第159話:改めてこれからもよろしくな

 俺は幸村と一緒にお弁当を食べていき、午後からもテニス部の練習試合を精一杯に応援していった。


 そしてそれから数時間後。夕方になるとテニス部の練習試合は全てが終了した。これで本日の部活は終わりだ。


 という事で俺はグラウンド近くのベンチに座りながら幸村の事を待っていた。


「えっと、待たせちゃってごめん……」


 するとさっきまでのテニスウェアからいつもの制服に着替え終えた幸村が俺の元にやって来た。


「あぁ、全然大丈夫だよ。それじゃあさっさと帰ろうぜ」

「うん。あ、でも、その……ちょっとだけ休憩していっても良い?」

「ん? あぁ、もちろん良いけど?」

「う、うん、ありがと。それじゃあ……」


―― ストン……


 そう言って幸村は俺の隣にそっと座ってきた。そしてそのまま幸村はちょっと緊張気味な様子で俺にこんな事を言ってきた。


「え、えっと……今日はありがとう。お弁当を作ってくれて本当に嬉しかった。それと応援も沢山してくれてありがとう。アナタの一生懸命な応援のおかげで今日は試合に勝てたと思ってるわ」

「はは、そっかそっか。それなら俺も頑張ってお弁当を作ってきたり応援をしてきた甲斐があったってもんだよ」

「う、うん。そ、それでね……今日のお返しとして今度はその……アナタのお弁当を私に作らせて欲しいの……」

「えっ? 良いのか? でもさっきは気が向いたらって言ってたような気が……?」

「う、うん。だってアナタがその……私の作るお弁当が食べたいって言ってくれたから……だから私……アナタに喜んでもらえるのなら……お弁当を作ってあげたいなって……」

「え、まじで? あはは、それは嬉しいなー。まぁでもあんまり無理しなくても良いぞ? だって幸村が料理苦手だって事は知ってるし――」

「ううん、それでも絶対に作るわよ! だって……だって……」

「幸村?」


 幸村はそこで喋るのを止めて一旦深呼吸をしていき、そして俺の目をじっと見つめながらこう言ってきた。


「だ、だってその……わ、私だって……私だって好きな男の子に喜んでもらいたいんだもの!」

「……え?」


 幸村は俺の目をじっと見つめながら大きな声でそう言ってきた。そしてそう言い切った瞬間に幸村の顔はどんどんと真っ赤になっていった。


 でも顔を赤くした幸村はそのまま俺の目をしっかりと見つめながら続けてこう言ってきた。


「私……アナタの優しい所が好き。嘘を付かずに真っすぐな所が好き。私が泣いてる時に何も言わずに寄り添ってくれる所が好き。過去をしっかりと反省して前に進もうと努力してる所が好き。他にも沢山……私にはアナタの好きな所が沢山あるの……」


 幸村は矢継ぎ早に俺の好きな所をどんどんと語ってきてくれた。


 そしてそこまで言った所で我に返ったようで少し顔を俯けた状態になりながらも、最後に振り絞った声で俺にこう伝えてきてくれた。


「だ、だからその……え、えっと、その……わ、私も……アナタの事が好き……です。だからその……私もアナタとその……お付き合い出来たら嬉しい……です」

「幸村……」


 幸村は顔を物凄く真っ赤にしながらも真剣に俺にそう言ってきてくれた。俺に向かってしっかりと“好き”だと、そして“付き合って欲しい”と伝えてきてくれたんだ。


 だから俺はそんな幸村に向かって……。


「あぁ、そんなのもちろんだよ。だって俺も幸村の事が大好きだからさ。だから俺で良かったら是非ともお付き合いさせてください」

「あ……う、うん。そ、それじゃあその……改めてよろしくお願い……します……」

「うん、こちらこそ。それじゃあ改めてこれからもよろしくな」


 そう言って俺は幸村に向かって優しく笑みを浮かべていった。すると幸村もそんな俺に向かって優しく笑みを浮かべてきてくれた。


 でもそれからすぐに幸村はハッとした表情になって俺にこんな事を言ってきた。


「あっ! で、でもちょっとだけ待って! そ、その……付き合うのに一つ注意があるんだけど!」

「え? 一つ注意って?」

「あ、あの……ま、まだ私達は高校生だから……だからその……アナタはその……今までに色々と経験があるのかもしれないけど……で、でも! こ、高校生の間は……え、えっちぃ事はしちゃ駄目なんだからね!」


