第142話:あ、あれ?葛原君が綺麗なお姉さんと楽しく話してるんだけど……?(紗枝視点)

 とある土曜日の夕方。


「んん-……ふぅ、今日も疲れたわね」


 私は軽く背伸びをしながら塾から出ていった。今日は昼過ぎからずっと塾だったので、今はちょっとだけ疲れてしまった。


「うーん、流石に勉強ばっかりで疲れちゃったし今日は早く帰ろうかなぁ……あ、でも確かそういえば新刊が発売されたんだよね」


 今日はさっさと家に帰ろうと思ったその時、私の一番大好きな小説家の先生が書いた小説の新刊がつい先日に発売された事を思い出した。


 もちろん私の一番大好きな小説家の先生とは、私が数か月前にサイン会に行ったあの先生の事だ。


「ふふ、やっぱりあの先生の書く推理小説が一番面白くて好きなんだよね……って、あ……」


―― やっぱり幸村がオススメしてくる本はハズレがないよな。本当にありがとな。


 そしてその瞬間、私はちょっと前にした葛原君との会話を思い出していった。あの時に彼は私に向かってそんな嬉しい事を言ってくれたんだ。


「葛原君は……私の一番大好きな先生の本を読んでくれるかな……?」


 ふと私はそんな事を呟いていっていた。私は本を読むのが大好きだ。そしてその好きな本の話を誰かと共有するのも大好きなんだ。


 そして葛原君は私の紹介する本をちゃんと読んでくれる男の子だ。しかもちゃんと本を読んでさらに感想まで教えてくれるんだ。私はそれが何よりも嬉しかった。


 だからそんな彼に……私の一番好きな先生の書く小説を読んで貰いたいなって……。


「うん、きっと葛原君なら読んでくれるはずだよね! よし、それじゃあ早速新刊を買って、もしも面白かったらすぐに葛原君に紹介してあげよう!」


 私はそう決めてからすぐに駅前にある大きな本屋を目指して歩いて行った。しかしその時……。


「ふんふんふ~ん……って、あれ?」


 私は鼻歌交じりに駅前に向かう歩道を歩いていると、ちょっと離れた所にある横断歩道前で私の見知った人物を見つけた。その人物とはなんと……。


「あっ、葛原君だ……」


 その見知った人物とは今さっき頭に思い浮かべていた友人の葛原君だった。ちょっと遠くだけど流石に毎日会っている友人の顔を間違える事はない。


 でもさっきまで頭に思い浮かべていた葛原君と遭遇するとは思ってもいなかったので、私は顔がどんどんと熱くなってきてしまった。それに多分だけど顔も赤くなっている気もする。


 でも何で私は葛原君を見かけてそうなっているのかというと……。


―― お兄ちゃんはね……紗枝お姉ちゃんの笑顔が大好きだっていつも言ってるよ!


(う、うぅ……そんな事を言われてから上手く直視出来なくなってるのよ……)


 少し前に祐奈ちゃんからそんな事を教えて貰ってから、私は葛原君を見かけるとついつい顔が赤くなってしまい、上手く喋る事が出来ない日がずっと続いていた。


 でも別にそれは嫌とかそういうわけじゃなくて、その……純粋に恥ずかしいという気持ちなだけだ。


 だからここ最近の私は葛原君と会う度にいつも顔は滅茶苦茶に熱くなっているんだけど、でも別に葛原君とはちゃんと普通に喋れている……とは思う。


「でも何で彼がこんな所に……って、いや、そうか。ここって葛原君の地元だもんね」


 よく考えたらここは葛原君の地元の笹原駅だった。まぁ夕方の時間帯だしおそらくはコンビニバイトが終わった帰りなのかな? それとも晩御飯とかの買い物とかかな?


