第144話:映画当日
土曜日のお昼過ぎ。
「んー、もうそろそろかな?」
俺は待ち合わせ場所である都心駅の改札前でスマホを確認していった。待ち合わせ時刻まではあと15分といった所だ。
という事で今日はいよいよ幸村と映画を見に行く日だ。俺としては好きな女の子と二人きりで遊ぶという始めてのイベントなので、もう昨日の時点で凄くワクワクとした気持ちになっていた。
服装に関しては黒木にオススメされて買った黒いジャケットとパンツを着用している。俺は身長が高くてガタイも良いからシンプルな服の方が良いって言われて買ったヤツだ。
(うん、黒木のオススメのこの服めっちゃ良いよなー)
確かに着用してみた感じシックリときていてとても良いと感じる。これは今度黒木に会ったら何かお礼を渡さなきゃだな。
「お、お待たせー……」
「ん? おう……って、あれ?」
そんな感じでワクワクとした気分で改札前で待っていると、後ろの方から声をかけられていった。なので俺は後ろを振り返ってみるとそこには幸村が立っていた。
そしてそのまますぐに俺は今日の幸村の服装を見ていった。
「……」
今日の幸村の服装は落ち着いた色合いのロングのニットワンピースにオシャレなブーツを組み合わせた大人っぽい感じのコーディネートだった。そしてその服装は俺が少し前に言った幸村の好きな服装だった。
(もしかして俺がああ言ったから今日はこの服で着てきてくれたのかな?)
自意識過剰かもしれないけど、でももしそうだったら嬉しいな。俺はそんな事を思いながら幸村の姿を再度見ていった。
「ちょ、ちょっと。急に黙ってどうしたのよ……?」
「ん? あぁ、いや、今日の幸村の服が凄く似合ってるなって思ってついつい見入っちゃったんだよ」
「えっ? い、いや、あんまり恥ずかしい事言わないでよね……」
「はは、ごめんごめんって」
幸村は恥ずかしそうにプイっとそっぽを向いていったので、俺は笑いながらそう謝っていった。
「よし、それじゃあ合流も出来た事だし映画館の方に向かおうぜ? 映画の上映時間に遅れちゃったら勿体ないしな」
「え、えぇ、そうね。わかったわ」
という事で俺達は合流する事が出来たので、そのまま都心駅にある映画館に向かって歩いて行く事にした。
「いやー、それにしても映画に行くのはかなり久々だなぁ。多分一年振りくらいかな?」
「あ、そうなの? それは本当にかなり久々な感じなのね」
映画館に向かう途中で俺はそんな事を幸村に話していった。確か最後に見たのは夜遅くに大学の研究室から帰る途中で見に行ったレイトショーが最後だったかな。
「あぁ、そうなんだよ。そういう幸村はどうなんだ? 映画は結構見る方なのか?」
「んー、いや私も正直映画はそこまで見ないわね。私も最後に映画を見たのは多分一年くらい前かもしれないわね」
幸村は頬に手を当てながらそんな事を言ってきた。どうやら幸村も俺と同じでそこまで映画には行ってないようだ。
「へぇ、でもそれはちょっと意外だな。だって幸村って小説が好きなんだろ? だから小説が原作になった映画とか結構見に行ったりするのかと思ったんだけど……でも実際にはそういう訳でもないんだな」
「そうね。確かに小説が原作で見に行きたい映画作品とかは今までにも沢山あったんだけど、でも一番仲良くしてた友達が映画とか全然興味ない子だったのよ。だから一人で行くのもちょっとなーって思って結局見に行かない事の方が多かったのよ」
「へぇ、なるほどなー……」
俺はその時ふとゲーム本編の事を思い出してみたんだけど……そういえば確かに主人公と幸村が映画館に遊びに行くってシーンは一切無かったな。なるほど、主人公は映画にはあまり興味が無い感じなんだな。
「うん、そうなの。まぁでもしばらく経ったらサブスクしてる動画配信サイトに見たかった映画が追加される事も多いから別にそれでも良いんだけどね」
