第134話:放課後に黒木と話していく

 その日の放課後。


「お疲れっすー」

「ん? あぁ、黒木か。お疲れっす」


 幸村が部活に行ってしまったので今日は一人で帰ろうかなと思っていたその時、クラスメイトの黒木に声をかけられた。


「今日は何だか一日中ずっと眠そうな顔をしてたな? どうしたんだ?」

「あぁ、いや昨日は夜更かししちまったんだよ。そのせいで今日はずっと欠伸が止まらなかったわ」

「そうなのか。でもこんな平日に夜更かしするなんて元気な証拠だな」

「はは、確かにそうかもな」


 黒木にそんな指摘をされたので、俺は笑いながら眠かった原因を伝えていった。


「はは、それで? こんな放課後に声をかけてきてどうしたよ黒木? ひょっとして俺に何か用事か?」

「ん? あぁ、ちょっと葛原に聞きたい事があってな。えっとさ、ちょっと前に葛原って一年の男子生徒を助けたりした事はなかったか?」

「一年の男子生徒って……あぁ、そういえば少し前に早朝の廊下に倒れ込んでる男子を見つけて保健室に運んでいったな。それがどうかしたか?」


 黒木にそんな事を尋ねられたので、俺はちょっと前の事を思い返しながらそう答えていった。


「あぁ、やっぱりあれって葛原の事だったのか。いや、実はその男子生徒って俺のバスケ部の後輩なんだよ」

「え、そうだったのか? へぇ、それは物凄い偶然だな」

「あぁ、本当にそうだな。ちょっと前の朝練前に気持ち悪くなって廊下で倒れ込んじゃったらしいんだけど、その時に二年の葛原っていう男子生徒に助けて貰ったっていう話を後輩から今日聞いたからさ、ひょっとして……って思って葛原に聞いてみたんだよ」


 どうやらあの時に助けた男子生徒と黒木に接点があったらしく、黒木は俺に向けてそんな話をしてきた。それにしてもここ最近はバスケ部との接点がやたらと多いな。


 ちょっと前にも女バスの子達の手助けをした事があったし、今回は男バスの生徒だったとは……何とも不思議な縁があったもんだなぁ。


「なるほどな。それで? その一年の男子生徒は今はもう体調は大丈夫なのか?」

「あぁ、もうバッチリさ。それでその後輩が葛原に改めて感謝を伝えたいって言ってたぞ」

「はは、いやいや、そんな感謝なんて別に要らないよ。先輩として当たり前のことをしただけだからさ、そんなの気にすんなって言っといてくれ。もしそれでも気になるって言うんなら、これから先輩になった時に後輩の面倒をしっかりと見る優しい先輩になれよって伝えといてくれ」

「そっか。あぁ、わかったよ」


 という事で俺はそんな事を伝えておいてくれと黒木に頼んでいった。そして黒木はそのまま俺の顔を見ながらこんな事を言ってきた。


「それにしてもさ……やっぱり葛原ってめっちゃ良いヤツだよなー。それに葛原って物凄く変わったよなー」

「え? そ、そうか? いや俺的にはそこまで変わったつもりはないんだけどな……」

「いやいや、凄く変わったって。何というか物腰柔らかな態度っていうか、めっちゃ優しいというか凄く大人というか……はは、まぁそんな感じだよ」

「そ、そっか。まぁ、その……ありがとう」


 黒木は笑いながらそんな事を言ってきた。でも俺はちょっとだけ恥ずかしくなったので照れ隠しのつもりで頬をポリポリとかいていった。


「あ、そうだ。そういえば凄く今更なんだけどさ……葛原って部活入ってないだろ?」

「ん? あぁ、そうだよ。ずっと帰宅部だな」


 俺は高校に入学してから今までずっと帰宅部だった。まぁバイトや夜遊びで忙しかったから何の部活にも入らなかったというだけだけど。


「そうだよな。それならさ……もし良かったらバスケ部に入らないか?」

「え? 俺がバスケ部に?」

「そうそう。葛原って体育の時間とか見てる限り運動神経めっちゃ良い方だろ? それにガタイも良いしさ、せっかくならその身体能力を活かして一緒にバスケしないか?」


 黒木は明るい笑みを見せながら俺をバスケ部に勧誘してきた。ちょっと前に女バスが貼ってた部活ポスターは部員募集用のポスターだったし、もしかしたら男バスも同じように絶賛部員募集中なのかもしれないな。


