第162話:お昼休みに他愛無い話で盛り上がっていく

「も、もう! い、いきなりそんな事をするんじゃないわよ!」


 俺が突然匂いを嗅ごうとした事で紗枝はプリプリと怒り始めていった。なので俺は笑いつつもしっかりと謝っていった。


「あはは、ごめんごめん。これからはちゃんと事前にお願いしてから嗅ぐ事にするよ」

「いや事前にお願いされても絶対に了承しないわよ! は、はぁ、全くもう……それで? その……アナタは好きな色とかはあるの?」

「俺? あ、そっか。そうだよな。うーん、まぁかなりベタなんだけど俺は青色が一番好きかな」

「ふ、ふぅん? そうなんだ? ちなみにアナタは青色が好きな理由とかはあるの?」


 紗枝は少し気になる素振りを見せながら青色が好きな理由を尋ねてきた。


「いや、同じく単純な理由なんだけどさ……俺って暑いのが物凄く苦手なんだよ。それで青色を見てるとちょっと冷たそうに感じるからっていうだけの理由で青色が好きなんだ」

「ふぅん、なるほどね。まぁ確かに青色って有名な寒色だから、冷たそうに見える視覚効果はあるらしいわね」

「あぁ、寒色ってそんな効果があるらしいな。あ、でもそういえばさ、確か紫色も寒色の一つなんじゃなかったっけ? それじゃあ俺達ってもしかしたら似た物同士なのかもな? はは、そしたら俺達って相性も良いかもしれないなー」

「いや、お互いに寒色が好きってだけで似た者同士って決まる訳じゃないけど……ふふ、でもそうね。私達ってもしかしたら相性も良いのかもね?」


 俺が笑いながらそんなしょうもない軽口を叩いていくと、紗枝も笑みを浮かべながらちょっとだけ同意してきてくれた。


(何だか紗枝もちょっとずつポジティブな感じになってきてる気がするなー)


 昔だったら俺がこんなしょうもない軽口を叩いたら、紗枝はジト目をしながらすぐ否定してきた気がするんだけど……でも今は俺の軽口にも笑みを浮かべながら乗っかってきてくれた。


 俺はそんな紗枝のポジティブな変化にちょっとだけ嬉しくなってついつい笑みを溢していった。


「それにしてもアナタって暑いのが苦手なのね。それじゃあ夏場は特に辛いんじゃない?」

「あぁ、そうだな。夏は特にやる気が全然起き無くなるからマジで苦手だよ。だから俺は秋とか冬の方が圧倒的に好きだな。そういう紗枝はどうなんだ? どの季節が好きとかあるか?」

「私? うーん、まぁ私は暑さも寒さも全然耐えられるからどっちが苦手とかはないんだけど……でも季節で言うなら私は冬が好きよ。だって私の誕生日って一月だしね」

「えっ? って、あっ、そっか! そういえば……!」


 紗枝にそう言われて俺は唐突に思い出した。そういえば紗枝の誕生日って一月一日の元旦じゃん! 公式ホームページの紗枝のプロフィールにそう書いてあったじゃんか!


「? そっかって、どうしたのよ?」

「え……えっ!? あ、あぁ、いや、何でもないよ! そ、それで? 紗枝の誕生日って一月の何日なんだ?」

「一月一日よ。お正月が私の誕生日なの」

「へ、へぇ、そうなんだ! 紗枝は元旦が誕生日なんだな! へぇ、それは凄いなー!」


 という事で俺は紗枝の誕生日が元旦だという事を全く知らなかったようなリアクションを取っていった。だって今の俺が紗枝の誕生日を知ってるのは流石におかしいからな。


「いやお正月が誕生日なんて別に凄くも何ともないわよ。それにお正月が誕生日なせいであんまり私が祝われてる感じってしないのよね。新年をお祝いするついでに私の誕生日も祝われてるって感じが否めないのよ」

「あー、なるほどな。確かにそう聞くと大きなイベント行事と誕生日が被ってる人ってちょっとだけ損した気分になりそうだよな」

「そうそう、本当にそうなのよ。しかもお正月の二週間前にはクリスマスがあるでしょ? だから私の家ではクリスマスに大きなケーキを食べるからって事で、お正月にはケーキは食べないのよ。その代わりに豪勢なおせち料理を食べるって感じね」

「そっか、クリスマスと誕生日が近いとそういう弊害もあるのか。それはちょっと切ない気持ちになるな」

「えぇ、本当にね。しかもお正月って基本的に冬休みだから、友達から直接祝って貰えるのは休み明けとかになるのもちょっと切ないのよね。だからまぁそんな感じでさ、お正月が誕生日だからといってもそんな特別感みたいなのは全然無いのよね」

「ふぅん、なるほどな」


 という事俺は紗枝の誕生日についての話を色々と詳しく聞いていった。でもこれってつまり……。


(これってつまり……ここからすぐに“クリスマス”と“彼女の誕生日”という二大恋人イベントが連続でやってくるって事じゃんか!)


 しかも紗枝の誕生日についての話を詳しく俺にしてきてくれたって事はさ……これはもう俺に紗枝の誕生日を直接祝わせてくれるって事で良いんだよな?


 よし、それじゃあこうなったらクリスマスも誕生日も俺が全力で祝わせて貰うしかないよな! 今の内に紗枝のプレゼントも色々と考え始めていかなきゃだな!

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