第141話:バイト帰りに真由香さんと遭遇する

 数日後の土曜日の夕方。


「お疲れ様です。それじゃあお先に失礼しますー」

「うん、お疲れさまー」


 今日は朝からコンビニバイトの日だった。そしてようやく今バイトが終わったので、俺は店長に挨拶をしてからコンビニから出ていった。


「んん……ふぅ、今日もしっかりと働いたなー。それじゃあさっさと本屋に行って用事を済ませてから帰ろう」


 俺は軽く背伸びをしながらそんな事を呟いていった。実は今日は妹の祐奈からお使いを頼まれていたんだ。


 まぁ具体的に言うと、つい先日に神域の騎士の新作ノベライズが発売されたらしいので、その新刊を買って欲しいとお願いをされたんだ。


 という事でそんな祐奈のお願いを叶えるためにも今日は駅前にある巨大な本屋さんに行ってから帰る事にした。


「それにしても最近は何だか身体がなまってるような気がするなぁ。たった半日のバイトでこんなにも疲れるなんてなぁ……」


 俺は駅近くの赤信号の前で一旦立ち止まり、もう一度軽く背伸びをし始めていった。


 転生した最初の頃は毎日バイトをしてたから身体を滅茶苦茶に酷使していたんだけど、でも今は週1~2回のコンビニバイト程度でしか身体を動かしていなかった。


 だから最近は力仕事をする事もだいぶ減ってきているので、俺の身体がだいぶなまってきている感じはかなり実感していた。


「うーん、これを機に俺もちょっとは運動とかした方が良い気もしてきたなぁ……」


 まぁガッツリと運動する気は全然起きないので、たまの休みに家の周りを軽くランニングくらいはしてみようかなぁ……。


「……って、あれ? 葛原君じゃん!?」

「んー? って、あ、真由香さんじゃないっすか。お疲れ様です!」


 そんな事を思いながら軽く背伸びを続けていると、唐突に後ろから誰かに声をかけられた。なので俺はすぐに後ろを振り返ってみた。


 するとそこにはバイト先の先輩である白沢真由香しらさわまゆかさんが立っていた。この女性が前々から言っているように霧島先輩の彼女さんだ。真由香さんは十九歳で今は大学生をしている。


 そして真由香さんの身長は160センチくらいの細身体型で、ピアスやネイルに明るい髪色の盛りヘアなど全身をオシャレに楽しくコーディネートしている完全なるギャルのお姉さんだ。


 ちなみに今日のファッションはショートパンツとショート丈のシャツを着用しており、さらにちょっと大きめのジャケットを上から羽織っていた。真由香さんの可愛らしいギャル姿にとても似合っている服装だと思った。


 ついでにショートパンツのおかげで真由香さんの生足がしっかりと見て取れるのも何ともえっちぃ感じに思えた。


 まぁでもあんまりジロジロと見てたら怒られそうだからこれ以上観察するのはやめておこう。


「いや、それにしても真由香さんと会うのってかなり久々ですよね。ここ最近は俺は霧島先輩とか店長としかシフトが被ってなかったから真由香さんとは全然会えてなかったですよね」

「うんうん、確かにね! 私も葛原君とシフト全然被らないから最近どうしてるのかなーって思って健人に話は聞いてたんだけどさー……いや本当にピアスを全部外して黒髪に戻したんだね! めっちゃ新鮮で良いねー!」

「あはは、そうなんですよー。それでどうっすか、似合ってますかね?」

「うんうん、めっちゃ良いじゃん! 凄く好青年って感じで似合ってるよー!」


 真由香さんは明るく笑いながらそんな肯定的な感想を伝えてきてくれた。この一連の流れからわかるように真由香さんは超がつく程のコミュ強かつ陽キャのお姉さんなんだ。


 そしてこれほどまでに裏表なく明るいお姉さんだからこそ、俺にとっても物凄く話しかけやすい数少ない女性の一人だった。


「いやー、でもさ、どうして急に金髪ピアス姿をやめちゃったのよー? あの姿も私的にはすっごくカッコ良かったって思ってたのにさー?」

「俺ももうすぐ高校三年になるんで、進学とか考えたらちゃんと真面目な感じにしとかないとマズイなって思って黒髪に戻した感じですね」

「あー、なるほど! そういえば葛原君って高校二年生だもんね。うんうん、確かに進学するにしても就職するにしても面接とかあるなら絶対に黒髪にしないとマズイもんねー。そういえば私も高校時代はもの凄く真面目な恰好して毎日過ごしてたなー」

