第132話:思い切って幸村を映画に誘ってみる
その日のお昼休み。
「いやー、でもマジで最後のシーンには物凄く感動したよ! 思わず深夜4時に一人で泣くところだったからな!」
「うんうん、その気持ちはすっごくわかるわー。私も最後は思わず泣きそうになっちゃったもん。あれは主人公とヒロインの日常を丁寧にしっかりと描いていたからこそ、最後のイベントが物凄く感動的だったのよね」
という事で俺と幸村は今朝に約束した通り、屋上で一緒に昼飯を食いながら小説の感想会を開いている所だった。
「あぁ、本当にそうだよな! まぁでもあらすじを読んだ時に何となくわかってたんだけど……ハッピーエンドってわけじゃなかったのがちょっとだけ悲しかったなぁ。悲恋とはまた違うと思うけど……でも最後の場面は主人公視点で考えるとちょっと悲しい気持ちになったなぁ……」
小説のあらすじからして『不治の病に冒されているヒロインとそれを支えていく主人公の物語』という内容だったので、最終的にほろ苦い終わり方なんだろうなって思っていたんだけど……まぁやっぱり最後は予想通りちょっと切ない感じの終わり方だった。
「まぁそうね。確かに完全なるハッピーエンドというわけではなかったけど……それでも最後には主人公がしっかりと前を向いて生きていくっていう終わり方は個人的には好きだったけどね。それに私は主人公よりもヒロインに感情移入しちゃったから……だからヒロイン目線だと主人公がこれからもちゃんと前を向いてしっかりと生きてくのが最後に見れたのは凄く嬉しいなって思えたわ」
「あぁ、確かにヒロイン目線でいったら、最後に主人公が一人でちゃんと立ち直っていく所が描かれていたのは嬉しいだろうし、これもある種のハッピーエンドって事にはなるもんな。うん、なるほど。そういう見方も出来るってのは新しい気づきだよ。ありがとう、幸村。これは感想会をした意味があったよ!」
「ふふ、それなら良かったわ。そういう感じで視点を変えて本とか小説を読むと色々と新しい発見が出来て楽しいと思うわよ? だから良かったらこれからはそういう観点で色んな作品を楽しんでみてくれると嬉しいわね」
「あぁ、そうだな。うん、わかったよ。色々とアドバイスしてくれてありがとうな」
「えぇ、別に良いわよ。って、あら?」
―― キーンコーンカーンコーン……
幸村とそんな話をしていると唐突に学校のチャイムが鳴りだした。
この学校ではお昼休みにはチャイムは2回鳴る。1回目は午後の授業が始まる10分前に鳴る予鈴と、2回目はその10分後の授業が開始する時に鳴る本鈴だ。
そして今のは1回目の予鈴のほうなので、あと10分後には午後の授業が始まってしまう。
「……って、ちょっと喋りすぎちゃったわね。早く戻らないと午後からの授業が始まっちゃうわね」
「あぁ、そうだな。それじゃあさっさと教室に戻る事にするか」
「えぇ、わかったわ」
という事で俺は幸村と一緒に立ち上がって屋上から出ていき、そのまま階段を降りて目指して行った。
「いやー、それにしても幸村のおかげであの小説がより一層楽しいと感じる事が出来たよ。本当に今日は幸村と感想会をやれて良かったよ」
「ふふ、それなら良かったわ。それなら良かったらもう少しだけ小説を貸してあげましょうか? それでもう一回読んでみたらどうかしら?」
「え、いいのか? はは、それは凄く嬉しいな! それじゃあ遠慮なくもう少しだけ貸してもらおうかなー……って、あ、そうだ。そういえばさ、この小説ってもうすぐ映画も公開されるんだよな?」
「あぁ、うん、そうよ。映画も公開されるわね。まぁ公開日はもう少し先だけどね」
「そっかそっか。ちなみにだけど幸村はその映画は誰かと見に行く予定とかはもうあるのか?」
「え? ううん、それはまだよ。公開日まで日にちもあるし、そこら辺はまだ何も決めてないわよ」
俺がそんな事を尋ねていくと、幸村はキョトンとした顔をしながらもそう答えてきてくれた。
(映画か……これはもしかしたら凄く良いチャンスかもしれないな……!)
