第2話 昴の夢

もう少しで12月そろそろ雪が降り始める頃だ。今日もいつもと変わらず電車に乗る。電車はなぜか熱がこもる。乗客のことを考えて暖房をつけていると思うけど、まだつけるのは早いし設定温度も高すぎると思う。時間は過ぎるのが早い。こないだ定期テストをやったような気がするのにもう次の定期テストの一週間前だ。勉強は真ん中くらいで数学と化学は平均点を超えることができるが、比較的簡単な英語が苦手なせいで平均点を超えられず、学年では中間層にいる。今日は電車で英単語帳を開く。混んでいる満員電車でも英単語帳なら小さく、邪魔にならない。あとはスマホで音源を聴けば完璧だ。

「I was still hounted by a vivid nightmare I had lastnight.」

「When the time is ripe, be bold and go for it. I'll stand by you.」

本当にに変な英文ばかり。どうやって覚えればいいのだろう…

と意味もない文句も言いながらも、時は止まらず今日も学校に着く。



 授業はテスト前なのに変わらずどんどん先へ進む。どんどん、どんどんどんどん進んでいく。現国も言語(文化)も特に数学は酷い。テスト範囲はもうとっくの2ヶ月前には終わっており、復習するのが大変だ。そんな中今日も特に変わらず大和は安らかな寝息を立てている。12月になってからは先生も諦めたらしく、数学の鬼瓦先生も気にせずに授業を進めている。こいつは寝ていても国語以外は意外とできるのであまり気にしていない。しかし、隣の昴は一生懸命勉強している。こいつは逆で理系科目がからっきしだめらしい。

「ほんっとうにめんどくせ〜 ぁ゙〜 なんでここが仮定形になるんだよ。」

「ここの上の動詞が未然形だから、『未然形+ば』 で仮定形になるんだよ。」

「ほんっとうに意味わかんねえ〜 古文なんか今更使わないだろ。」

言い訳しながらうだうだする大和に昴が懸命に解説している。

「未来も笑ってないで助けてくれよ~ こいつじゃ何言ってるかわかんない。」

「は? お前が教えてくれって言ったんだろ!?」

「いや。たのんでねぇし。」

「いや〜」

昴は怒っているようだが大和に何をいっても意味がない。埒が明かないので悔しがって地団駄を踏んでいる。

「あ〜あ。古文なんかやんないでバドしようぜ。今日の昼休み確か体育館空いてたぞ。」

「お前はこのプリント終わらせなきゃだめだ。」

「堅いこと言うなよ昴。望や椋も誘ってさ。未来も行こうぜ。」

「よし、気晴らしにでも行くか。」

「そうこなくっちゃ。やっぱり持つべきはノリの良い友だよな。」

「はあ? 俺のノリが悪いってことか?」

「おい、もう生物始まるぞ。移動教室だ。じゃあな」

「おい、待て。はぁ~」

やっぱり大和には誰もかなわない。



「ほんっとあいつなんなん?」

定期テストが返ってきた。

「あんだけ遊んで、この点数かよ。」

さっき大和が持ってきたテストは見事に言語と現国以外全て成績優秀者に載っていた。

対する昴はギリギリ現国が載ったくらいでとても悔しがっている。

「まあまあ あいつはそういうやつだから。」

「お~い どうした?そんな暗い顔して。」

「ちょっとお前、何が『お~い どうした?』だ。俺の気持ちにもなってくれよ」

また大和がちょっかいをかけてくる。

こんなときに何も言っていない僕は前回から少し点数が上がって目の前の光景に苦笑いしながらいた。



冬休み明けは時間の流れが特に早い。もう高校入試が近くなっている。2月。今年の冬は大分暖かく去年の3月くらいの気温だ。でも電車の中はまだ暖房を炊いておりコートを着ているととても暑い。でも電車の中でコートを脱いでしまうと後々面倒なことになるので脱ぐか脱がないか。あまり重要でないことを考えてしまう…そんな事を考えながら今日も学校に着く。



