第152話:幸村の好きな小説

 その日のお昼休み。


 俺は幸村と一緒に教室で昼飯を食べていた。


 少し前に幸村とこれからは一緒に昼飯を食べようって約束をしたので、お互いに何の用事も無ければ基本的に毎日一緒に昼飯を食べるようにしているんだ。


「あ、そういえばさ」

「うん? どうしたのよ?」


 そして俺は昼飯を食べてる時に、ふと幸村にこんな事を尋ねていってみた。


「いや結構昔の話なんだけどさ、幸村って笹原駅にある大きな本屋にサイン会に行った事があっただろ?」

「あぁ、うん。そんな事もあったわね。アナタがまだまだヤンチャな男の子だった頃の話よね?」

「う……今は猛省してるんだから許してくれよ……」

「ふふ、もちろんわかってるわよ」


 俺がそんな事を言っていくと幸村はクスクスと笑いながらそんな冗談めいた事を言ってきた。まぁ幸村が冗談でそう言ってきたのはわかってたので俺もわかりやすくうなだれていった。


「ふふ、それで? そんな昔の日の話を持ち出して一体どうしたのよ?」

「あぁ、すっごく今更なんだけどさ……そういうえばあの時に幸村がサイン会で買った本って一体何だったんだ?」

「……へ? いや何でそんな昔の事を聞くのよ?」


 俺がそう尋ねると幸村はキョトンとした表情で首を傾げてきた。だから俺は今更その事が気になった理由を答えていった。


「いや、幸村がサイン会に行くって事はよっぽどその作者の事が好きなんだろ? やっぱり好きな女の子の好きな物はちゃんと全部知っておきたいなって思ってさ」

「あぁ、なるほど、そういう事……って、はぁっ!?」


 俺がそう言ってくと幸村はビックリとした表情になっていき顔も真っ赤になっていった。


 でもそれからすぐに幸村はいつも通りジトっとした目つきになりながら俺の事を全力で注意してきた。


「ま、真面目な顔をしながら何て事言ってんのよ!? そ、そういう恥ずかしい事を言うの禁止よ! は、はぁ、全くもう……」

「はは、俺にとっては事実を言ったまでなんだけどな?」

「うっ……だ、だから、もう……うぅ……」


 顔を赤くしながら慌てふためく幸村の様子を観察しながら俺はそう言った。やっぱり幸村って世界一可愛い女の子だな。


「あはは。まぁそんなわけで話を戻すんだけどさ……そのサイン会に行った作家さんは幸村にとってはめっちゃ好きな作家さんって事なんだろ?」

「えっ? あ、あぁ、うん、それはまぁそうね。私が今一番推してる作家さんなのよ。推理小説を書いてるお爺ちゃん先生なんだけどね」

「へぇ、そうなんだ。って、あぁ、そっか。そういえば幸村って推理小説が一番好きなんだっけか?」

「え? え、えぇ、そうなのよ! 推理小説って色々と考えながら読めるし、謎が全部解けた時のスッキリ感も本当に最高なのよね! それでその作家さんの作る推理小説が……」


 俺がそう尋ねると幸村はイキイキとした様子になりながら俺に推理小説の楽しさを語ってきてくれた。


 そしてその様子から幸村が推理小説が凄く大好きだという気持ちがとても伝わってきた。


「そっかそっか。それは確かに面白そうだな。うん、それじゃあさ……俺にもそのお爺ちゃん先生のオススメ小説を貸してくれないか?」

「うん、もちろん良いわよ! ……って、えぇっ!? も、もしかして……私の読んでる推理小説をアナタも読むつもりなの?」

「はは、そりゃあ読む以外に小説を借りる理由ってないだろ。幸村がそんなにも楽しそうに話すって事は相当面白いんだろ? だから良かったら俺にもその幸村の大好きな推理小説を貸してくれよ。そしたらすぐに読むからさ、また一緒に感想会とか開こうぜ?」

「え……?」


 俺は軽い感じで幸村にそんなお願いをしていった。でも幸村は俺の言葉を聞いて何故かビックリとしたような表情を浮かべながら急に固まってしまった。


(あれ? 俺何か変な事を言ったかな?)


 幸村が急に固まってしまった理由がわからずに俺はキョトンとしながら首を傾げていった。


 でもそれからすぐに幸村は正気に戻ったようで慌てた感じで俺にこう言ってきた。


「あ……う、うん、わかったわ! あ、それじゃあ……じ、実はさ、そのお爺ちゃん先生が書いた新作の小説があるんだけど……もし良かったらそれを貸してあげましょうか? も、もちろんその小説もすっごく面白かったわよ!」

「へぇ、そうなんだ? そのお爺ちゃん先生の新作の小説があるのなら是非とも読んでみたいかも! それじゃあ良かったらその小説を貸してくれるか?」

「っ! う、うん! わかった! それじゃあ早速明日持って行くわね……ふふ!」

「あぁ、わかった」


 という事で明日は幸村から最推しのお爺ちゃん先生の書く推理小説を貸してもらえる事になった。幸村の大好きな小説を借りれるなんて今から本当に凄く楽しみだよ。


(うーん、だけど幸村の顔……何だか凄く嬉しそうだったよな?)


 推理小説の貸し借りの話でここまで満面に喜んだ表情をしてくれるとは思わなかったので、俺はそんな幸村の表情にちょっとだけ不思議に思っていった。


―――――――――

・あとがき


第三章についてですが後7話ほどで終わる予定となっています。

9月の初旬には第三章も終わると思いますので、最後まで楽しみながら読んで頂けたら幸いです。

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