第154話:幸村の買い出しの手伝いをする
それからしばらくして。
「おかえりなさい」
「あれ? うん、ただいま」
学食で昼飯を食い終わって教室に戻ってくると、既に幸村は一足早く教室に帰ってきていた。
という事で俺は幸村にそう返事を返してから自分の席に座っていった。
「幸村の方が帰ってくるの早かったんだな。それで、女子テニス部の部長さんの話って一体何だったんだよ?」
「あぁ、うん。部費の追加申請が通ったから、足りなくなった備品の購入をしに行って欲しいって話だったわ」
「へぇ、そうなんだ? 備品購入をしに行くなんて結構大変そうな仕事っぽいな」
「うーん、まぁそうね。足りなくなった備品も結構多いから駅前のスポーツショップに何往復かしないと駄目そうでちょっと憂鬱だわ。はぁ……」
幸村はそう言いながらため息をついていった。
「あー、駅前のスポーツショップまで行かないといけないのか。そっか、それは普通に大変だな……って、あれ? でも何で幸村が女子テニス部の備品購入をする担当になってるんだ?」
「あぁ、基本的に部費は部長か副部長しか触れない事になってるのよ。だから備品購入は部長か副部長が買いに行く事になってるの。でも受験勉強で大変な榊部長に買いに行ってもらうのは申し訳なさすぎるから、今回は副部長の私が買いに行くって話になったのよ」
「ふぅん、そうなんだ……って、えぇっ!? 幸村って女子テニス部の副部長だったの?」
「え? うん、そうだけど?」
俺はそんな事は全然知らなかったので普通にビックリとしてしまった。でも責任ある役職についているのは何だか真面目な幸村らしいなって思っていった。
「なるほど。だから副部長の幸村が女子テニス部の備品購入に行くって事か……って、あ、そうだ。それじゃあさ、良かったら俺もその買い出しに付き合おうか?」
「え? アナタが?」
「そうそう。備品購入って事は重たい荷物とかもあったりするだろ? それなら男手もあった方が何かと便利じゃないか?」
それに幸村が所属しているのは女子テニス部だしな。だから男手が欲しくても男子部員が一人もいなくて困ってるかもしれないよな。
俺はそう思って幸村に買い出しの手伝いをしようかと言ってみたんだ。
「え、えぇっと、いやその申し出は凄くありがたいんだけど……でも良いの? 買い出しなんて別に面白くも何ともないわよ?」
「あぁ、そんなの全然良いよ。まぁもちろん幸村が迷惑じゃ無ければだけどな」
「そ、そんなの迷惑なわけないでしょ。そ、それじゃあその……お願いしても良いかしら?」
「あぁ、わかった。それじゃあ備品を買いに行く時は一緒に付いて行くからまた連絡してくれよ」
「えぇ、わかったわ」
という事で俺は幸村と備品の買い出しに行く約束を交わしていった。
◇◇◇◇
それから数時間後の放課後。
「それじゃあ……今から買い出しに付き合って貰っても良いかしら?」
「あぁ、もちろん大丈夫だよ。確か駅前のスポーツショップに行くんだよな? それじゃあさっさと行こうぜ!」
「え、えぇ、わかったわ」
そう言って俺達は教室から出ていき、そのまま駅前にあるスポーツショップへと向かって歩いていった。
「でも幸村も大変だよな。塾の勉強したり部活したり、さらには備品購入までやったりと……はは、本当に幸村は偉いよなー」
「い、いや別にそんなに偉くないわよ。それに私だって普通に趣味とか遊びとか自分のために時間を使ってる事の方が多いからね?」
「へぇ、そうなんだ? あ、そういえば幸村って休みの日は塾とか部活以外だと何をしてる事が多いんだ?」
俺はスポーツショップに向かうその道中でそんな他愛無い話を振って行ってみた。
「うーん、まぁ本を読むかサブスクの動画サイトで映画を見る事が多いかな。あとは最近だと甘いお菓子を買いにコンビニとかスーパーに行く事も増えたわね。最近は勉強する事も凄く多くなってきたから糖分補給のために甘いお菓子を食べる量がちょっと増えちゃってね……」
「あぁ、そうなんだ? でも甘い物を沢山食べるってのは凄く良い事だぞ。脳の休憩には糖分補給が大事だって言うし、それに甘い物を食べるのって凄く幸せな気分になれるから最高なんだぜ!」
「ふふ、熱弁をしてる所悪いけど、アナタは甘い物を食べすぎな気もするけどね?」
大の甘党な俺がそんな事を熱弁していくと幸村は笑いながらそうツッコミを入れてきた。
「はは、まぁ確かにそうかもな。って、あ、そうだ。そういえば今日はスポーツショップではどんな物を買っていくんだ? やっぱり重そうな荷物が多い感じかな?」
「あ、そういえばアナタにはまだ何を買いに行くのか伝えてなかったわね。えぇっと、今日買いに行くのは……テニスボールとグリップテープにガットテープ、あとはテーピングとかの消耗品が多数って感じね」
「ふむふむ、なるほどな」
幸村は鞄の中から小さな紙を取り出して今日買いに行く物を俺に教えて言ってくれた。どうやらその小さな紙に今日の買いに行くリストが書かれているようだ。
なのでせっかくなので俺はほんの軽い気持ちでその小さな紙をチラっと覗き込んでみた。すると……。
「……何でクマ?」
「え? って、あっ!?」
するとその紙の隅っこに可愛らしくデフォルメにされたクマのイラストが描かれていた。おそらくその可愛いクマのイラストは幸村が書いた落書きなんだろう。
「ちょ、ちょっと! 何勝手に見てるのよ!?」
「はは、そんな恥ずかしがるなよ。めっちゃ可愛いイラストじゃん。それって幸村が書いたのか?」
「う……そ、それはまぁ……そうだけど」
幸村は顔を赤くしながらそう答えていった。普段はとても真面目なのに紙の隅っこに落書きをしてるってのは何だかギャップがあって凄く可愛いなって思っていった。
「……な、何ニヤニヤと笑ってんのよ? ふん、どうせこんな落書き書いて子供っぽいなって思ってるんでしょ?」
「いやいや、全然そんな事思ってないよ。むしろめっちゃ真面目な幸村がこんな可愛いイラストを書いてると思うと何だか可愛いなって思ったくらいだ」
「なっ!? も、もう……そうやって何度も可愛いって言うの禁止よ!」
そう言って幸村はジト目で睨みつけてきた。まぁでも別に本気で怒ってるわけじゃないのはわかっているので俺は笑いながら受け流していった。
「はは、悪かったって。それと今日買いに行く物を教えてくれてありがとな。それじゃあ今日は重い物ってよりも細々としたものが沢山あるって感じかな?」
「え、えぇ、そうね。だから私一人だけだったら何往復かしなきゃ駄目そうだったから……だからアナタが手伝いに来てくれて凄く助かったわ」
「あぁ、それなら良かったよ。俺も幸村の役に立てるなら凄く嬉しいからさ、だからこれからもいつでも困ったら俺に言ってくれよ? 幸村のためならいつでも力になるからさ」
「えっ? う、うん。そ、その……本当にありがと……」
俺はそんな事をしっかりと幸村に伝えていきながら、それからも俺達は他愛無い話をしながら駅前のスポーツショップへと向かって行った。
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