第129話:綾子の過去に何かあったのかな?
「今度はどうしたよ?」
「あ、うん、えっとさ……まぁ新しい噂なんて一切流れてないんだけど、でもアナタの噂って基本的にほぼ全部嘘だったでしょ?」
「あぁ、そうだったな。もちろん今回の新しい噂ってのも嘘だったんだろ?」
「えっ!? い、いやだから、アナタの新しい噂なんて一切流れてないって言ってるでしょ!」
俺が笑いながらそんな事を尋ねていくと幸村は大きな声でそう返事を返してきた。
「はは、悪い悪い、そうだったな。話の腰を折ってすまん。それじゃあ真面目に話を聞くから続きを頼むよ」
「は、はぁ、全くもう……うん、それで話を戻すんだけど、アナタの噂ってほぼ全部嘘だったのにさ……でも一つだけ何故か本当の噂話があったわよね?」
「え……? って、あぁ、そうだな。そういや綾子の退学の噂だけは本当だったな」
前に幸村から聞いた話によると、この学校には“葛原”という女子生徒が妊娠して退学したという噂が流れていたらしい。
そしてその噂は本当の事柄だ。何故なら実際に俺の母親である“葛原綾子”はこの学校を退学しているからだ。
「えぇ、そうよね。それでアナタにその話を聞いた時にもちょっと思ったんだけど……やっぱりこれってどう考えてもおかしくない? だってアナタの噂はほぼ全部が嘘だったのに、どうしてその噂だけは本当だったのかしら? それにアナタのお母さんの極めてプライベートな情報を知っている生徒がいるなんて……それって明らかに変じゃないかしら……?」
幸村は怪訝そうな表情のまま俺にそんな事を言ってきた。確かに俺もその事についてはちょっと疑問に思ってたんだけど……。
「うーん、俺もちょっと前までは幸村と同じ事を疑問に思ってたんだけどさ……でもあれじゃねぇかな? 綾子が学生だった当時の卒業生とか卒業アルバムを持ってる人が身内とかにいる生徒なら、俺の母親が退学した事を知っててもおかしくはないだろ? それに綾子本人も高校を退学した事は秘密にしてる訳じゃないしさ。だから綾子がこの学校を退学したって知っている人がいる事自体はそこまでおかしい事ではないと思うぞ」
「あ、なるほどね。確かにこの学校の卒業生と関係がある人だったら、もしかしたら綾子さんの事を知ってる生徒だって中にはいるかもしれないわよね。って、そういえば今思い出したけど……そういえば日下部先生もアナタのお母さんの事を知ってたわよね?」
「え……あぁ、アイツか……」
唐突にあの忌々しいオッサンの名前を出されて俺はちょっとだけムっとした態度を取ってしまった。
「えっと、あの時はアナタの無罪を伝えるのに必死だったから今まで忘れてたんだけどさ……そういえばあの時に日下部先生が話してた内容ってその……綾子さんの話だったのよね?」
「あぁ、そうだよ。そういえばアイツとそんな口論もしたったなぁ……でもまさか俺の母親の事までも馬鹿にされるとは思ってもなかったからマジでビックリしたよ。まぁ今となっては別にどうでも良いんだけどさ」
「ど、どうでも良いって……アナタ、あの時は本気でブチギレそうになってたじゃないのよ……」
「あぁ、まぁあの時は流石にな。でも大切だと思っている家族の事を馬鹿にされてブチギレないヤツなんていないだろ?」
「そ、それはまぁ、そうかもしれないけど……でもあんまり無茶な事はもう二度としないでよね?」
「はは、そりゃもちろん。ってか最近は教師陣に喧嘩を吹っ掛けたり、生徒達にメンチを切ったりとかなんて一切してないだろ? だからそこら辺に関しては安心してくれよ。あの日に幸村と約束した通り……俺はもう二度と家族に迷惑をかける事はしないよ」
俺は幸村を安心させるために優しく笑みを浮かべながらそう言っていった。まぁ幸村がそんな心配をするくらいにあの日の俺は目に見えてブチギレてたんだろうな。
という事で今の幸村との話に出てきた日下部というオッサンはこの高校で教師をやっている厳格そうな見た目のオッサンだ。生活指導も担当しているので俺達生徒側からしたらかなり厄介な教師だ。
そして俺はそんな生活指導の日下部に呼び出されて理不尽に怒られた事があった。しかも何故かその最中に母親の綾子の事まで罵倒してくるという酷い事件だった。今思い出しても非常に腹立たしい事件だよな……。
(……あれ? でもそう考えるとさ……)
あの時はあまりにもムカつきすぎて考える事が出来なかったんだけど……でも今になって考えてみると、もしかして日下部って綾子が高校生だった頃からずっとこの学校の教師をやっているって事か?