「えっ? そ、そうなんですか? 真由香さんって高校時代からそんな感じのギャル姿だったわけじゃないんですか?」

「お? 気になる? あはは、しょうがないなー。それじゃあ私の昔の写真を見してあげるよ。だからちょっとだけ待っててね、えぇっとー……」

「あ、はい、了解です」


 そう言って真由香さんはスマホを取り出しておもむろに操作を始めていった。そしてそれから程なくして……。


「お、あったあった! はい、これ! これが高校時代の私の写真だよー」

「おー、真由香さんの高校時代ってのはめっちゃ気になりますね! ありがとうございます。それじゃあ早速……って、えぇっ!? こ、これが真由香さんなんですか!?」

「うん、そうだよー! ふふん、これでも当時はめっちゃ頭の良い文学少女だったんぜー?」


 スマホ画面には黒髪ヘアの三つ編み姿のメガネっ子な素朴そうな美少女が映し出されていた。


 今目の前にいる超派手なギャルの真由香さんとはまるっきり違う人がスマホに映し出されていたので俺はとても驚愕していった。


「へ、へぇ、そうだったんですか。い、いやでもこれは物凄い変身の仕方っすね! という事は真由香さんってもしかして高校を卒業してからギャルデビューした感じなんですかね?」

「ううん、違うよー! 元々高校の時からファッションとかコスメが大好きだったからさ、長期休みとかの時は髪色明るくしたりとかネイルしたりとかもうガンガンに盛りまくって遊んでたよ。でも学校がある時はちゃんと校則を守ってひっそりと隠れていたって感じだねー」

「なるほどー、真由香さんにもそんな隠れギャル時代があったんですね。でもちゃんと校則を守ってたのは凄く偉いっすね!」

「あはは、いやもう先生に怒られたくないから必死になって優等生を演じてだけだよー。まぁでも隠れて校則違反な事は色々とやってたけどね。足ならバレないと思ってペディキュアしたりとか普通にしてたしね」


 そう言って真由香さんはあははと笑ってきた。そんな朗らかな笑顔につられて俺も一緒に笑っていった。


「ま、そんなわけで高校時代はひっそりと三つ編みメガネっ子で過ごしつつ裏でギャルファッションを楽しんでたんだけど、でも高校を卒業してからは隠す必要もなくなったから今は堂々とこうやってギャルファッションを楽しんで行ってるってわけよ」

「へぇ、真由香さんにそんな過去があったんすね。でも真由香さんがそういうのを今全力で楽しんでいるってのは凄く伝わってきますよ。だって今の真由香さんのギャルファッションめっちゃ綺麗で似合ってますしね!」

「あはは、めっちゃ嬉しい事言ってくれんじゃんー! でも残念ながらアタシには彼氏がいるから今は口説かれてもちょっと無理なんだよなー。だから今はちょっとごめんねー?」

「あはは、そりゃあ残念っすわー。それじゃあ霧島先輩としっかりと幸せになってくださいね!」

「あはは、うん、そう言ってくれてありがとね!」


 という感じで俺は真由香さんと駅近くの信号前でそんな他愛無い話をしていっていた。しかしその時……。


「あはは……って、あれ?」

「うん? どうかしたの葛原君?」

「え? あ、い、いや……何か誰かに見られてたような気が……」


 しかしその時、俺は誰かに見られてたよう視線を一瞬だけ感じ取った。でもそれからすぐに辺りをキョロキョロと見渡してみても、俺の見知った人物を見つける事は出来なかった。


 うーん、でもそれじゃあ俺が今感じた視線は一体何だったんだろう……?

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