俺はそう思っていった。という事で俺は……。
「なるほどね。それじゃあさ……良かったらその映画を俺と一緒に見に行かないか?」
「えっ? 一緒にって……もしかして私とアナタの二人きりでってこと?」
「あぁ、そうだよ。駄目か?」
という事で俺は思い切って幸村にその映画を一緒に見に行こうと誘ってみた。
そして俺は今めっちゃ普通な雰囲気を装って幸村を映画に誘ってみてるんだけど……でも実は内心ちょっとだけ緊張もしていた。
(いや、だってそりゃあ緊張するに決まってるだろ)
だってこの小説のジャンルは“恋愛小説”だ。つまり俺は幸村に二人きりで恋愛映画を見に行こうと誘っているんだぞ。そんなの傍から見たら普通にデートに誘っているようなもんだろ。
という事で俺は内心『もしも幸村に断られたらどうしよう……』と若干心配しつつも幸村の回答を待っていった。
でも幸村はキョトンとした表情のまま俺にこんな事を尋ねてきた。
「んー、まぁ全然駄目じゃないけど……でもアナタって映画とかに興味あったの?」
「あぁ、面白そうな作品なら見たいって思うタイプだよ。それでこの小説がめっちゃ面白かったからさ、だから良かったら映画も見たいなって思ったんだ。それでせっかくなら幸村と一緒に行きたいって思ったんだ。ほら、今日だって幸村とこの小説について沢山喋れて盛り上がれたわけだしさ」
という事で俺はちゃんと幸村と一緒に映画を見たいと伝えていった。まぁ要はつまり俺はさ……。
(まぁつまり俺は幸村とデートがしたいって事だよ)
それに幸村だって高校二年生の女子だし、もう子供じゃないんだ。だから男の俺が二人きりで映画を見に行きたいって誘ってきたら……幸村だって少しくらいは俺の事を意識してくれるだろ?
それでもし今回のデートが断られたとしたら俺はまだ幸村の好感度が足りてないって事だ。でもそれは別に悲観する事では決してない。
だってもし断られたとしたら、これからより一層幸村からの好感度を上げるために頑張っていけば良いだけだしな。
という事で俺はそう思って幸村の事を映画デートに誘ってみたんだけど、果たして結果は……。
「ふぅん。そうなんだ。ま、私も映画は見てみたいと思ってたから、アナタも興味があるっていうんなら……えぇ、良いわよ。それじゃあ一緒に見に行きましょうか?」
「え……えっ? あ、あぁ、ありがとう?」
(……え、あれ? 何か思ってた反応と違うな……)
一応幸村から映画を一緒に行くという許可を貰えたわけなんだけど、でも何だか思ってたよりも淡泊な回答だったというか、ちょっとサバサバとしていたというか……。
俺の方は結構ドキドキとしながらお願いをしてみたつもりだったので、何だか少し拍子抜けをしてしまう結果となった。
それに俺的には男である俺を意識してくれたら嬉しいなって思って映画を誘ってみたんだけど、でも幸村は俺の事なんて全然意識してない感じの態度で了承してきてくれた。
(……あっ、でもそうか。そういえば幸村にはずっと仲の良かった幼馴染の主人公がいるんだもんな)
よく考えたら幸村には仲の良い幼馴染の主人公がいる。だから男子と二人きりで映画に行くなんて事は今までにも何度もあったはずだよな。
って事は幸村にとっては男子と二人きりで映画に行くなんて事は別に珍しい事でも何でもないって事か。
(あぁ、なるほどなー。だから幸村はそこまで反応が薄かったのか。ま、でも別にいっか)
だって幸村と二人きりで映画に行けるという事には変わりないしな。
それに幸村にとっては男子と二人きりで映画に行くなんていつも通りな感じなのかもしれないけど……でも、俺にとっては幸村との初デートなわけだし、これは全力で楽しんでいかなくっちゃな!
「あ、そうだ。それじゃあ私……ちょ、ちょっとトイレに行くから、だ、だから先に教室に戻ってて良いわよ」
「ん? あぁ、わかった。それじゃあ先に教室に戻ってるな」
「え、えぇ、わかった。そ、それじゃあ、またね」
「あぁ、それじゃあな」
という事で俺はそう言って廊下のトイレ前で幸村と別れてそのまま教室に一足先に戻っていった。
でも最後の幸村……ちょっとだけ様子が変だった感じがしたけど気のせいかな?
―――――――――
・あとがき
第三章もちょうど折り返しくらいになりました。
そして次回は久々にヒロイン視点となります。
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