第157話:幸村の応援に出かける

 翌日の土曜日。


 今日は女子テニス部の練習試合の日だ。


「よし、それじゃあ頑張って作っていくとするか!」


 という事で俺はお弁当のオカズを作るために早起きをして準備をしている所だった。ちなみに今はメイン料理の材料を混ぜ合わせてる所だ。


「でもお弁当を作るなんて本当に久しぶりだな。こっちの世界に来てから初めての事だよな」


 俺はこっちの世界に来てからの昼飯はコンビニの菓子パンとかお惣菜パンばっかり食べていた。だって早起きして自分のお弁当を作るのって中々にメンドクサイしさ。


 でも今日は俺のお弁当じゃなくて幸村のためにお弁当を作るんだ。こんなのメンドクサイわけがない。むしろ楽しさの方が勝つに決まってるよな。


「さてと、それじゃあ材料の混ぜ終わったし、早速焼いていくかな!」


 という事で俺はお弁当のメイン料理をフライパンで焼き始めていった。そしてそれ以外の今日のお弁当のオカズも一つずつ丁寧に作っていった。


 そしてそれから程なくして。


「これで……良しと!」


 お弁当箱の中にオカズを一つずつ丁寧にしっかりと入れていき、とても彩り鮮やかなお弁当がようやく完成した。自分で言うのもアレだけど中々に美味しそうなお弁当だ。


「はは、喜んでくれたらいいな」


 俺はいつも頑張ってる幸村の姿を思い浮かべていきながらも、俺は笑みを浮かべてそう呟いていった。


 そして俺は幸村のために作ったそのお弁当を保温バッグの中に入れていき、それから俺はすぐに学校へと向かう準備をしていった。


◇◇◇◇


 それから数時間後。


 俺は幸村が所属する女子テニス部の応援のために学校へとやって来た。一応今日は土曜休みだけど学校に行くって事で今日はちゃんと制服で来た。


「おー、もう試合が始まってるな。それに凄く活気があって良い感じだなー」


 テニスコートの方に移動していくと、そこでは既に他校との練習試合が始まっていた。凄く活気があってとても白熱としてる様子だった。


 それに俺の他にも部員の友達とか家族とかがチラホラと応援しに来ていたので、男子生徒の俺がこの場にいても何ら不自然ではない状況になっていた。これは普通にありがたいな。


(よし、それじゃあ俺も周りの生徒達と同じようにここら辺で応援をしていく事にするかな)


 まぁ練習試合とは言っても試合な事には変わりないので、集中している部員達に近づきすぎるのも良くないよな。


 という事で俺は周りの応援に来てる生徒達と同じようにコートのフェンス外からノンビリと応援をしていく事にした。


「えぇっと、それじゃあ幸村は……お、いたいた!」


 フェンスの外から幸村の事を探していると、コートの奥側で念入りに準備運動をしているテニスウェアを着た幸村を見つける事が出来た。


 幸村は柔軟ストレッチをやったり、ちょっとだけ走り込んでウォームアップをしている所のようだ。


 いつも俺は机に向かってキリっと真面目に勉強をしている幸村の姿ばかり見てきていたので、今みたいに走り込んでウォームアップをしている運動部員な幸村の姿は何だかとても新鮮に見えた。それに……。


(うん、やっぱり幸村ってスポーツ万能な女の子だよな。それに腰回りも凄く細くて……って何言ってんだ俺は!?)


 チラチラとテニスウェアから幸村のほっそりとした腰回りがチラっと見えてそんな感想を抱いてしまった。


 でもそんなの確実にセクハラ案件だからあまり幸村の素肌は見ないように気を付けないとだな……。


「あー、見てみて! あそこにいるの榊先輩だよー!」

「え? あ、本当だ! 今日も凄く綺麗だねー!」

「本当本当! 私もあんなに可愛い女の子になりたいなー!」


(……うん?)


 すると俺の近くにいた生徒達が急にそんな事を喋りだしていった。どうやら噂の榊先輩とやらがちょうど今試合をしているようだ。


(えぇっと、確か榊先輩ってのは……テレビアイドル級に可愛い先輩なんだっけか?)


 確かちょっと前に黒木からそんな話を教えて貰ったんだよな。だから俺はその榊先輩とやらがどれほどの可愛い先輩なのかはちょっとだけ気になっていた。


 という事でせっかくの機会だし、俺もその榊先輩とやらの姿を見てみる事にしよう。


(さてさて、どれどれー……って、えええぇっ!?)


 という事でその生徒達が指差してた方に視線を送ってみると、そこにはガチでアイドル級に可愛らしい女子生徒がラケットを握って試合をしていた。あれが噂の榊先輩なんだろうな……!


(い、いや、マジで凄いな……本当に芸能界とかアイドルとかにいそうなレベルの可愛い女の子じゃん!)


