第128話:幸村が何か悩み事をしている

 その日の放課後。


「……」

「ん?」


 授業が全て終わったので俺は帰る準備をしていると、前の席に座っている幸村が席も立たずにボーっとしていた。何だか気になったので俺は幸村に声をかけていった。


「お疲れさん」

「え? あ、あぁ、うん、お疲れさま……って、あっ、さっさと帰る準備をしなきゃ!」


 俺がそう言うと幸村はハッとしながら俺に挨拶をしてきた。そしてそのまますぐに幸村は教科書やノートなどを学生鞄の中に詰め込んでいき始めていった。


「あれ、もう帰るのか? 今日はテニス部の練習とかは無いのか?」

「えぇ、部活は休みよ。でも今日は夕方から親と出かける用事があったから、今日は授業が終わったらさっさと帰る予定だったのよ」

「そうだったんだ。あ、それじゃあ俺も今から帰る所だったからさ、良かったら駅まで一緒に帰らないか?」

「もちろん良いわよ。それじゃあすぐに帰る準備を終わらせるからあと少しだけ待っててね」

「あぁ、わかった」


 という事で俺は幸村の帰る準備を待っていき、そしてすぐに準備を終えた幸村と一緒に教室から出ていった。


◇◇◇◇


 それから数分後。


 俺は幸村と一緒に校門を出ていき、そのまま他愛無い話をしながら最寄駅まで向かって歩いて行っていた。


「それで? 今日は夕方からは親御さんと何処に出かけるんだよ?」

「あぁ、うん、実はちょっと前にお父さんが仕事で出張に出かけちゃっててね。それで今日お父さんが帰ってくるから久々に家族で美味しい物でも食べに行こうって事で外食しに出かけるのよ」

「へぇ、そうなんだ? はは、そりゃあ嬉しい話だな。それじゃあ今日は早く家に帰らないとだな」

「えぇ、そうね! ふふ、久々に家族で出かけるから凄く楽しみだわ!」


 幸村はとても嬉しそうな表情を浮かべながらそんな事を言ってきた。その様子からして幸村家の家族仲は非常に良好のようだな。


(はは、さっきまでのボーっとした表情とはガラっと違うなぁ……って、あ、そうだ、そういえば……)


「そういえばさ、さっきは幸村は何か考え事でもしてたのか?」

「え? 何の話よ?」

「いや、さっき教室で幸村に声をかけた時さ……何だかボーっとしてただろ? だから何か悩み事とか考え事でもあったのかなって思ってさ」


 という事で俺はさっきの様子が気になったので幸村にそう尋ねていってみた。すると幸村は途端にビックリとした顔をしてきた。


「えっ? そ、そんなに私の顔に出てたのかしら?」

「あぁ、思いっきり顔に出てたな。それで一体何を考え込んでいたんだよ?」

「え、えっと、いやそれはちょっとね……ほら、前にアナタには色々な噂があるって話をしたでしょ? ああいう噂って何処の誰が噂を流しているのかなーって、それが今日のお昼休み辺りからちょっと気になってきちゃってね……」

「え、俺の噂?」


 何だか俺の想像していた悩みとは全然違ったので、俺は気の抜けた返事を返してしまった。


(というか幸村の悩み事って……幸村自身の事じゃなくて俺の事だったのかよ)


 まぁでも幸村はお昼休み辺りからずっとその事について悩んでいたらしいので、俺もちゃんと考えてその疑問に答えていく事にした。


「うーん、まぁ前にも言ったような気がするけど……普通に考えたら学校の生徒達が俺の事をチラって見てテキトーに噂を流しているだけじゃないのか? 噂の出所なんて大抵そんなもんだろ。しかも俺の噂なんてほぼ全部嘘だったわけだし、多分遠巻きに不良だった俺を見てそんな怖そうな噂をテキトーに流しただけだろ」

「う、うん、まぁそうよね。普通に考えたら嘘の噂しか流れて来ないし、生徒達がテキトーな妄想話を皆に流布してるだけよね?」

「あぁ、そんな所だろ。でも幸村がそんな事を急に俺に言ってくるなんて……あ、もしかしてまた俺の新しい噂でも流れ始めたのか?」

「え……って、えっ!? い、いやアナタの新しい噂なんて何も流れてないわよ! へ、変な事を急に言わないでよね! あっ、でも!! ぜ、絶対に詮索とかしちゃ駄目なんだからね!!」

「え? あ、あぁ、わかったよ……? 幸村がそこまで言うのなら別に詮索なんてしないよ」


 幸村は顔を真っ赤にしながら慌てた様子で俺にそんな事を言ってきた。


 何だかその様子からして俺の新しい噂が流れているようにしか見えないんだけど、まぁでも幸村が気にするなって言ってるんだから気にしないでいいか。


「……あ、あれ? でもそういえば……」


 でもその時、幸村は急に怪訝そうな表情を浮かべ始めてきた。どうやら幸村はまた何か違う疑問にぶつかったようだ。

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