「うーん、こんな時間帯に葛原君が外に出かけている理由はわからないけど……ま、まぁでも、外で会ったんだから、ちゃ、ちゃんと葛原君に挨拶をしていかなきゃだよね……!」


 ま、まぁやっぱり挨拶って凄く大事だしね! だからそう思った私は顔を熱くしたまま葛原君の方に向かって行こうとした。でもその瞬間……。


「……えっ……?」


 でもその瞬間、葛原君の後ろから物凄く綺麗な女の人が葛原君の肩に手を回してきていた。その様子からして何だかとても親しそうな間柄に見える。


「な、なにあれ……?」


 その女の人をよく観察してみると、何となく魅惑的なギャルっぽい感じの年上の女性だった。明るい髪色にピアスやネイルをガンガンにしている女性だった。それに服装も結構ハデな感じで露出部も多くて凄くえっちぃ感じがした。


 ま、まぁ葛原君って元々金髪ピアスのヤンチャスタイルだったし……も、もしかしたら昔からの遊び友達みたいな感じなのかな? い、いや、それとも……。


「い、いや……もしかしたらあの綺麗が女性が葛原君の彼女さんっていう可能性だってあるよね……?」


 だってあんなにも凄く親しそうに話してる二人を見てると……うん、何だかそんな可能性もある気がしてきたな……。


「……って、あ……葛原君……凄く楽しそうに笑ってる……」


 そして私はそんな美人なギャルのお姉さんと楽しそうにしながら話してる葛原君の顔を見て……私は何だかちょっとだけ胸がチクっとした。


「……そっか。うん、普通に考えたらそうだよね……葛原君はああいうギャルっぽい女の人が好きなんだろうな」


 だって今まで派手目なスタイルをずっと葛原君はやっていたんだ。だから葛原君もそういう派手目なスタイルの女性が好きに決まっているじゃないの……。


「……っ……」


 そしてそんな結論に思い至った私は……もうそれ以上そんな仲良さそうにしている光景を見たくなかったので、私はその場から逃げるようにさっさと駅の方へと向かって走っていった。


◇◇◇◇


 それから数十分後。


「はぁ……」


 私はため息をつきながら笹原駅の隣駅にあるショッピングモールをぶらぶらと歩いて回っていた。何だかすぐに帰りたくなかったので私は少しだけ寄り道をしている所だった。


「はぁ……せっかくだし甘い物でも食べてから帰ろうかなぁ……って、うん?」


 私はそう思ってイートーインコーナーを目指して歩いていたんだけど、でもその向かっている途中で私はとあるショップに目がいった。


 そのショップとは若い女性向けの大きなアパレルショップだった。アパレルショップの外観を見た感じゆるふわな可愛い服から露出多めのギャルっぽい服装まで幅広く取り揃えられている感じだった。


 そしてその瞬間、私は自分の服装を見ていった。今日の私の服装はジーンズにロングのアウターとスニーカーを組み合わせただけの超シンプルなコーディネートだった……。


「い、いや、だって塾に行くだけだと思ってたから別にそこまで気合を入れた服装にする必要もなかったし……そもそも葛原君と外で出くわすなんて思ってもないわけだし……」


 でもさっきのギャルのお姉さんはしっかりと綺麗な生足を見せたショートパンツと艶めかしいショート丈のシャツを組み合わせた可愛いらしいコーディネートだった。あと単純にかなりえっちぃ感じの服装だった。


(葛原君は……やっぱりああいう感じのえっちぃ服装が好きなんだろうな……)


 私はそんな事を思っていった。そしてここ最近の私は葛原君の好きな服装をずっと考えていたんだ。


 だから……も、もしそうなら……私もちょっと肌を露出させてみたり少しえっちぃ感じの雰囲気を出せるギャルっぽい服を探してみるのも選択肢としてはあるかもしれないよね……?


「……よ、よし。それじゃあその……ちょっとだけそういう服を探してみようかな……!」


 という事でそう決めた私はすぐに目の前にある女性向けのアパレルショップに入ってみる事にしていった。

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