第3話 ゴブリンと遭遇!

 俺の乗る移動販売車は、二トントラックを改造したタイプだ。

 荷台が箱になっていて、お客さんは箱に乗り込んで買い物をする。

 トラックのサイズが大きいので多少運転に気を遣うが、運転席が高い位置にあるので前方の視界は良好だ。


 カーナビを見ながら草原を慎重に運転すること三十分、道に出た!


 道がある!

 つまり人がいる!


 俺は車から降りて道の状態を確認することにした。


 道は土がむき出しで舗装がされていない。

 わだちがある!

 わだちがあるということは、車輪が存在する。

 わだちは自動車のタイヤ幅より狭いので、馬車や荷車が通った跡じゃないだろうか?


(どうやら、それなりの文明がある世界みたいだ!)


 文明の匂いを感じて、俺はホッとした。


(あれっ?)


 俺は小さな足跡を見つけた。

 子供の足跡だろうか?

 近くに民家はない。

 こんなところを子供が裸足で歩いたのか?


 ガサ!

 ガサガサ!


 道路脇の草をかき分ける音が聞こえた。

 音がした方に目をやる。


「えっ!? ゴブリン!?」


 背の高い草をかきわけて出て来たのは、ゲームやマンガで見たゴブリンとそっくりの生き物だった。


 小さな子供くらいの身長。

 だが顔は醜悪で凶暴そうだ。

 目には敵意をみなぎらせている。

 肌の色は緑。小汚い布を腰に巻いているだけで、ほとんど全裸だ。


 道路脇のやぶの中から出て来たゴブリンは三匹で、手に棍棒を持っている。


(不味いな……襲われたらひとたまりもない……)


 ゴブリンの体が小さいといっても、手には武器を持っているし、腕や肩にはしっかりと筋肉が付いている。

 棍棒をフルスイングされたら、大怪我では済まないだろう。


「ギギギギギ!」


 ゴブリンが耳障りな声を上げる。

 何を言っているのかわからないが、俺のことが気に入らないであろうことは雰囲気から察した。


「ギ!」


 ゴブリンが棍棒を振りかぶって、俺の方に突進して来た!

 だが、ゴブリンは俺に近づく前に何かにぶつかって跳ね返された。

 ゴブリンは地面に転がる。


「えっ!?」


 俺は驚き、転がったゴブリンを見た。

 ゴブリンは顔面をおさえている。


 何が起ったのだろう?


「ギイ! ギイ!」


「ギギギ!」


 残り二匹のゴブリンが怒って棍棒を振り回すが、何かに弾き返されている。

 どうやら目に見えない壁が存在しているようだ。


「まさか……結界!?」


 ゴブリンたちは、移動販売車から一メートルの距離にいる。

 ゴブリンたちは、怒り心頭で棍棒を振り下ろすが、見えない壁がゴブリンを阻んでいる。

 これは結界で間違いないだろう。


 俺はホッとして気持ちが落ち着いた。

 そして、徐々に冷静に考え出した。


(ゴブリンがいる。人を襲う危険な魔物がいる世界なんだな……。さて、どうやってコイツらを追い払うか……)


 移動販売車に積んであるジャッキで殴るとか、トラックでひき殺すとかは、抵抗がある。

 俺は考えた末、石を投げて追い払うことにした。


 道路に落ちている小石を拾う。

 小石とはいえ、顔に当たれば痛い。

 ゴブリンたちも逃げて行くのではないか?


 俺はそんな期待を持って小石を投げた。

 問題は、投げた小石が結界を通り抜けるかだが……。


「おっ! 通った! えっ!?」


 小石は結界を通り抜けゴブリンの顔面に命中した。

 そしてゴブリンの頭部を爆散させた!


「な、なんで!? そんなに強く投げてないぞ!?」


 俺は動揺し一人でわめきちらす。

 俺はキャッチボールをするくらいの力加減で小石を投げたのだ。

 まさか、ゴブリンの頭が砕けるなんて……。

 大惨事だ!


 残り二匹のゴブリンは、倒れたゴブリンをしばらく見ていたが、さらにヒートアップした。


「ギギギギ!」


「ギー! ギギー!」


 ゴブリンたちが何を言っているのかわからないが、『ふざけるな!』とか。『許さない!』とか言っているのだろう。

 先ほどよりも強く結界を叩いている。


 もう、これは倒さないとダメか……。


 俺は小石を拾い上げ、仕方なくゴブリンめがけて投げた。


 俺が軽く投げた小石は、空気を切り裂く音を発してゴブリンの頭部に着弾した。

 先ほどと同じ光景が繰り返され、ゴブリンの頭部が弾け飛んだ。


 グロイ……。


 続けてもう一匹のゴブリンにも小石を投げる。

 繰り返されるグロイ光景。


 俺は現代人だ。

 血や死体は見慣れていないので、ゴブリンの物だとしてもかなりキツイ。

 それでも無事に危機を切り抜けたことに満足し、仕方ないと自分に言い聞かせる。


「ううう……気持ち悪い……。だが、仕方ないんだ。身を守るため。これは正当防衛だ。正当防衛!」


 俺は移動販売車に乗り込み、町を目指した。


 移動販売車の結界といい、俺の力が増えていることといい、不思議なことだらけだ。

 だが、前向きに考えよう。

 違う世界で生き抜いていくためには、ありがたい力だ。


「神様仏様、異世界の神様、どうもありがとうございます!」


 俺は力を与えてくれた存在に感謝した。

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