(うーん、なるほど、バスケ部かぁ……)


 確かに俺もクズマに転生してから身体能力が思いっきり向上している自覚はある。


 まぁ元々クズマの身体能力のポテンシャルは高い方だったとは思うんだけど、それに加えて工事現場とかの肉体労働もガッツリとしてたから身体能力がさらに引き延ばされていったという感じなんだろうな。


 という事で運動部である黒木にそんな運動神経について褒められた事は素直に嬉しく思ったんだけど、でも……。


「うーん、黒木から誘って貰えるのは嬉しいんだけど……でも、悪いな。ちょっと今は放課後とか色々と忙しいから部活には入れないよ」

「そっか、わかった。まぁ忙しいんならしょうがないよな。でも放課後が忙しいって普段何をしてるんだ? もしかして塾とかにでも行ってるのか?」

「いや、塾に行ってるわけじゃないんだけどさ……でもここ最近の放課後は幸村に声をかけて一緒に勉強をしたり帰ったりする事が多いんだよ。それで俺にとってはやっぱりその時間が一番大切だからさ……だから今は部活とかをやる時間はちょっと確保出来そうにないんだ」


 俺が幸村の事を好きなのはもちろん黒木も知っているので、俺は素直にそう伝えていった。


「はは、そっか。うん、そうだな、それは葛原にとっては一番大切な時間だよな!」

「あぁ、そうなんだよ。だから悪いな黒木。せっかく部活に誘ってくれたのにさ。あ、でも普通に遊びとかならいつでも付き合うから、それに関してはこれからも気軽に誘ってくれよ?」

「あぁ、わかった。それじゃあ葛原の言葉に甘えて、これからも遊びに関しては気軽に誘わせて貰うとするよ」


 そう言うと黒木はまた明るく笑ってきてくれた。そして黒木は笑ったまま続けてこう言ってきた。


「はは、でもさー、葛原ってやっぱり本当に凄いヤツだよな」

「ん? 凄いって……今度は一体何だよ?」

「いや、だって大抵の男子ならさ、好きな女子の事を言うのって普通は恥ずかしくて躊躇ったりするもんだろ? それなのに葛原って幸村さんが好きな事を全然躊躇わずに堂々と公言するよな。まぁそんなハッキリとした男だからこそ、俺も友人として素直に葛原の事を応援したくなるんだけどさ」

「あぁ、まぁ確かにそう言われてみればそうかもしれないな。でもあんまり恥ずかしがってもしょうがない事だろ? だって俺が幸村の事が好きだっていう事実は変わりないんだからさ」


 俺は笑いながらそう返事を返していった。


 確かに普通の男子だったらもっと恥ずかしがったり躊躇をしたり……もしかしたら好きでも何でもないって嘘をついたりするヤツだっているかもしれないよな。


 でも俺はそんな反応は一切せずに堂々とちゃんと幸村の事が好きだと公言していった。だって好きだっていう気持ちは本当の事なんだから嘘ついてもしょうがないじゃないか。


「うんうん、やっぱり葛原って気持ち良いくらいにスッパリとした性格だよなー! よしっ、それじゃあこれからも俺はお前の恋路を応援していくよ! だから何か俺に力になれる事があればいつでも頼ってくれよな?」

「あぁ、ありがとな。あ、それじゃあせっかくだしさ、良かったらまた一緒に駅前のハンバーガー屋に行ってから帰らないか? そこで喋ってる時にもしかしたら何か相談したい事とかも思いつくかもしれないしさ」

「おう、いいよいいよ! それじゃあすぐに帰る準備するから少しだけ待っててくれ」

「あぁ、わかった」


 という事で今日も俺達は駅前のハンバーガー屋に立ち寄って交流を深めてから帰る事にした。

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