 そう言って幸村は顔を赤くしたままジト目で両手を交差させて×のマークを作ってきた。


「え、えっちぃ事はその……ちゃんと大人になってからじゃないとやっちゃ駄目なんだからね! だ、だからその……そういう行為は高校卒業するまでは禁止だからね!」


 幸村は念押しする感じでもう一度俺に向かって全力で×のマークを作りながらそう注意してきた。


 でも何だか一生懸命にそう伝えて来る幸村の仕草がとても可愛らしく見えてしまい、俺はついつい笑っていってしまった。


「……ぷははっ」

「え? ちょ、ちょっと何を笑ってるのよ!? わ、私は本気で言ってるのよ?」

「あぁ、わかってるよ。ただちょっと……幸村ってやっぱり可愛い女の子だなって思っただけさ」

「え? な、何を言ってんのよ!?」


 この世界はNTRエロゲーの世界で、俺は毎回幸村がクズマに酷い目に遭わされるシーンばっかりを見てきたわけだけど……でも今この瞬間、俺の心の中は何だかとてもポカポカとした気持ちになっていっていた。


「はは、ごめんごめんって。もちろん幸村の注意にはちゃんと従うよ。まぁエッチな事をしたくないって言ったら嘘になるけど、でもそんな事よりも、幸村と一緒にご飯を食ったり、遊びに行ったり、勉強したりさ……幸村と一緒にいられるだけで俺は十分幸せなんだ。だから全然それで良いさ」

「う……そ、それはそれで何だか恥ずかしいんだけど……」

「はは、そんなに恥ずかしがらないでくれよ。あ、でもさ……」

「え? でもって……?」


 まぁせっかく彼氏彼女の関係になれたわけだし、俺は笑いながらこんな事を尋ねていってみた。


「でもさ、高校を卒業したら……その時は幸村といっぱいエッチな事をしても良いって事か?」

「え……えっ!? そ、それはまぁ……その……えっと……ちゃ、ちゃんと責任を取ってくれるのであれば……別に良いけど……」


 幸村は顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。やっぱり何とも可愛らしい女の子だよな。


「あぁ、もちろん責任は必ず取るよ。だからこれからもさ……ずっと一緒にいような? 紗枝」

「え……? あ……うん……ふふ……」


 俺は生まれて初めて幸村の事を“紗枝”と名前で呼んでみた。すると紗枝は顔を赤くしながらも柔和な笑みを浮かべてきた。


「ん? どうしたよ?」

「ううん、何だか……今アナタに苗字じゃなくて名前で呼ばれた時にね……あぁ、私ってアナタの彼女になったんだなぁ……ってちゃんと理解する事が出来て……何だかそれがちょっと嬉しくなっちゃってね」

「ふぅん、なるほどな? それじゃあ俺の事も“アナタ”呼びじゃなくて名前で呼んで欲しいんだけどな?」

「えっ? そ、それはちょっと……まだ恥ずかしいから、その……またの機会にって事でお願いしたいわ……」


 幸村は小さな声でそう嘆願をしてきた。


「はは、わかったよ。それじゃあいつか紗枝に名前で呼んでもらえる日を楽しみにしてるよ。よし、それじゃあもう暗くなる時間だしそろそろ帰ろうぜ? ほら」

「え? あ……う、うん……」


―― ぎゅっ……


 俺は紗枝の前に手を差し出していくと、紗枝はちょっとだけ恥ずかしそうにしながらも俺の手をぎゅっと優しく掴んできてくれた。


 こうして俺達はお互いに手を握り合いながらゆっくりと帰宅していった。


「ふふ……」

「ん? 今度はどうしたよ?」

「ううん。何だか前にもこんな事があったなーって思ってね」

「前にも? って、あぁ、もしかして紗枝がナンパに遭ってた時の事か?」

「うん、そうそう。あの時もアナタに手を握って貰ったけどさ……アナタの手って……凄く温かくて、それに凄く安心するのよね……」


 そう言いながら紗枝は俺の手をさらにぎゅっと力強く握りしめてきた。


「うん、だからこれからも……アナタとずっと手を繋いで歩いていけたら嬉しいわ」

「もちろん。俺だってこれからも紗枝と手をずっと繋いでいくつもりだよ。だからさ……これからもずっとよろしくな?」

「うん。こちらこそ。ずっと私の事を離さないでよね? もし一度でも離したりなんてしたら……ふふ、その時は承知しないわよ?」

「あぁ、もちろん。これからもずっと離すつもりなんてないさ。約束するよ」

「うん。信じてるからね……雅君」


 紗枝はそう言って満面の笑みを俺に見せていってくれた。そしてその紗枝の笑みは今まで見た中で一番綺麗で美しく……とても素敵な笑顔だった。


【第三章:初めてのデート編 終】


―――――――――

・あとがき


これにて第三章は終わりとなります、ここまで読んで頂きありがとうございました。


第三章ではヒロインの紗枝ちゃんと付き合う所まで書ききると決めていたので、そこまで到達する事が出来て本当に良かったです。


第四章はお付き合いを始めたばかりの紗枝ちゃんとのイチャイチャ話がメインとなります。

あとはゲーム主人公であったヒロ君と紗枝ちゃんの関係についても第四章でしっかりと決着を付けさせる予定です。


そして本編もこれで無事に折り返しに入る事が出来ましたので、ここからは後半戦となります。


ここから最後まで読者の皆様に楽しく読んで頂けるよう毎日頑張って執筆活動をしていきますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。


それでは最後に改めてここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

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