第13話 異世界で朝食を
俺はカゴに食料を満載して孤児院の台所へ入った。
するとシスターエレナがいた。
朝から美しい!
「リョージさん。おはようございます」
「シスターエレナ! おはようございます! あの……、朝食ですが……」
「これから支度するところです」
「よろしければ、私にも手伝わせていただけないでしょうか? それから、この食材を使って欲しいのです」
俺は野菜や肉が満載の買い物カゴをシスターエレナに見せる。
するとシスターエレナは、目を見開いて驚いた。
「えっ!? こんなに沢山!? よろしいのでしょうか?」
シスターエレナが驚くと同時に遠慮しているのがわかる。
シスターエレナは、『野菜や肉をもらいたいけど本当に良いのかな……』という表情をしているのだ。
シスターエレナの心理的負担にならないよう配慮しなければ……と、俺はとっさに言い訳を考える。
「これは昨日売れ残ってしまった廃棄する食品です。どうせ捨てるなら子供たちに食べさせてあげようと思いまして」
「まあ! そういうことでしたら遠慮なくご馳走になりますわ! 子供たちも、きっと喜ぶでしょう!」
シスターエレナの表情がパァっと明るくなった。
いやあ、美人の笑顔は良い。
プライスレスだ。
シスターエレナは、カゴの野菜や肉を見て首を傾げた。
「あの……見たことのない野菜がありますが……」
「ああ、大丈夫です。これは私の国の野菜です。私が料理しますよ!」
「では、お言葉に甘えさせていただきます! 私もお手伝いしますね!」
俺は早速スープ作りに取りかかる。
チキンコンソメスープならすぐ出来る。
孤児院の台所には、調理用具が一式そろっていた。
現代日本の調理用具より大ぶりで無骨だが問題ない。
「シスターエレナ。野菜を洗いたいのですが?」
「では、井戸でお願いします」
「井戸!?」
シスターエレナに案内され外に出る。
台所の側の井戸があった。
俺はちょっとカルチャーショックを受けながら、釣瓶を使って水を汲み野菜を洗う。
井戸を使うなんて初めての経験だ。
洗った野菜を持って台所に戻ると、シスターエレナと二人でザクザクと野菜を切っていく。
シスターエレナと色々おしゃべりしながら野菜を切る。
話がなかなか面白い。
食べ物関係の知識が仕入れられた。
例えば、白菜はこの国にないが、キャベツはあるそうだ。
料理の味付けは、塩のみ。
香辛料は、ちょっと高級品だが、裕福な平民は使っている。
質問をしたり相槌を打ったりしながら調理する。
野菜をザクザク切って、大きな鍋に放り込み、鶏肉を入れる。
水を入れて一煮立ちさせアクをとる。
コンソメスープの素を入れて塩コショウで味を調えれば出来上がりだ。
続いてハムエッグを作る。
移動販売車から持ち込んだフライパンをシスターエレナが不思議そうな顔で見ている。
「これはフライパンという私の国の調理器具です」
「見たことがないです。お鍋とは違うのでしょうか?」
「食材を焼くための道具です」
フライパンにサラダ油をひいて、ハムと卵を割り入れる。
ジュウ! と景気の良い音。
シスターエレナが、目を輝かせる。
「何やら美味しそうですね!」
「ええ。美味しいですよ! ほら、まず一つ出来上がりです!」
次々とハムエッグを焼いて、シスターエレナが用意した木皿に盛り付ける。
子供の食事なので、味付けはとんかつソースにしてみた。
甘めのソースなら食べられるだろう。
ハムエッグには、食パンを添える。
簡単だけど、主食、おかず、スープが出来た。
料理が出来たら丁度良く子供たちが台所にやってきた。
ソフィーが嬉しそうに声を上げる。
「リョージがご飯を作ったの!?」
「そうだよ! 美味しいからね!」
「さあ、みなさん! 自分の分のお皿を持って食堂へ行きましょう!」
シスターエレナの声がけで、子供たちが木皿を持って食堂へ向かう。
俺も席についた。
食堂には良い匂いが充満している。
みんなが席に着くとシスターエレナが食前に一言述べた。
「今日のご飯はリョージさんが作ってくれました。リョージさんと精霊に感謝していただきましょう」
ダッ! と子供たちが料理に手を伸ばす。
子供たちは、一口料理を食べると驚いて声を上げた。
「わあ! 美味しい!」
「すげえ! スープに肉が入ってる!」
「このパンもフカフカで美味しいよ!」
子供たちは大興奮で料理をかき込んでいる。
簡単な料理なのに喜んでもらえて良かった。
子供たちの食べている姿を見ているだけでお腹が一杯だ。
シスターメアリーとシスターエレナも喜んでくれた。
俺は朝からとても満ち足りた気持ちになった。
俺の隣でソフィーが夢中で口を動かしている。
「ソフィー。美味しいか?」
「うん! 凄く美味しいよ!」
「そうか。良かった」
シスターメアリーが心配そうに聞いてきた。
「リョージさん。このお料理はお金が掛かっているのでは?」
「大丈夫です! 売れ残った野菜や肉を使ったので気にしないで下さい」
「そうなのですか? それにしてもこのスープも、この料理に掛かっているソースも美味しいわ!」
はい。コンソメスープの素ととんかつソースのおかげです!
日本の優秀な食品会社のおかげです!
みんなが笑顔で俺の作った料理を食べてくれる。
日本では出来なかった経験に、俺は笑顔だった。
■―― 作者より ――■
みなさんは目玉焼きやハムエッグに何をかけますか?
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