第1話:とりあえず学校に登校してみる

 俺は穏便な日常生活を目指すためにも歯を磨いた後はすぐに学校へと登校した。


 クズマが普段どんな生活をしていたかまでは知らないけど、でもクズマの記憶の断片みたいなものは残っている。


 だから学校までの道のりとか、今の俺がやっているバイトとか、よく遊んでる友人とかは何となく頭の中に入っている。いやクズマに学校の友達なんてほぼいないような感じだったけどさ……。


 まぁでもその記憶の断片を頼りにする事で俺は学校まで何とか無事に到着出来たという訳だ。


 という事で改めて、転生先の俺の名前は葛原雅人という。高校二年の17歳で見た目は典型的なチャラ男だ。先ほども言ったようにエロゲ世界の悪役NTRキャラだ。


 クズマの家族構成は母親と妹と俺の三人家族だ。父親はいない。記憶の断片を辿ってみると、どうやら俺の家庭は中々に複雑なようだった。


 俺の母親は高校生だった頃に当時の彼氏だった父親の子供を妊娠してしまい、そのまま学校を退学して父親と結婚する事になった。そしてその時に生まれたのが俺だ。


 そして父親についてなんだけど、記憶を辿ってみるとどうやら浮気や借金、DVなどは当たり前という典型的な毒夫だったようだ。最終的に父親は俺達家族の事を捨てて若い女と不倫し、そのまま蒸発してしまった。


 いやこんなにも複雑な家庭環境で育ったら確かにクズマも性格が歪んで不良になってしまうかもしれないな。


「……ま、俺は不良の道には進まねぇけどさ」


 俺の目的は穏便な日常生活を手に入れる事だ。だからメインヒロインを無理矢理犯して調教したりするつもりはないし、主人公の脳破壊をするつもりもない。むしろハッピーエンド至上主義の俺からしたら二人の恋を応援してやりたいくらいだ。


 それにクズマの友好関係とか家族構成みたいな話はエロゲでは一切語られてなかったので、こういう情報を断片的にでも知れるのはちょっと楽しかった。


 まぁ何だかんだ言っても心に残る名作エロゲだったのは本当だったわけだし、そのエロゲの裏世界を覗けているような今の感覚に少しだけワクワクとしてしまっている。もしかしたらファンブックとかファンディスクを見ているような感じに似ているかもしれないな。


◇◇◇◇


「ふぅ、ようやく着いたと」


 俺はクズマの断片的な記憶を頼りに自分の教室へと到着する事が出来た。でもこんな普通のクラスに俺の友達なんているわけもないので、俺は誰とも話す事もなく朝礼が始まるまで机に座りながらぼーっと過ごしていった。


「……ん?」


―― ワイワイ、ガヤガヤ……


 その時、何やら廊下で賑やかな声が聞こえてきた。その賑やかな話し声からして女子生徒と男子生徒の二人組のようだ。


「もう、ヒロのせいで遅刻しそうになったじゃないの!」

「いや本当に悪かったって、紗枝。だから朝からそんなに怒んないでくれよ」

「全くもう……どうせ私が起こしに行かなかったら今もヒロはずっと寝たままだったなんでしょ? これからはちゃんと早めに夜は寝るようにしなさいよ?」

「あぁ、わかったわかったって……はぁ、全く、本当に口煩い幼馴染だなぁ」

「はぁ? いや何言ってんのよ! こんなお小言を貰いたくないならヒロがちゃんとすれば良いだけでしょ!」

「って、いてて! わかったから頬を引っ張んないでくれよ!」


 ……そんな賑やかな声が廊下から聞こえてきた。そしてその周囲からは“いつもの夫婦漫才だなー”とか“相変わらず仲が良いね”といったような二人の様子を茶化す声も聞こえてきた。


「それじゃあ私は自分の教室に行くからね。ヒロも授業くらいは真面目に受けるのよ?」

「あぁ、わかったって。お前は俺のお母さんかよ……そんじゃあな」

「一言余計よ、全く……えぇ、それじゃあね」


 そういう会話が聞こえてきたので、その男女の二人組は廊下の前で別れていったようだ。そしてその会話をしていた女子生徒が俺の教室に入ってきた。その女子生徒とはまさしく……。


(えっ!? す、すっご……メインヒロインじゃん……!)