 という事で俺はそんな感想を抱きながらついつい榊先輩の事を眺めていってしまった。だってそれほどまでに可愛い先輩だったんだもん。


 でも流石に見知らぬ女子生徒の姿をジロジロと見てるのは絶対に良くない事だと気づいたので、俺はすぐに視線をずらしていった。しかしその瞬間……。


「あ……」

「……」


 しかし視線をずらした先にはムスっとした表情の幸村が立っていた。そしてその目線からして、どうやら幸村はずっと俺の事を見ていたようだ。


 という事はつまり俺が榊先輩の姿を見ていたのは幸村にもバレてしまっていたという事だ。だから幸村はジト目になりながら俺の事を思いっきり睨みつけているんだな……。


「あ、あはは」

「……」


 まぁ完全に何の言い訳も出来ない状況だったんだけど、それでもとりあえず俺は苦笑いをしながら幸村に手を振っていってみた。


「……ふん」


 すると俺が手を振ったのに反応して幸村は顔をプイっと背けていってしまった。でも……。


―― ひらひら


 でも顔を背けつつも俺に対して手を振ってちゃんと挨拶を返してきてくれた。あぁ、良かった……どうやら怒っている訳ではなさそうだ。


 という事で俺はそこからは完全に集中して幸村の事だけを全力で応援していった。


◇◇◇◇


 それから数時間後。今はちょうどお昼になった所だ。


 なので周りの部員たちは各々お昼休憩を取り始めていっていた。応援に来ていた友達や家族と食べてたり、部員同士で食べてたりする感じで各々自由に休憩をしているようだ。


 そしてもちろん俺は幸村と一緒にお昼を食べる約束をしていた。だから幸村はすぐに俺の元にやって来たんだけど……。


「アナタ……榊先輩の事をジロジロと見てたでしょ?」

「え……って、え!? あ、ま、まぁ確かに見てたけど、でも別にそこまでジロジロと見てたわけじゃないからな……」


 でも幸村は俺の元にやって来たと思ったらすぐにジト目でそんな事を言ってきた。やっぱりもしかしたらちょっと怒ってるのかもしれない。


「ふん、どうかしらね? どうせアナタもあんなにも綺麗な先輩を直に見る事が出来て内心すっごく喜んでたんじゃないの?」

「い、いや、だからそんな事は……いや、白状するとそういう気持ちは若干あったわ」


 流石にあんなテレビアイドル級のオーラが出てる可愛い女子をリアルに見たのは初めてだったし、ついつい目が奪われた事も本当の事だったので、そこはちゃんと素直に白状していった。


「ほらね、やっぱり。ふん、それじゃあどうせ私の試合中もずっと榊先輩の事をじっと見てたんでしょ?」

「いや、そんな事はないって。榊先輩を見てたのはほんの少しの間だけだよ。それに試合中はずっと幸村の事しか見てなかったからな!」

「え?」

「だって好きな女の子がめっちゃ頑張ってるんだぜ? そんなの俺だって全力で応援するに決まってるだろ? だから本当におめでとう。幸村が無事に試合に勝てて本当に良かったよ」 

「え、えっと……う、うん、ありがとう。ま、まぁちょっと危なかったけど、でも何とか試合に勝てて良かったわ」


 という事で俺はそう言って先ほどの幸村の試合を全力で称えていった。それに俺は真剣に幸村の事をずっと応援してたという事もちゃんと伝えていった。


 すると幸村はジト目だったのから一転して嬉しそうに笑みを浮かべていってくれた。うん、やっぱり幸村は笑ってる姿が一番良いよな。


「よし、それじゃあお昼休みも限りがあるししさっさと飯を食おうぜ? ほら、これが今日作ってきたお弁当だよ」

「あ、う、うん、ありがとう……ふふ……」

「うん? どうしたよ? いきなり笑いだして?」

「え? あぁ、えっと、そういえば家族以外からお弁当を受け取ったのって今日が生まれて始めてだなって思ってね。それでお弁当の中身がわからないのも今日が初めてだから……何だかちょっとワクワクしちゃうなーって思ってね」

「あぁ、なるほどな。確かにそういうお弁当の中身がわからないってのも楽しそうだな。はは、それじゃあいつか俺にも幸村がお弁当を作ってくれよ? 俺もそんなワクワクを味わってみたいからさ」

「えっ!? い、いや、そ、それは……私が料理下手だって知ってるでしょ? だからそれだけはやめといた方が良いわよ……」

「いや、俺はそれでも食べたいって思うよ。だからさ……いつか俺のために作ってくれよ、な?」

「う……そ、そっか。そこまで言うのなら……まぁ、いつか……ね」


 幸村はちょっとだけ顔を赤くしながらそう言ってきてくれた。


(俺もいつか……ゲーム本編で見たように幸村が一生懸命に作ってくれたお弁当を俺も食べてみたいな)


 俺はそんな最高のエモいイベントシーンを思い出しながら、いつかそんな約束が果たされる事を夢見て一緒にお昼ご飯を食べていく事にした。

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