第143話:私には全然似合ってない件について(紗枝視点)
アンテナショップの試着室にて。
「……全然駄目じゃん……」
私は試着室の鏡の前に立ちながら小さくそんな事をポツリと呟いていった。
私は試着室の中で超ミニのスカートにショート丈のヘソ出しシャツを着てみていた。まぁちょっと……というかだいぶ露出度の高い感じの服を試着してみていた。
さっき見かけたギャルのお姉さんを意識して私はちょっと露出度の高い服装を着てみたんだけど、でも正直私には全然似合ってなかった。
もちろん私に似合ってない理由は様々な要因があるんだろうけど、でもその要因の中でも一番致命的なのは……。
「……何で私には胸が全然無いのよ……」
私はそんな事を呟きながらより一層どんよりとした気分を味わっていった。私は先ほどのギャルのお姉さんと比べて圧倒的に胸の発育が良くなかったんだ。
だから私がこんな露出度の高い服を着ても全然セクシーな感じにならないというか……むしろ変なコスプレをしてるようにしか見えないというか……。
それに私って結構な頻度で部活の運動もしているからさ……だから全体的に筋肉もそこそこついちゃってるんだよね……。
だから私のお腹周りとかに筋肉がうっすらとついちゃってるからあんまり可愛くないというか……こんな可愛くないお腹周りを葛原君に見られちゃうのはちょっと嫌というか……。
「……うん、これはちょっと……いや流石に恥ずかしすぎるわね……」
総じてあのギャルのお姉さんが着ていたような服装は自分の身体に相当な自信がないと着こなすのはかなり難しいという事がわかった。
そしてせっかく葛原君の好きなタイプ(かもしれない)の服装が知れたというのに、そもそも私にはそういうのを着こなす才能がないという事もわかった。
「……はぁ、これは私には無理そうだなぁ……」
という事で私は大きくため息をつきながら試着していた服をさっさと脱いでから私服に戻っていった。
◇◇◇◇
月曜日の朝。
「はぁ、何だかなぁ……」
私はため息をつきながら登校していった。結局あの日はアパレルショップで何も買わずに、あれからすぐ帰宅していった。
「おっす、幸村」
「え? あぁ、おはよう、葛原君」
学校に到着すると教室には既に葛原君が居た。何だかこの土日に色々悩み過ぎてたせいで今は逆に頭がスッキリとしていた。なので今日は顔を熱くする事なく葛原君と普通に挨拶をする事が出来た。
(まぁそれでも頭の中はあの日の事がすっごく気になってるんだけどさ……)
葛原君の顔を改めて見るとやっぱりこの土日に感じていたモヤモヤをすぐにでも解消したいと思った。だから私は意を決して土曜日の事を葛原君に尋ねていってみる事にした……。
「……え、えっと、さ……」
「ん? どうしたよ?」
「あ、いや、その……一昨日の土曜日の事なんだけどさ……葛原君って土曜日は何してたの?」
「一昨日の土曜日? まぁ普通に朝から夕方まではバイトに行って、その後は駅前の本屋に行ってたけど?」
「あ、そうなんだ。そ、その、いや実は私もさ……一昨日は笹原駅に行ってたのよ。そ、それでその……夕方くらいに葛原君を見かけた気がしたのよね」
「え? そうだったんだ? はは、それなら話しかけてきてくれた良かったのにさ。何で話しかけて来てくれなかったんだよ?」
「い、いや、それは、その……何だか葛原君が女の人と楽しそうに話してたからさ……もしも彼女さんとかだったとしたら話しかけるのは迷惑かなって思って……」
という事で私はついに意を決して私の知りたい本題を葛原君に伝えていってみた。
(でも、もしもこれで……あの女の人が葛原君の彼女だったらどうしよう……)
「女の人? 彼女? ……って、あぁ、もしかして真由香さんの事かな? あはは、あの人はそういう特別な相手じゃないよ。ただのバイト先の先輩だよ。ってかあの人は普通に彼氏いるしな」
「……え? そ、そう……なの?」
「あぁ、そうなんだよ。それでその彼氏……まぁ霧島先輩って言うんだけどさ、その人も俺と同じコンビニでバイトしてるんだよ。それでその霧島先輩が俺にとって一番仲が良い先輩でさ、よくバイトの暇な時間に先輩達のアツアツなデート話とか聞かせて貰ってるって感じだな。はは、めっちゃ仲良しカップルで毎日楽しそうなんだよなー」
「あ……そ、そうなの? そ、そっか、そうだったのね。……っほ」
「うん? どうしたよ幸村?」
「え……えっ!? い、いや別に何でもないわよ!!」
「そ、そうか?」
私がほっと安堵していった所を葛原君に見られてしまい、葛原君は何とも不思議そうな顔をしながら私に事をじっと見てきた。なので私は慌てて何でもないと言って全力で誤魔化していった。
(で、でもそっか……あの女の人は別に葛原君の彼女さんじゃなかったんだね……ふふ、良かった良かった……って、あれ?)