 という事でその女子生徒は幸村紗枝ゆきむらさえだった。


 エロゲ作品である『どんなに頑張っても最愛の幼馴染がクラスのヤンキーに寝取られてしまう件について……』に登場するヒロインであり、どのルートに行ってもクズマに無理矢理犯されてしまう可哀そうなキャラだ。


 そしてどのルートに行ってもクズマに調教に抗う事が出来ずに快楽堕ちしてしまい、主人公の脳を破壊させるという重要な役割を与えられているヒロインなのであった。まぁエンディング後にはヒロインも主人公と一緒に絶望していく事になるんだけど……。


(ってことは……さっき廊下でヒロインと話してたのが主人公か)


 主人公の名前は坂上弘樹さかがみひろきという。さっきこの子は相手の事を“ヒロ”と呼んでいたからおそらくは主人公の事なんだろうな。


(それにしても……ここって本当にエロゲの世界なんだな)


 メインヒロインの幸村紗枝を目の当たりにして俺はそんな事を思い始めていっていた。という事で俺は改めてメインヒロインの幸村紗枝の姿をチラっと見つめてみる事にした。


 幸村紗枝は身長は160センチくらいで細身のスレンダー体型だ。確か女子テニス部に入っているので、運動神経は抜群に良いはずだ。


 そして容姿は美人系ではなく可愛い系に分類される感じかな? パっと見た感じはマジで文句無しに可愛い。個人的にはこんなに可愛い女の子は見た事がないレベルだった。うん、流石はエロゲのヒロインだな。


 髪型に関しては黒髪のセミロングヘアでポニーテールにしているので、後ろからはうなじが見えてそれもちょっとエロいな。


 あと性格についてなんだけど、品行方正で真面目な女の子でクラスの学級委員も務めている。でも主人公の前だと結構ツンデレ描写も多くてそのギャップが本当に最高のヒロインだった。まぁ最終的には……って感じなんだけど。


 という事で以上『どんなに頑張っても最愛の幼馴染がクラスのヤンキーに寝取られてしまう件について……』に登場するヒロインの幸村紗枝についてだった。


「……えっ?」

「……ん?」


 俺はそんな感じで幸村の事を観察していると、どうやら幸村も俺の存在に気が付いたようで……思いっきり嫌な顔をしながら俺に近づいて話しかけてきた。


「……アナタがこんな早い時間に登校してるだなんて……珍しい事もあるものね」


 そう言って幸村は俺の前の席に座りだした。そういえば幸村の席って俺の前だったな。


「まぁ、たまには真面目に生活しようと思っただけさ」

「……ふぅん。ま、別にどうでもいいけど」


 俺は幸村にそう言ってみたんだけど、でも幸村は相変わらず不機嫌そうな顔を止める事はしなかった。


(まぁでも多分……ってか確実に幸村は俺の事を嫌ってるから仕方ないか)


 幸村は品行方正で真面目な女子生徒なのに対して、俺は超不真面目な不良生徒だ。真面目な幸村にとって俺みたいなヤツは許せないんだろうな。ゲーム本編でも幸村は最初はクズマの事を毛嫌いしていたし。


「……まぁ、何でアナタが久々に学校に来たのかは知らないけど、でも授業の邪魔だけはしないでよね」

「あぁ、わかってるよ。周りには絶対に迷惑かけないから心配するな。ちゃんと真面目に授業を受けるだけだからさ」

「……え? そ、そう……まぁそれなら良いのだけれど……」


 おそらく幸村は俺が素直にそんな事を言うとは思ってなかったようで、俺の言葉を聞いた幸村は少しだけビックリとした表情をしているようだった。

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