第136話:家族で一緒に晩御飯を食べていく

 その日の夜。


 あれから俺達はすぐにショッピングモールから家に帰ってきた。そしてそのまま俺は晩御飯の用意をサクっと進めていった。


「よし、もうすぐ晩御飯出来るぞー」

「うん、わかったー! えっと、それじゃあテーブルを拭いて待ってるわねー」

「あ、私も一緒にテーブル拭くよー!」

「うん、ありがとう、祐奈」


 俺がそう言っていくとリビングにいる綾子と祐奈は一緒にテーブルを拭き始めていってくれた。どうやら二人とも俺の晩御飯を楽しみにしてくれているようだ。


「うわー! 凄いね、ここからでも台所のご飯の良い匂いがしてくるよー! ふふ、これはきっと美味しい料理なんだろうなー」

「うん、そうなんだよお母さん! お兄ちゃんの料理ってどれもすっごく美味しいんだよ!」

「へぇ、そうなんだ? それはすっごく楽しみだなー! それにしても雅の作るご飯を食べるなんて久々だなぁ」

「え? 俺って今まで綾子に何かご飯を作った事あったっけ?」


 綾子が懐かしそうな口調でそんな事を言ってきたので、俺はお茶碗にご飯をよそいながら尋ね返していった。


(うーん、綾子に飯を作った事なんて一度も無いはずなんだけどな?)


「あはは、いや今までにも何度もあったでしょー? ほら、カップラーメンにお湯を注いでくれたりとか冷凍食品を電子レンジでチンとかしてくれたじゃん?」

「あぁ、何だそういう事か。って、いや、それくらい誰でも出来る事だろ? ってかまずそれは料理とは言わないからな」

「ううん、そんな事はないよ。だって雅が小学生だった頃の私は仕事に慣れるのに毎日必死過ぎて“それくらい”の事すら全然出来なかったんだからね? ふふ、あの頃の雅にはいつもいつも助けて貰ってたよね。だから本当に感謝してるよ、雅」

「……そっか。まぁ、綾子の役に立ててたのなら俺としても良かったよ」


 綾子が笑みを浮かべながらそんな事を言ってきたので、俺も笑いながらそう返事を返していった。


「よし、それじゃあご飯出来たぞ。あ、祐奈ー、ちょっと料理をリビングに運ぶの手伝ってくれないかー?」

「うん、わかったー!」


 俺がそんなお願いをしていくと祐奈はすぐに台所にやってきてくれた。そして俺が作った料理を祐奈はリビングのテーブルに綺麗に並べていってくれた。


 ちなみに今日の晩御飯は豚の生姜焼きにほうれん草のお浸し、味噌汁に卵焼きというラインナップだ。


 綾子に始めて俺の手料理を食べて貰うからといっても別に豪勢な料理にする事はなく、いつも通り普通の料理を作っていった。


「……ふふ」

「ん? どうしたよ?」


 その時、俺と祐奈が一緒に料理をリビングのテーブルに運んでいってると、テーブルを拭き終えた綾子が俺達を見つめながら優しく微笑んできていた。


「いや、なんというかさ……二人とも仲の良い兄妹だなって思っただけだよ」

「いやそりゃあそうだろ? 仲が悪い兄妹なんていないに決まってるだろ? なぁ、祐奈?」

「うん、そうだよー! 私とお兄ちゃんは生まれた時からすっごく仲良しだよ!」

「ふふ、そっかそっか。うん、それなら良かったよー!」


 俺と祐奈のそんなやり取りを見て綾子は凄く嬉しそうな顔をしながらそう言っていった。


「よし、それじゃあ晩御飯も並べる事が出来たし、温かい内にさっさと食べていこうぜ」

「うん、そうだね! 私もすっごくお腹空いちゃったし早く食べちゃいましょう!」

「うん! それじゃあ、せーの……」


 という事で俺達はテーブルに座っていっていき、そしてそのまま全員で手をしっかりと合わせてから……。


「「「いただきます!」」」


 そう言って俺達は晩御飯を食べ始めていった。まず綾子は箸を広げてメイン料理である生姜焼きを食べ始めていった。


「もぐもぐ……んんっ!? 何これすっごく美味しい!! これ全部雅が作ったの!? 既製品とかじゃなくて本当に雅の手作りなの!?」

「あぁ、そうだよ。レトルト品とかじゃなくて完全に手作りだよ。はは、でも良かったよ。綾子の舌に合ったようでさ」

「う、うん! 物凄く私の舌に合ってるよ! こんなにも美味しい生姜焼きを作れるなんて凄すぎだよ! それにこっちのお味噌汁も凄く美味しい……うん、うん、本当に美味しいなぁ……」

「ん? ど、どうしたよ綾子?」


 終始綾子は凄く嬉しそうな顔をしながらそう言ってきたんだけど、でも次第にちょっとだけ切なそうな顔に変わっていった。


「うん、いや何というかさ……雅の作るご飯ってすっごく家庭的な味がするなーって思っちゃってね」

「え? どういう事だよ?」

「いや、私ってさ……ほら、もう実の両親とは十八年くらい絶縁状態になってるし、そもそも私が子供だった頃は両親の作るご飯とかも全然食べた事がなかったから……だから何というか……生まれて初めて家庭的なご飯ってものを食べた気がするなって思ってね」

「綾子……」


 綾子はそんなちょっと切ない事を言ってきた。でもそれからすぐにぱっと明るい表情に戻して俺にこう言ってきた。


「……あはは、だからさ、雅の作ってくれたご飯を食べたら凄くほっとする感じがしたんだよ。こんなにも美味しい料理を作ってくれて本当にありがとうね、雅」

「……はは、何いってんだよ。これからはいつでも綾子のために俺が家庭的な料理を作ってやるよ。だからさ……もうそんな悲しい事は二度と言うなよな? 俺の作る料理が食べたくなったらいつでも作るからさ、だからこれからは気軽に言ってくれよ」


 俺も笑いながら綾子に向かってそう言っていった。すると綾子はそれを聞いてまた大きく笑いながら続けてこう言ってきた。


「えっ!? 本当に!? うんうん! それじゃあこれからは私のためにこの美味しい味噌汁をいつも作って貰いたいなー!」

「あぁ、そんなのもちろんいいに決まってるだろ? だけど綾子のために味噌汁を作れって……はは、何だかそれってまるでプロポーズみたいだな?」

「ふふ、いいでしょー? だってこんなにもべらぼうに若くて美人でお淑やかな女性にプロポーズされたら大抵の男の子は喜ぶってもんでしょー?」

「まぁ綾子が美人なのは全然認めるけどさー……でも今時の若いヤツは“べらぼう”なんて古臭い言葉は使わないと思うぞ?」

「え……って、えぇっ!? そ、そんな馬鹿な!? べらぼうって古臭い言葉なの!?」

「? べらぼうってどういう意味なの?」

「えっ!? ま、まさか祐奈にも通じないの!?」

「あはは、やっぱり綾子は俺達とは一回り以上も年が離れてるのがバレちまうなー」

「ちょ、ちょっと!? う、うるさいなー。全くもう……ふふ」


 そんな感じで俺達はそれからも家族三人で和気藹々とした雰囲気で明るく喋りながら晩御飯を食べ進めていった。

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