「あー、なるほど、確かに今はそういうサイトって充実してるもんな。はは、でもサブスクしてる動画配信サイトで映画を見るってのは何だか最近の子っぽい感じだなー」
「? 最近の子って……いやアナタも同い年でしょ。何で急に若干年寄りっぽい事を言ってんのよ?」
「えっ? って、あ、あぁ、いやそれは……あ、あはは」
何の気なしにそんな事を言ったら幸村に不思議そうな目つきで見つめられていってしまった。確かに俺達は同い年なのにそんな感想を言うなんて明らかにおかしいよな……。
でも俺は咄嗟に上手い言い訳を思いつく事が出来なかったので、とりあえず笑って誤魔化していった。
「あ、あはは……い、いや、まぁでも確かに一人だと映画に行くのって結構ハードル高いもんなー。周りは家族連れだったり友達同士とかだったりするのに、自分だけ一人で映画館に行くってのはちょっと勇気がいるもんな」
「あぁ、うん、本当にそうなのよね。でもやっぱり家の小さなモニターで見るよりも映画館で見た方が楽しいだろうなって気持ちはあるから……だから早く大学生になって人の少ないレイトショーで静かにノンビリと映画鑑賞をするっていうのが一つの夢だったりするわ」
幸村は目を閉じながらそんな微笑ましい小さな夢を俺に語ってきてくれた。
「はは、なるほどな。確かにレイトショーって楽しいもんな。昼間と比べる人は少なくて快適だし、それにレイトショーって独特な空気感もあって俺は結構好きなんだよなー」
「へぇ、そうなん……って、いや、ちょっと待ってよ。何で高校生のアナタがレイトショーについてそんなに詳しく語れるのよ?」
「え……って、あ、しまった」
ついつい知っている事を自慢げに語ってしまったけど、よく考えたら今の俺って高校生じゃん。夜間とか深夜帯が上映時間の映画って条例的に高校生は見れねぇよな……。
「え、えぇっと……まぁ、何というか、その……い、いや実はバイト終わりとかにたまに仲の良い先輩と一緒に映画を見て帰ったりとかしてたんだよ。それに今までの俺って未成年になんて見られない恰好をしてただろ? だから余裕でレイトショーを見れてたんだよ」
「ふぅん、そうなんだ? あぁ、まぁでもそうよね。アナタの今の恰好を見てるとついつい忘れちゃうんだけど、よく考えたらちょっと前までのアナタは高校生になんて全く見えない不良だったものね」
俺のそんな苦し紛れの言い訳に幸村は納得していってくれていったようだ。
「あ、あぁ、そうなんだよ。まぁそんなわけでさ、俺も映画館の雰囲気とか行くのとか結構好きな方だから……だからこれからは気軽に俺の事を誘ってくれて良いからな?」
「……え? な、何よいきなり?」
「いや、いきなりって……いや幸村が言ってた事だろ? 見たい映画は沢山あるんだけど、興味ある友達がいないってさ?」
「え? あ、うん、それはまぁ……確かにそう言ったけど?」
「だろ? だからさ……これからは一緒に行こうぜ? 俺がいつでも幸村の見たい映画に付き合うからさ」
「……え?」
という事で俺は笑みを浮かべながらそんな事を言っていった。
「ま、幸村が俺と二人きりで出かけるのが嫌じゃなければだけどさ。はは」
「え……って、えっ!? い、いや、そんなの嫌とか全然思ったりしないわよ! そ、それじゃあ、その……うん、これからは気になる映画とかあったらアナタの事を誘わせて貰っても良いかしら……?」
「あぁ、もちろん。俺も一緒に行きたいからいつでも気軽に誘ってくれよ」
「うん、わかったわ。えっと、その……ありがと」
幸村ははにかんだ笑顔を浮かべながら俺にそう言ってきてくれたので、俺も幸村に向かって優しく笑みを浮かべていった。
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