第127話:改めて幸村にお願いをしていく

 とある日のお昼休み。


「あ、おかえり」

「えっ!? あ、う、うん! た、ただいま……!」

「……?」


 俺は教室で自分の席に座りながら一人で英単語帳を眺めていると幸村が教室に戻ってきた。


 ここ最近はいつも幸村は教室で昼飯を食べていたんだけど、でも今日は何処か別の場所で昼飯を食べていたようだ。


(……ん? どうしたんだろ?)


 そして教室に戻ってきた幸村は何だか物凄く挙動不審な態度を取っていた。流石にちょっと心配になったので俺は幸村にこう尋ねていった。


「どうしたよ? 何かあったのか?」

「えっ!? な、何がよ!?」

「いや、何がって……今の幸村めっちゃ挙動不審だぞ? もしかして何か嫌な事でもあったか?」

「え、嫌な事!? そ、そんなの何も無かったわよ!! わ、私は全然いつも通り普通よ!! だから何も気にしないで良いわよ!」

「そ、そうか? まぁ幸村がそう言うんなら別にいいんだけどさ」


 幸村は顔を真っ赤にしながら顔を左右にブンブンと振ってきた。誰がどう見てもいつも通りには見えないんだけど……うーん、本当にどうしたんだろ?


「……ま、いいか。それで? 幸村はさっきまで何処に行ってたんだ?」


 という事で幸村の挙動不審な態度が若干気になりつつも、俺は話題を変えてそんな事を尋ねていった。


 幸村はここ最近は毎日教室で昼飯を食べていたのに、今日は突然と教室以外の場所で昼飯を食べてたのがちょっと気になったので俺はそう尋ねていった。


「えっ? あ、あぁ、うん。えっと……今日はちょっと幼馴染と一緒にお昼を食べてたのよ」

「え? あ、そうだったんだ。なるほどなー」


 幸村は少し落ち着きを取り戻してから俺にそう言ってきた。幼馴染とはもちろん主人公の坂上弘樹の事だろうな。


(うーん、どんな会話をしてたのかちょっと気になるなぁ……)


 まぁやっぱり俺だって幸村の事が好きな男だから、恋敵である主人公と幸村がどんな会話をしてるのかは普通に気になる。


 だけど二人のプライベートの話を詮索するのは人としてあまり良くない行動だと思ったので、俺は敢て幸村に詳しい話は聞かない事にした。


「……あ、そうだ。そういえば今日はごめんなさいね」

「ん? 何の話だよ?」


 俺は腕を組みながらそんな事を考えていると急に幸村が謝ってきた。でも何のことかわからなくて俺はすぐに尋ね返していった。


「い、いや、その……そういえば今日のお昼はアナタに何も言わずに別の所で食べちゃったなーって、さっきお昼を食べてた時に唐突に思っちゃってね……」

「ん? あぁ、そういう事か。はは、そんなの気にしなくたっていいよ。だって俺達って別にいつも約束をしてたわけじゃ……って、あ……」


(そっか、そういえば俺達って……別にいつも約束して昼飯を一緒に食ってたわけじゃないんだよな……)


 今更ながら俺はそんな当たり前な事に気が付いていった。


 確かに俺達はここ最近はいつも一緒に教室で昼飯を食っていた。でもそれって別にお互いにちゃんと約束をしていたわけじゃなかったんだよな……。


 だから俺は改めて……。


「なぁ、凄く今更な事を言うんだけどさ……良かったらこれからはさ、俺と毎日一緒に昼飯を食わないか?」

「え?」


 だから俺は俺は改めて真剣な表情をしながら幸村にそんなお願いをしていった。すると幸村は俺の言葉を聞いてキョトンとした顔で俺の事を見つめてきた。


「え、えぇっと……いや、別にそんな事を言わなくたって、私たちは一緒にお昼ご飯を食べてるじゃない? 何で今更そんな事を改まった感じで言ってくるのよ?」

「あぁ、確かにここ最近はいつも一緒に食べてるけどさ……でも俺達って何となく一緒に食ってただけじゃん? ただ前後の席に座っているから何となく一緒に食ってただけだろ? 別にお互いに約束とかしてたわけじゃないだろ?」

「え? ま、まぁ、それはそうね?」

「だろ? だからこれからは何となく一緒に昼飯を食べるんじゃなくて、ちゃんと約束して幸村と一緒に昼飯を食べたいって思ったんだよ。それに俺は幸村とこれからも一緒に昼飯を食いたいって思ってるのにさ、そういうのをちゃんと口に出して言わないのって何か男らしくないだろ?」

「え……って、えっ!?」


 俺が真剣な表情のまましっかりとそう伝えていくと、幸村は顔を真っ赤にしながら俺の方をじっと見つめてきてくれた。


 なので俺も優しく笑みを浮かべつつ幸村の事をじっと見つめていきながら、最後にもう一度だけお願いをしていった。


「ま、という事でさ……良かったら、これからも俺と一緒に昼飯を食べてくれないか?」


 という事で俺はしっかりと本心の言葉を幸村に伝えていった。


 すると幸村は顔を赤くしながら俯いていってしまったんだけど、でもすぐに顔を上げて俺の事を見つめながらこう言ってきてくれた。


「え、えっと、その……えぇ、わかったわ。そ、それじゃあその……これからは一緒にお昼ご飯を食べましょうね。ふふ、約束よ?」


 幸村は少し恥ずかしそうにしながらもふふっと笑みを浮かべてそう言ってきてくれた。とても可愛らしい笑みだなと思った。


「あぁ、良かった。それじゃあ改めてよろしくな、幸村」

「えぇ、こちらこそ」


 という事で俺はしっかりとそれを口にして幸村とこれからも一緒に昼飯を食べる約束を交わしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る