第145話:映画館に到着

 それから数分後。


「ふぅ、ようやく着いたけどやっぱり映画館は人が多いなー。まぁ土曜日だから仕方ない事なんだろうけどさ」


 という事で俺達は目的地の映画館にやってきたんだけど、でも映画館の中は既に多くの人で賑わっていた。


「えぇ、そうね。まぁそれに公開されたばかりの作品だから人が多いのは当たり前の事よ」

「確かにそれもそっか。でもこれだけ人が多いとチケットを事前予約しておいて正解だったな。よし、それじゃあ早速券売機の方に行って今日のチケットを発券しようぜ」

「えぇ、わかったわ」


 という事でそう言って俺達は映画館の券売機の方に向かっていった。映画のチケットは数日前に事前に購入しておいたので、あとは発券するだけで大丈夫だ。


「これでよしと。はいよ、それじゃあこれ。今日の映画のチケットだよ」

「うん、ありがとう。事前にアナタの方でチケットを予約購入しておいてくれて本当に助かったわ」

「はは、良いって事よ」


 俺はそう言って幸村に今日のチケットを手渡していった。そして何となくそのまま俺は辺りをキョロキョロと見渡していった。


「うーん、それにしても……まぁ何となく予想はしてたけどやっぱり周りの人達はカップルで来てる人が多い感じだなー」

「え? あ、う、うん、まぁそうみたいね……」


 やっぱり恋愛映画という事もあってか、映画館にはカップルのような組み合わせの人達が多そうに思えた。


 そしてそんな映画館の様子を見て幸村はちょっとだけ緊張をしていってるようだった。


(まぁそりゃそうだよな)


 カップルが多い場所に同級生の男子と二人きりで遊びに来たって考えると、まぁ幸村が急に緊張しちゃうのも無理はない事だと思う。俺だって実際に高校生だった頃にこんなシチュエーションがあったら絶対に緊張してるだろうし。


 まぁでも俺はそんな緊張してる幸村の事を変に茶化したりはせずに、むしろ幸村が緊張している事に気がついていないフリをしておいてあげた。俺が幸村だったら緊張してる事に絶対に気づかないで欲しいって全力で願うだろうしさ。


 という事で俺は緊張してる幸村の事はひとまず置いといてそのまま辺りをぐるりと見渡していった。7割くらいはカップルで、残りの3割は友達同士で来たって感じの構図に見えた。


(うーん、これはド派手な金髪&ピアスをさっさと辞めて正解だったな)


 こんなにもカップル達が多い場所にあんな超ドヤンキー姿のままで来ていたら完全に場違いだったもんな。それに周りの人達も確実に怖がらせちゃっただろうしな。


 そしてそんな沢山の一般人に迷惑をかけるなんて真面目な高校生としてあるまじき行為だ。だからそんな迷惑をかけずに済んで本当に良かったと俺は心の中で安堵していった。


(さてと、そろそろ幸村の様子は大丈夫そうかな?)


 俺はしばらく時間が経ったので幸村の方に顔を向けていってみた。


 すると幸村はまだ若干緊張しているようだったけど、でもさっきよりかはだいぶマシな表情になっていた。なので俺は笑みを浮かべながら幸村にこう言っていった。


「さてと、それじゃあ時間はあと少しだけあるようだし、何か飲み物でも買っておくか?」

「えっ? あ、うん、そうね。せっかくだしそうしましょうか」

「わかった。それじゃあ売店の方に行こうぜ」

「えぇ」


 という事で緊張が解れた幸村と一緒に俺達は売店の方に向かって行った。


「いらっしゃいませ。ご注文は何にしましょうか?」

「えっと、それじゃあ私は……アイスミルクティーをお願いします」

「俺も同じのでお願いします」

「はい、かしこまりました。それでは合計で1200円となります」

「あ、はい。えぇっと……」

「俺がまとめて払っておくから良いよ。すいません、電子マネーでお願いします」

「え? あ、う、うん、ありがとう、葛原君」


 バッグから財布を取り出そうとする幸村を制止して、俺はそのまま電子マネーで支払いを済ませていった。


「はい、決済完了致しました。それではこちらが商品となります。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


 そう言って俺は二つの紙コップが置かれているトレーを受け取っていき、そのまま俺達は売店から離れていった。


「財布をバッグから取り出すのに時間がかかってごめんなさい。それとまとめて支払ってくれてありがとう、葛原君」

「いや全然大丈夫だよ。そんな気にしなくていいよ」

「うん、そう言ってくれると本当に助かるわ。それじゃあ今の内に映画のチケット代とドリンク代をアナタに払うわね。えぇっと、合計で幾らかしら?」

「ん? あぁ――」


―― ぴんぽんぱんぽーん♪


『まもなく12番シアターでの上映が始まります。チケットをお持ちの方は……』


「って、上映のアナウンスが入っちゃったな。上映時間に遅れるといけないし、とりあえずさっさとシアターの中に入っちゃおうぜ?」

「えぇ、そうね。それじゃあ映画を見終わってから清算しましょう」

「あぁ、わかった。それじゃあさっさと行こうか」


 という事で俺達はシアタールームの受付担当をしているスタッフさんにチケットを渡してシアタールームの中に入って行った。


 そしてそのまま俺達は12番シアターを目指して早歩きで向かって行った。


「えぇっと、12番シアターだから……あっちの道を真っすぐ行けば良さそうだな」

「あぁ、うん、あそこのシアターね。わかったわ」


 そう言って幸村は一足先に12番シアターの中に入って行った。続いて俺も幸村の後ろから12番シアターの中に入って行こうとした。


「……って、おっと。これも一応持って行くかな」


 でもその時、シアターに入る前に鑑賞客専用の貸出ブランケットが置かれてある事に気が付いたので、俺はその貸出ブランケットを一つだけ手に取ってから幸村の後に続いていった。


「ふぅ、無事に間に合って良かったわね」

「あぁ、そうだな。それじゃあ幸村のアイスティー渡しておくな。あと、良かったらこれも使ってくれよ」

「え? って、あ……」


 俺は幸村に向かってアイスティーと一緒に先ほどシアター前で手に取った貸出のブランケットも渡していった。


「これって……もしかして映画館で借りれるものなの?」

「あぁ、そうだよ。貸出のブランケット。ほら、空調設備があってもひょっとしたら寒いかもしんないしさ、もしも肌寒いようだったらこれを使ってくれよ」

「あ……う、うん。その……ありがと」


 俺がブランケットを手渡していくと、幸村はちょっとだけ顔を赤くしながら感謝の言葉を伝えてきてくれた。


「はは、良いって事よ」


 俺はそんな幸村の赤くした表情を見ながら優しく微笑んでいった。そしてそのまま俺達は席に座りながら映画が始まるのを心待ちにしていった。


 よし、それじゃあここからは映画を楽しんでいくとするかな。

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