第155話:葛原君との帰り道(紗枝視点)

 それからしばらくして。


「何だかんだ言って結構な大荷物になっちゃったなー」

「えぇ、そうね」


 ちょうどスポーツショップでの買い物を済ませた私達はそう言いながらスポーツショップから出てきた所だった。


 そして私達の両手には買い物袋がぶら下がっているんだけど、葛原君の方が重い荷物を率先して持ってくれていた。


「え、えっと、その……重い荷物を持ってくれてありがと」

「んー? はは、別に良いよ。全然重くないし気にすんなって。それじゃあさっさと学校に戻ろうぜ?」

「え? あ、う、うん、わかったわ」


 私がそんな感謝の言葉を葛原君に伝えていくと、葛原君はいつも通り飄々とした態度でそう言ってきてくれた。


 どう見ても葛原君の持ってる買い物袋の方が私の持っている買い物袋よりも遥かに重いはずなのに、それなのに葛原君は嫌な顔を一つもせずに買い物袋を持って行ってくれていたんだ。


 私はそんな葛原君の姿を見て……。


(あぁ、葛原君って……本当にすっごく優しい男の子だよね)


 私はそんな事を思いながら葛原君の姿を見続けていった。そういえばさっきも葛原君は優しい言葉を私に送ってくれたよね……。


―― これからもいつでも困ったら俺に言ってくれよ? 幸村のためならいつでも力になるからさ。


 さっきも葛原君はそんな優しい言葉を私に送ってくれた。葛原君っていつも私に対して優しい言葉を送ってくれるんだよね。


(ふふ、やっぱり葛原君っていつも優しいなぁ……)


 そして私はそんな事を思っていくと、何だか心の奥がポカポカとしだしてきた。何だか最近は葛原君と一緒に居ると心が温かくなる事が多い気がするわね。


「ん? どうしたよ、幸村?」

「え? あ、あぁいや、何でもないわよ」

「そうか? それなら良いんだけど。ってか何だか今日は車が沢山走ってんなー。もしかして帰宅時間とかと被っちゃったのかな?」

「う、うん、そうかもしれないわね。あとは最近寒くなってきたから車を使う人もちょっとずつ増えてきたんじゃないかしらね?」

「あぁ、なるほどな。確かにここ最近で一気に寒くなってきたよなー。あ、とりあえず歩く時は車にはちゃんと気を付けろよ?」

「え? あ、そうね。うん、注意してくれてありがと」

「おうよ」


 大通りを抜けて細い路地を歩いていると葛原君は私に向かってそんな注意の言葉を送ってきてくれた。


 うん、確かに今日は車がちょっと多い気もするわね……って、あっ……。


「……あっ」


 でもそんな話をしている時、私はとある事に気が付いてしまった。


 そういえば葛原君って……いつも私と一緒に外を歩いている時は必ず車道側の方を歩いてくれていたんだ。今日だって葛原君は何も言わずに車道側の方を歩いてくれている。


 いつも葛原君は私の安全のために必ずそっち側を歩いてくれていたんだ。その事に私は今まで気が付いていなかった。


(そっか……葛原君ってそういう細かい所にも気を配ってくれてたんだね……)


 でも葛原君が気を配ってくれてたのはそれだけじゃないよね。


 葛原君は重い荷物を率先して持ってくれるし、映画に行った時には私が寒くならないようにブランケットを持ってきてくれた。そして外を歩く時は私が危なくならないように必ず車道側を歩いてくれる。


 うん、そうだよね。今までの事を思い返してみると、葛原君っていつも私の事を気にかけてくれてたんだよね。


 そしてそれはきっと……私の事をちゃんと一人の女の子として接してきてくれてた証だよね。


(こんなにも私の事を女の子扱いしてくれてるのは……葛原君が初めてだよ……)


 それに葛原君はいつも私に対して必ず本音で喋ってきてくれる。まぁ時々冗談みたいな事も言ってくるけど……でも私を傷つけるような事は絶対に言わないんだ。


 そして葛原君は私の事を好きだって事もちゃんと言葉で真剣に伝えてきてくれる。しかもそれだけじゃなくて、私の好きな物も全部知ろうと努力してくれる。私の好きな本とか映画とかにも興味を持って沢山話しかけてきてくれる。


 こんなにも優しくて誠実で私の事を真っ正面から全部知ろうとしてくれる人なんて……そんなのきっと葛原君しかいないよね……。


 うん、だから……そうだよね。私は……ううん。私も……。


(……うん。私もそんな誠実な彼の事が……葛原君の事が……好きなんだ……)


 私は改めて……葛原君の事についてそう思っていった。うん、やっぱり……私は葛原君の事が好きなんだ……。


「? どうした幸村? 何か急に顔が赤くなってるけど?」

「え……えっ!? い、いや、何でも無いわよ!!」

「そ、そうか? まぁ幸村がそう言うならいいけど……」


 葛原君にそう言われて私は咄嗟に誤魔化していった。どうやら今の私は顔が真っ赤になっているらしい。


 でも私は顔が真っ赤になっているからと言って、今の私は恥ずかしいとか嫌だなとかそういう負の感情には一切なっていなかった。むしろ私は……。


(ふふ、やっぱりそうだよね……私って……葛原君の事が好きだったんだなぁ……)


 私はようやく自分の気持ちに整理がつける事が出来たので、今の私はとても嬉しい気持ちになっていっていた。そしてだからこそ……。


(葛原君は私に対して誠心誠意を込めて真剣に告白をしてきてくれたよね。それじゃあ今度は……今度は私が誠心誠意を込めてちゃんと葛原君に言わなきゃだよね……)


「あ、あのさ……」

「ん? 今度はどうしたよ?」

「う、うん。あ、あのね……その……今度の土曜日さ……暇だったりする?」

「え? まぁバイトも無いし暇だけど? でもそれがどうしたよ?」

「そ、そっか……。そ、それじゃあさ……実はその、土曜日に女子テニスの部活で他校との練習試合があるのよね」

「え、そうなのか? あ、もしかして……前にテニス部の試合があったら教えてくれって言ったのを覚えていてくれたのか?」

「う、うん、そうよ。だからその……良かったら……アナタに応援に来て貰えたら嬉しいなって……」


 まぁこれ自体は前々から葛原君に伝えるつもりの話だった。だって練習試合があったら教えるって前から約束してたし。


 でもせっかく伝えたのに葛原君に来るのを断られちゃったらどうしよう……って思って、私は内心ちょっとだけ緊張してしまっていた。だけど葛原君は……。


「あぁ、わかったよ! もちろん絶対に幸村の応援に行くよ! 練習試合の事教えてくれてありがとな!」

「そ、そっか。うん、それなら良かった。でも断られたらどうしようかと思ったわ……」

「あはは、何で俺が幸村のお願いを断るんだよ。あ、それじゃあ約束通りちゃんと幸村のお弁当を持って応援に行くからな!」

「あ……う、うん! 葛原君のお弁当……楽しみにしてるわね」

「あぁ、了解!」


 葛原君は凄く嬉しそうな笑みを浮かべながら絶対に応援に来てくれると言ってきてくれた。そんな葛原君の嬉しそうな笑みにつられて私も一緒に笑みを浮かべていった。


(ふふ、葛原君がテニス部の応援に来てくれるなんて……何だか凄く嬉しいな)


 そして土曜日の部活が終わったら……今度は私の方から葛原君に誠心誠意を込めてちゃんと伝えよう。私も葛原君の事が……。

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