第149話:買い物中にヒロと遭遇する(紗枝視点)
翌日の午後。
私はお母さんに頼まれて晩御飯の買い物をするために駅前のスーパーに来ていた。
「ふぅ、これで買い物は全部終わったわね」
そして頼まれた買い物を全て終えた私は買い物袋を手に持ってスーパーから出て行こうとした。するとその時……。
「って、あれ? 紗枝じゃん?」
「んー? って、あぁ、ヒロじゃない。お疲れ様」
「あぁ、お疲れさん」
するとスーパーから出ていった瞬間に私はヒロと遭遇した。
という事で私はいつも通りな感じでヒロに挨拶をしていくと、ヒロもいつも通り気さくな感じで私に挨拶を返してきた。
「もしかして紗枝はスーパーで買い物をしてた感じか?」
「えぇ、そうよ。お母さんに頼まれて晩御飯の食材を買ってきたのよ。ほら、これ」
そう言って私は手に持っているスーパーの買い物袋を持ち上げてみせていった。
「へぇ、そうだったんだ。はは、でもせっかくの日曜日なのにお使いとか大変だなー」
「別にそんな大変でもないわよ。今日は塾も無くて暇だったしね。そういうヒロこそ何してたのよ? 手には何も持ってないし、ひょっとしてヒロも買い物に来たのかしら?」
「ん? あぁ、いや、俺はさっきまでちょっと外に遊びに出かけてたんだよ。それで今はその帰りだよ。あ、紗枝も今から帰る所だったら良かったら一緒に帰らないか?」
「えぇ、別にいいわよ。それじゃあ一緒に帰りましょ」
という事で私はヒロと一緒に帰宅する事にした。私達は色々と他愛無い話をしながら住宅街の道を歩いて帰っていった。
「あはは、やっぱりそうだよなー……って、それにしても今日は何だか車多いな。さっきから住宅街の道を通り抜ける車多いよな。やっぱり休みだからかな?」
「うん、多分そうなんじゃない? それに最近はだいぶ寒くなってきたし、やっぱり買い物とかも車で行く人が多いんじゃないかしらね?」
「あー、確かにそうだよな。最近どんどんと寒くなってきたよなぁ……」
そんな感じで本当に他愛無い雑談をしながら私達は住宅街の道を歩いて帰って行っていた。そしてその時、ふと私はこんな事を思っていった。
(うん、やっぱり……ヒロと二人きりで一緒に歩いてても昨日みたいな気持ちにはなってないわよね)
昨日は葛原君と一緒に歩いている時はすっごくドキドキとしたのに、今目の前にいるヒロにはそういうドキドキとした気持ちは感じられなかった。
まぁ昨日はデートという特別な状況だったからというのもあるだろうけど、でも今目の前に葛原君がいたら絶対にドキドキとしてると思うし……うーん、この違いって一体何なんだろうね?
「? どうしたよ紗枝? 何か変な顔してんぞ?」
「え……えっ? い、いや、何でもないわよ」
私の様子がとても変だったようでヒロはキョトンとした顔でそんな事を言ってきた。なので私は慌てながら何でもないと言って誤魔化していった。
「そうか? その割には何か上の空のような感じだったけど?」
「い、いや、本当にそんな事ないから気にしないで良いわよ。って、あ、そうだ。そういうヒロは今まで何処に遊びに行ってたのよ?」
「え? あぁ、俺は普通に友達とゲーセンで遊んでた所だよ」
「へぇ、そうなんだ? ……って、いや、友達と遊んでた割には帰ってくるのちょっと早くない? まだ午後の3時よ?」
「あー……いやちょっと前に俺の友達に彼女が出来たって話しただろ? そんで今日はその友達と遊んでたんだけどさー……でも夕方から彼女と晩飯を食うからって事で今日は早めに解散する事になってたんだよ。くそー、あの裏切者めー……」
ヒロは口を尖らせてちょっと不貞腐れたような態度を取りながらそんな事を言ってきた。
「へぇ、そうなんだ。でもその口ぶりだと事前に早めに解散するって決まってたんでしょ? それなら早めに解散するのはしょうがないじゃないのよ。というか彼女さんの事を大事にしてるなんて凄く微笑ましい事なんだし、ヒロも裏切り者なんて言わずにちゃんと祝福してあげなさいよ?」
「いや、そりゃあもちろん祝いたい気持ちだってあるけどさ、でもやっぱり一人だけ抜け駆けして彼女を作ってるのはズルいっていうかさー……」
「ふぅん……? いやというかさ、そんな不貞腐れくらいならヒロも彼女とか作ったらどうなのよ?」
