク支部の受付担当モナです。そこの男はガイウス。今日のドアマンです」


「ドアマン?」


「見張り。用心棒のこと。腕っ節の強い冒険者に交代でドアマンをやってもらうの」


 モナさんの口調が崩れてきたので、こっちも口調を合わす。


「もう、ちょっと強いヤツを選んだ方が良くないか?」


「ガイウスも結構ヤル方なんだけど……」


「そうなのか? 騒がせて悪かったな」


「いいえ。それでご用件は?」


 モナさんが、イスに座れと手で促してくれたので、俺はカウンターのイスに座った。

 モナさんは、赤毛が印象的な勝ち気な美人さんだ。


「相談というか、情報が欲しいというか……。宿屋を経営しようと考えている。冒険者ギルドで客を紹介してもらうことは可能か?」


 俺は単刀直入に用件を切り出した。

 モナさんは、アゴに手をあててちょっと考えてから答えた。


「そうね……。その宿屋を見てみないと返事は出来ないわ。けど、この町は宿屋が不足しているので、宿屋が増えると助かるわね」


「本当か?」


「ええ。人が増えて、宿屋に入りきらないのよ。若い冒険者は、広場にテントを張って野宿してるわ」


「ウソだろ!?」


「マジよ。本当に宿屋が足りないのよ。町の外にダンジョンが見つかったの。ダンジョン目当てで、冒険者が沢山やって来て、さらに商人もやって来て……」


「それで宿屋不足か!」


「ええ。ギルド長が商業ギルドや領主様に相談しているけど解決の目処は立ってないわ」


「良いことを聞いた! ありがとう! 宿屋の目処がついたら、また来る!」


 俺は冒険者ギルドを飛び出した。

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