最近昴が変だ。大和と同じで昔っからわかりやすい。なんかいつもよりずっと早くに学校にいて勉強しているし、いつもみたいに休み時間にちょっかいをかけてこない。

「昴、帰ろうぜ。」

「ごめん、この後塾なんだ。」

「そっか、じゃあね頑張って。」

そんなふうに帰っていく。

そして最後の模試が近づいてきた。

「やっぱりあいつなんかあったな。もっと遊ばなきゃ損なのにな〜」

「みんながみんな大和みたいじゃないからね。」

「そんな事はわかってるって。よし、あいつを呼び出そう。」

「たまにはいいんじゃない?少し息抜きさせるか。」

僕たちは翌日昴の靴箱の上靴の中にだいぶ漫画みたいに

『果たし状 今日の放課後。1年の空き教室へ来い。さもなくば命はない。』

などとわざとらしく新聞を切り抜いて書いた紙をおいた。

「流石にやりすぎじゃ…」

「これくらいがちょうどいいんだよ。あいつシャーロック・ホームズ好きだろ?」

「いや、そうだけど…話を聞くだけで大げさな…果たし状って…」

「まあ見てろって。」

大和はなんか楽しそうだ。



「未来、大和、僕何かやらかしたかもしれない…」

昴がなんか神妙な顔つきでやってきた。

「あ?」

「こんなのが靴箱に入ってたんだ。なにかしたかな…」

昴の顔が青ざめている。

「どうせ誰かにいたずらだろ? 念のためいったほうがいいと思うけどどうせなにもないよ。」

「そうだといいけど… こんなことやりそうなのは大和しかいないけど流石にしないもんな。二人ともついてきてくれるか。」

「ごめん。俺と未来は今日どっちも部活なんだ。」

「そっか…」

大和は何食わぬ顔で返事をしている。微塵の動揺も見せない。あいつは天才だ。

「やっぱりやばかったんじゃないの?まだ昴の顔青いよ。」

「まあ…大丈夫だって。」

「なに?今の間。」

僕は少し不安になった。

そして放課後。

僕らは空き教室の机の下に隠れている。望と椋にも協力してもらい、昴が入ったらすぐにドアを締めてもらうようにした。やっぱり二人は大和についていくだけあって、もの好きだ。

「誰か居ますか…」

昴が入ってきた。

「おい。お前どうしたんだ。」

「なんだ、大和どうしたんだ。お前なわけないよな。」

大和が切り抜いた新聞を見せた。

「おい、どういうことだ。」

「お前が最近変だからだよ。」

「はあ?そんなことないだろ。あっ未来。この状況を説明してくれ。未来?」

「何があったんだ?なんか最近変だよ。なんか隠してる?」

「お前まで。何にもないって。今日だって塾なんだ。早く帰らせてくれよ。」

「塾塾塾。よそよそしくされてるこっちの身にもなってよ。流石に心配になるんだよ。」

「お前らには関係ないし。」

「何が『お前らには関係ない』だ?」

「こっちが心配してやってるのに…」

「大和、落ち着いて。」

声を荒げる大和に昴が怯む。

「教えてくれよ。俺たち友達だろ」

「友達友達、いい加減いしてよ。なんでもできる大和にはわからないんだよ。」

「勝手にわからないって決めつけるなよ。たしかに俺はお前じゃない。だから本当のことはわからない。でもわかろうってしているから今ここに読んだんだろ。」

「もういい。帰る。」

「待って。昴少しでいいから最近何があったのか聞かせて。 というか大和も感情的になりすぎ。」

僕は昴の腕をしっかりと掴んだ。

「どうしたら早く帰してくれるんだ。言っとくけど未来に免じてだからな。それになんか扉も開かないし…」




「先々週、定期テストが返却されたくらいに治郎が死んだんだ。覚えてるか?あの金魚だよ。あいつが13年も生きていたのに急にポックリ逝っちゃって。調べたら白点病で…俺がしっかり水槽をきれいにしていなかったからなんだ。最近テスト続きで忙しくて。だから思い出さないように勉強してたんだけど…」

「たかが金魚だろ?」

「ちょっと大和ちょっと言い過ぎ。もう少しオブラートに」

大和は止まらない。

「それで俺等とも一緒に話さないってか。はあ。少し言ってくれたらよかったじゃん。」

「おまっ、そんな簡単なことじゃないんだぞ。13年だぞ13年。だから獣医になろうかなって。」

「あ〜あ。心配して損した。なら話してもいいじゃんかよ。」

「それは心の準備が…話していて悲しくなったら恥ずかしいし…」

「俺たちは友達だろ。恥ずかしいなんて。俺はわからわねえ。未来もだ。」

「そうだね。」

「獣医か…金魚って獣だっけ?」

「大和そんなことは別に関係ないしょ。それに動物病院で金魚を見てくれるところもあるよ。」

「そうなのか!?」

まだ不器用だが大和は結果的にはいい方向へ物事を持っていく力があるらしい。

「獣医…目標?夢か…」

もうすぐ春のまだ冷たいけどあったかい。そんな風が通り過ぎていく。

僕はまだ自分の夢を見つけられていない。でもこうしてそっと心にしまっている。

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