「え……って、は、はぁっ!? い、いや別に俺は彼女が欲しいと思ってる訳じゃないし、普通に友達と遊んでる方が100倍楽しいってか……そ、そもそも不貞腐れて何かいないかなら!」
「え、そうなの? ふぅん、そうなんだ……?」
ヒロは早口になりながらそんな事を言ってきた。不貞腐れた態度を取っているから普通にヒロは彼女が欲しいんだろうなって思ってたのでちょっと意外だった。
「な、何だよその態度は? そ、そういう紗枝だって俺と同じ考えなんだろ? ちょっと前に紗枝だって今は彼氏なんか要らないって言ってたじゃん? だから紗枝も俺と同じで恋人を作ってイチャイチャするよりも、友達とワイワイウェーイってノリで遊ぶ方が楽しいって思ってんだろ?」
「え? いや、私は別にそこまでは思わないけど……と、というか私だってその……私の事を大切にしてくれる人となら普通にお付き合いしたいと思うし……」
「……へっ?」
私は顔を赤くしながらそう言っていった。そしてその瞬間、私の脳裏にはとある男の子の姿が思い浮かんだけど……でもそれは秘密にしておこう。
「え……って、えぇっ!? さ、紗枝ってそういう願望があったのかよ!?」
「い、いや、あったというか……そもそも普通に皆多かれ少なかれそういう願望は持ってるものでしょ。ヒロみたいに100%恋人よりも友達と遊びたいっていう子の方が稀な気がするけど?」
「え……えっ!? い、いや、それは何というか言葉のあやというか何というか……」
「? どういう事よ?」
「えっ? い、いや、それはその……」
私がそう尋ねていくとヒロはどんどんと言い淀んでいった。うーん、私は別に変な事を聞いたつもりはないんだけど……でも何でヒロは言い淀んだ感じになっているんだろう?
「あ、いや、えっと……って、そうだ! それじゃあ紗枝はどんな男と付き合いたいとかってあるのかよ? 紗枝が付き合いたいと思う男の条件というかさ……」
「えっ!? え、えぇっと、それはその……」
そんなタイムリー過ぎる事を尋ねられたせいで、私もヒロと同じように顔を赤くしながらどんどんと言い淀んでいってしまった。
―― 好きだよ
「……っ……」
そしてその瞬間、気づいたら私の脳裏にはまたとある男の子の姿が思い浮かんでいっていた。
で、でもそれはあくまでも頭に思い浮かんだというだけだからね。彼とお付き合いをしたいかどうかはまた別の話だからね!!
「? どうしたよ?」
「えっ? あ、あぁ、いや何でもないわよ! えっと、その……まぁやっぱり私の事をちゃんと一人の女の子として接してくれる優しい人が良いわよね。そ、それで私もその人の事をちゃんと知っていて、それで何というかその……わ、私も好きだなーって思えるような人とお付き合いしたいわね……」
「へぇ、紗枝の事を女の子扱いね……って、あはは! それじゃあそのためにはまず紗枝自身が可愛らしい女の子になる所から始めなきゃ駄目なんじゃねぇかな? とりあえず一番最初にすぐ怒るクセを治さなきゃだなー」
「う、うるさいわね。そういう事ばっかり言ってると殴るわよ」
私は手に持っている買い物袋を持ち上げてヒロにぶつけるようなジェスチャーをしていった。
「はは、悪い悪い。でもそうやってすぐに手が出そうになる所とかどうにかした方が良いぜ? だってそんな女らしくない事ばっかりしてるヤツは絶対にモテないからな! あはは!」
「う……」
ヒロは笑いながらいつも通りまたそんな軽口めいた事を言ってきた。
ちょっと前に陰口でそんな事を言われて傷ついた事もあったけど、でも最近はもう幾ら馬鹿にされても私は何とも思う事はなかった。
それはきっと綾子さんの話を聞いてこれからはもっと自分本位に生きようと思ったからだ。
だから今日もヒロにそんな軽口めいた事を言われても全然平気だと思ったんだけど、でも……。
(どうしよう……葛原君に女らしくないとか可愛くないって思われるのだけは……それだけは絶対に嫌だな……)
何だか今日のヒロの言葉は久々に私の心にかなり深く突き刺さってしまった。手に持っている買い物袋もいつも以上にズシンと重くなってきた気がしてきた……。
そんな感じで私は何だか凄く落ち込んでいきながらも、その後も私はヒロと一緒に軽く雑談をしながら自宅へと帰っていった。
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