第二章 孤児院を救え!

第12話 移動販売車の在庫

 ――翌朝。


 チュンチュンと鳥の鳴き声が外から聞こえてきた。

 俺はゆっくりと目を開ける。


 ここは教会の客間だ。

 質素な木製のベッドに毛布だけの寝床。

 丸テーブルと椅子が二脚。

 客間といっても、まったく飾り気のない部屋だ。


 昨晩は疲れていたのか、夕食を食べたらグッスリだった。


 無理もない。

 突然異世界に来て、初めての出来事ばかりだったのだ。

 肉体よりも精神が疲労していたのだろう。


 だが、ソフィーのおかげで手持ちのお金が出来て、シスターメアリーとシスターエレナのご好意で安心出来る寝床を得た。

 安心感から眠りは深かった。

 目覚めは爽快だ!


 丸テーブルの上に置いた腕時計を手に取る。

 時間は朝の五時だ。

 大分、早起きしたな。


 俺は足音で他の人を起こさないように、そっと歩いて教会の外へ出て移動販売車に向かう。

 移動販売車は教会の敷地内に止めてある。


 外はもう明るくなっていた。


(ふう、ちゃんといるな!)


 俺は移動販売車の周りをグルッと歩いて車両を点検する。

 特に異常はない。


 結界があるから移動販売車が壊されたりすることはないと思う。

 それでも、移動販売車は俺の大切な財産だ。

 異世界だから銀行の預金はないし、投資していた株式だってないのだ。

 移動販売車を大切にしないと!


 続いて荷台の店舗スペースに乗り込む。


 正直、腹が減った。

 何か食べたい。


 朝だから空腹というのもあるが、昨晩教会から提供された食事が質素すぎた。

 食事は、教会とは別棟の孤児院の食堂でとった。

 シスターメアリーとシスターエレナ、孤児院の子供たちも一緒だ。


 出て来たのはカチカチの丸いパンとスープのみ。

 スープは具が少なく、野菜の切れ端しか入っていなかった。


(えっ!? これだけ!?)


 俺は驚いたが、周りを見ると不満など述べずに淡々と食事をしていた。


 スープの味付けは……、ない!

 塩気がないのだ。

 多分、塩を買うお金がないのだろう。


 硬いパンをスープに浸し、柔らかくして口に運ぶ。

 粗食だなと思った。

 育ち盛りの子供に、この食事では栄養が足りないだろうと考えさせられてしまった。


 多分、教会の予算が足りていないのだ。


 孤児院の子供は十人。

 上は十二歳、下は乳飲み子だった。

 空腹なのか、一番下の赤ちゃんが泣いていて心をえぐられた。


 シスターメアリーとシスターエレナは、お金について何も言わなかった。

 俺は宿泊させてもらったが、客人だからとお金を受け取らないのだ。


 何とかしてあげたいなと思った。



 ああ、イカン!

 思考がグルグル回ってしまっている。


「うーむ……。とりあえず何か腹に入れよう」


 パンの棚に向かい消費期限が早そうなパンを食べようとした。

 すると昨日ソフィーが食べたクリームパンが棚にある。


「あれ? このクリームパンは、なぜあるんだ?」


 ソフィーが食べてなくなったクリームパンが、なぜか棚にある。

 どういうことだろう?


 俺は気になって店内をチェックした。


「果物ナイフがある! ティーシャツもある!」


 昨日、クロエさんたち『銀翼の乙女』に販売した果物ナイフとティーシャツも補充されている。


 果物ナイフは壁面の陳列スペースにぶら下がっているし、ティーシャツも雑貨コーナのカゴにちゃんとパッケージに入った姿で刺さっている。


 他にも異世界に来る前に、日本で売れた商品もきっちり補充されていた。


 俺は店舗スペースから出て、移動販売車の運転席に乗り込む。

 キーを差し込み、燃料系とバッテリーをチェックする。

 燃料は満タンになっている!

 バッテリーもメーターを振り切っている!


「まさか……! 自動で補充されるのか!」


 食べたパンや販売した商品が自動で補充され、燃料も補充される。


 俺はズボンのポケットに手を突っ込んで手持ちのお金をチェックした。

 お金は減ってない!

 つまり……、無料で商品が補充されるのか!


 何という素晴らしい機能だ!


 もちろん、検証が必要ではあるが、俺がこの世界で生きていくのに頼もしい力だ。

 とりあえず飢えることはない。


 精霊の力――俺は昨日、シスターエレナから聞いた話を思い出した。

 きっと精霊が移動販売車に手を加えて、この不思議機能を追加してくれたのだろう。


「精霊さん! ありがとうございます!」


 俺は両手を合わせて、精霊に感謝した。


 とにかく、在庫は補充されるらしいと分かった。


「それなら!」


 俺は買い物カゴに野菜や肉など食料を放り込んで、孤児院へ向かった。

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