だって日下部が綾子の退学を知っているって事は、多分そういう事になるよな?
(しかも綾子が退学した事を嘲笑うかのように罵倒してきたあの感じからして……もしかして学生だった頃の綾子と日下部って何かひと悶着でも起こしたのかな?)
いくら生活指導の日下部が俺の事を滅茶苦茶に嫌っているとは言っても、俺の母親の事までも罵倒するなんてのは相当の悪意がないと無理だと思う。
という事はもしかしたら日下部は学生だった綾子に対して悪意のようなモノがあったという事なのだろうか?
(うーん……まぁでも綾子も学生の頃はかなりヤンチャな事をしてたって言ってたしなぁ……)
おそらく高校生だった綾子も俺と同じように校則なんてガン無視して毎日楽しく遊んでたってのは何となく想像出来るしさ。そして生活指導の日下部からしたらそんなヤンチャな綾子の事なんて大嫌いだろうしな。
何だかそんな事を考えていくと高校時代の綾子の事が無性に気になりだしてきた。だけど……。
(だけど俺は……高校時代の綾子の事なんて全然知らないからなぁ……)
俺は綾子の昔話をジックリと聞いた事は今までほぼ一度もなかった。それはまぁ向こうが仕事で滅茶苦茶に忙しかったのと俺の反抗期が重なってしまっていたからだ。俺は今まで綾子と話す機会が全然なかったんだよな……。
まぁでも不良だった俺も今では無事に反抗期を卒業したことだし、綾子とそんな昔話をいつかジックリとしてみたいんだけど……でも綾子が高校生の頃の話ってほぼ確実に綾子と元旦那の馴れ初め話が出てきそうなんだよな。
(うーん、そこら辺の話を綾子から聞くのは流石に嫌だから……よし、それじゃあこの件については美和姉に聞いてみる事にしよう!)
自分の母親の口から生々しい話を聞くのは絶対に嫌なので、ここは綾子の親友であり高校の先輩でもある美和姉に高校時代の話を聞いていく事にしていった。
それにもしかしたら二人の面白そうな話とかも聞けるかもしれないしな。高校時代の綾子と美和姉の友達話とかは普通に楽しそうだから気になるよな。
という事で今度美和姉と会うタイミングがあったら高校時代の二人の話を聞いてみようと思っていった。
「……まぁアナタがそういうなら私はそれを信じるわよ。それにしてもアナタって、結構家族思いな所があるわよね?」
「んー? はは、そりゃあ当たり前だろ。幸村だって親御さんの事を大切に思っているだろ? それと同じ気持ちってだけの事さ」
「……なるほどね。うん、確かにそうよね。私がお母さんとお父さんの事はとても大切に思っているように、アナタも綾子さんと祐奈ちゃんの事を大切に思っているってだけの話よね。ふふ、そういう事を堂々としながらちゃんと口に出して言えるのって……本当に凄く素敵な事だと思うわよ」
「え? あ、あぁ……ありがとう?」
幸村はそんな嬉しい事を言ってきてくれたんだけど、俺はちょっと気恥ずかしい気持ちになったので少しだけ目を反らしていった。
「……あ、だけどさ、そういえば幸村のお父さんって今まで出張に出かけてたんだろ? それじゃあ幸村の一日限定のブラウンヘアは見れなかったって事か?」
「あー……うん、そうね。でも一応お父さんにはLIMEの写真で見せたわよ。ふふ、そしたら直接見てみたかったなーってすっごく残念がられちゃったわ」
幸村はとても嬉しそうな笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。その様子からして幸村と父親の仲も凄く良好なのが伝わってくるな。
「はは、そっか。まぁそれならまたいつでも綾子の美容室に来てやってくれよ。綾子ならまたいつでもやってくれると思うからさ」
「ふふ、そうね。それじゃあまたいつか……今度はお父さんに見せるためにもう一度綾子さんにお願いしようかしらね?」
「あぁ、是非ともそうしてみてくれよ。きっと綾子も喜ぶから是非ともまた来てくれよな」
「えぇ、わかったわ」
という事で俺達はそれからも駅前に向かって歩いて行きながら、お互いの家族の事について楽しく話し合っていった。
そしてそんな話を幸村としているとやっぱりお互いに家族の事が大好きなんだなという事が凄く伝わり合っていった。
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