その時、私は心の中でそんな事を思ったんだけど……でも何で私は良かったって本気で思ったんだろう?
「ど、どうしたんだよ幸村? 何だかさっきから物凄く難しそうな顔を連発してるぞ?」
「え? あ、い、いや、なんでもないって! 本当に気にしないでってば!」
「え? そ、そうなのか? まぁ、幸村がそう言うなら別にいいんだけどさ」
という事で私はまたそう言って全力で誤魔化していった。それにしても今日の私はちょっと様子が酷すぎるよね……。
何というか今日はもう色々と酷い痴態を葛原君に見せてしまっている気がするんだけど……まぁでもいいや、ここまで来たら最後まで突き進んでしまおう。
「あ、そ、そうだ……! そ、それじゃあさ……つ、ついでに聞きたい事があるんだけど……」
「ん? あぁ、いいぞ。何でも聞いてくれよ?」
「う、うん。それじゃあその……葛原君ってさ、昨日の女の人が着てたようなギャルっぽい服装が好きなの?」
「え?」
という事で私はアレコレと悩むのはもうやめて素直に本人に尋ねてみる事にした。だって気になってる事は本人に直接聞いてしまった方がもう早いもの。
それにもうここまで恥ずかしい目に合ったんなら別にいいわよ。あともう一回くらい恥ずかしい目にあった所でノーダメージだもん。
「うーん、ギャルっぽい服か。まぁそりゃあ真由香さんが着てた服装も可愛くていいなって思うけど。でも特別大好きっていう程ではないかな?」
「そ、そっか。なるほどね……それじゃあさ、他にどんな女の人の服装が好きとかってある?」
「女の人の服装? うーん、そうだなぁ……」
私がそう尋ねていくと葛原君は腕を組みながら悩みだしていった。私の言った事をしっかりと考えていってくれているようだ。
そしてそれから少しだけ沈黙の時間が続いたんだけど、でもそれから程なくして葛原君は何かを思い出したように私にこんな事を言ってきた。
「うーん……って、あ、そうだ! そういえばかなり前にさ、幸村とバッタリとコンビニで会った事があったろ?」
「え? う、うん。それって多分……一番最初の頃の出来事よね?」
「うん、そうそう。確か幸村が好きな小説家のサイン会に行くって言ってた時の事だな。それでその時に見たあの大人っぽい感じの落ち着いたニットワンピースの幸村の恰好がさ……俺は凄く幸村に似合ってて一番好きだったなー」
「え……ふぇえっ!?」
唐突に葛原君にそう言われて私の顔は一気に熱くなっていってしまった。
「ちょ、ちょっと何言ってんの!? わ、私はどんな服装が好きかを聞いてたのよ!?」
「え? いやだからその質問の回答として、俺は前に幸村が着てたあの服が好きだっていったんだけど?」
「な、なななっ!?」
あまりにも不意打ちを食らってしまったため、私はどんどんと顔が真っ赤になっていってしまった。
「お、おいおい……大丈夫か幸村? な、何だか顔が大変な事になってんぞ?」
「えっ!? だ、大丈夫よ! 心配しないでいいわよ! ほら、もういつも通りだから!」
「そ、そうか? それならまぁいいんだけど……」
私は顔が元に戻るよう必死に頬をビシビシと何度も叩いていった。おそらく葛原君には奇妙な女の子だと思われちゃったかもしれないけど気にしない事にするわ。
まぁ……でもさ……。
(そっか、葛原君は私のあの服が本当に似合ってるって思ってくれてたんだね……ふふ、何だかそれはすっごく嬉しいなぁ……)
幼馴染には『お前みたいな子供には似合わない』と馬鹿にされた服だったけど……それでも葛原君は私に凄く似合っていると何度も言ってきてくれた。それが私は本当に何よりも嬉しく感じた。
そしてその時、何故かわからなかったけど私の心の中はどんどんとポカポカと温かくなっていく気がしていった。
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