第6話 噴火する火山

 ゼヴァルディアが火山の国イフェスティオを訪れて一週間が経った。しかし首都フローガから他の都市に移り手がかりを探るも、やはり“火の神”に関する確たる証言は得られない。そのせいで、本当にウェリアンのイタズラが尾鰭をつけまくってできた噂である可能性が高くなってきていた。


 また、滞在している半神の存在は基本的に国民には隠匿しているらしい。聞き込みを続けると、“百神王子”自体の話は知っていても、全く関係のない対岸の火事といった認識がほとんどであることも判明した。


「国王が定期的に、秘密裏に“火の神”に関する情報を流しているのなら、その場をおさえて人物を特定するしかないな」


 隠密行動はウェリアンの独擅場である。フローガに戻り、引き続きゼヴァルディアは件の半神の手がかりを町で探りつつ、王宮内はウェリアンに任せることとした。




 しかし、そんな矢先の出来事だった。ある日の夜中、町中に避難警報がかけられたのである。


「緊急警報!! 緊急警報!!

 イフェスティオ山が噴火した!!」


 けたたましい鐘の音と警告を促す自治体員、そして慌てふためき逃げ惑う人々の喧騒で目を覚ましたゼヴァルディアは、すぐさま宿を出て火山のある南西方向を見据えた。


「火山が・・・」


 真っ暗闇の夜空を、それはそれは眩しく照らし出していた。漆黒のシルエットに身を包んだ火山の火口部は紅蓮の光を放ち、辺りの空間を丸ごと赤く染め上げ。それをまた遮るかの如く黒煙が立ち昇っているのがよく見えた。


 本当に火山が噴火を起こしたのだ。


「おいあんた!! 突っ立ってないで早く逃げろ!!

 国から緊急避難警報が出たってことは、第二波でヤバいのが必ず来るぞ!!」


 この国では、火山の様子を観察研究し、噴火の程度やパターンを詳細に分析しているそうで、警報を出す際の予測は9割以上の確率で当たるのだという。その国の研究所が、火山から50km以上は離れているであろう首都フローガにまで避難警報を出したらしい。


「・・・“火山の神”の子か」


 どうやら、ウェリアンが盗み聴いた王宮内での話は本当だったらしい。直感では違う気がしていたが、これほどの噴火が起きているのだ。自然に起こった大噴火の線も捨てきれはしないが、十中八九半神による仕業だろう。


「ゼヴ!! 王宮が、王宮が・・・!!」


 そんな最中、ウェリアンが血相を変えてゼヴァルディアの下へ帰ってきた。


「ウェリアン、火山が噴火した。それも、かなりの規模だ。

 半神が動いたかもしれない」


「それもだけど!! 王宮が大変なことになったの!!」


 冷静に語りかけるが、ウェリアンはまた別件で焦っているらしい。


「どうしたんだ? この状況以上におおごとなのかい?」




「国王とその側近が、軒並み殺されたの!!」




 半神と秘密裏に繋がっていた唯一の人間たちが、まとめて殺害された。加えて、国全体を脅かすほどの火山の大噴火。


「間違いない、か。早いところ見つけ出して倒そう」


 おそらく、“火の神”に関して確たる情報を手に入れたために用済みになりまとめて消しにかかったか、あるいは一切情報を得られず、逆上して全てを滅ぼしにかかったか。件の半神の性格がわからない以上どちらともとれないが、いずれにせよ話し合いの余地はなさそうである。


 では、果たして件の半神はどこにいるのか。


「ウェリアン、『炎の神殿』に行ってくる。

 キミは、どこかしらわかりやすいところで待っていてくれ」


 物体に干渉しないウェリアンなら、おそらく溶岩流に飲まれても影響はないだろう。そう思い、ゼヴァルディアは彼女にそう言い残し、街の外れの盆地にある『炎の神殿』へと向かった。


 半神は、おそらくかなり注意深く慎重な性格と思われる。『炎の神殿』のある盆地には今、町中の人間が避難しているのだ。木を隠すなら林というように、きっとその人間たちの中に紛れているに違いない。


「待ってゼヴ、私も行く!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 『炎の神殿』の内外には、町中の人間が避難していた。いくらなんでも、数百人にも及ぶであろうその中から、たった一人の正解を引くには少々骨が折れる。


 ゼヴァルディアは、ある策に出た。




「おお“火の神”よ、鎮まりたまえ!!」




 大声で何度も何度も、そこにいる全員に聴こえるように繰り返しそう唱えたのだ。


「おい兄ちゃん、それをいうなら“炎の神”だぜ。

 祈るなら間違わずにしねえとなあ!!」


 すると、信仰心の厚い者ほどすぐに反応し、ゼヴァルディアよりもより深く、心の底より祈りを捧げ始めた。避難し、自身の生活区域の安全を憂うばかりで普段の信仰を忘れていた彼らに、ある種の安心を与えたのだ。


 そして、この首都フローガの人間は誰も彼もが“炎の神”に絶大な信仰心を抱いている。祈りを捧げればいいと分かればすぐに、深いことなど考えずに身体が動いてしまうほどなのだ。そして、その人々の動きが入り混じるその瞬間をゼヴァルディアは見逃さなかった。頭ではなく、身体が反応する。そのレベルでの信仰心を持っていない者は、必ず周りを見てから真似をするように動くのだ。




「見つけた」




 入り乱れる群衆の中にただ一人。祈りのポーズはもちろん、捧げるに至るまでにほんの一瞬出遅れた者を見つけた。それは判断が遅れたのではない。明らかに、他の者の動向を伺い、動きを真似するために観察する一瞬だった。


 次の瞬間、その者に向けて右手指先を真っ直ぐに伸ばすゼヴァルディア。相手はまだこちらに気がついていない。ここぞとばかりに、半神と思わしき人物を仕留めようとしたその寸前。




 背後の火山が第二波の巨大な爆発を起こすとともに、多量の人間が祈りを捧げに鮨詰めになった『炎の神殿』が、丸ごと大爆発を引き起こしたのである。

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