第52話 誰かが泣いている
『だから、まずは汎用的なスキルを調達してから……』
『そんなまどろっこしいことなどしておれぬわ。すぐそこに大勢の人間がいるでは……』
俺の頭の中で議論を続ける二人。白熱するのは悪いことじゃないけど、何だか自分まで責められているようで少し委縮してしまうな。
『やぁ君たち、あまりそう興奮しないで。時には落ち着くことも大事だよ』
『『兄
しゅん、本当に責められてしまった。うぅ、この落ち込んだ気持ちをハヤちゃんに慰めてもらおうと振り向くが――
ぷいっ
そっぽを向かれてしまう。やれやれ、今朝からずっとこんな感じだ。
昨日、廃墟となったコンビニで一夜を明かした俺たちは、再び三人で手を繋ぎながら
途中、何度か
恵理香は学園に潜入する前に、近隣の民家に隠れているであろう住民をパーティに加え、攻撃系スキルを確保しようと主張した。
昨日の一件のとおり、ハヤちゃんのスキル【
そこで汎用的な攻撃手段を確保し、学園内で敵と遭遇したときに備えようというのが恵理香の考えであった。
対する沙那もその意見には同意したが、結局は道中でそれらしき機会に遭遇することもなく、こうして学園に辿り着いてしまったわけである。
もっとも、
実際は消極的な案でしかなく、やはり本命は学園内の潜入であるとして、沙那はこのまま作戦を実行するように主張したのであった。
どのみち一旦は【
本当は家の中に入った方が安全なのだが、鍵が掛かっているかも知れないし、僅かな物音でも斥候に察知される危険性があるため、今は外壁を背にして庭先に座り込む格好となっている。
いつでもスキルを再発動できるように、入口側から俺、ハヤちゃん、沙那の順で並び、道路側を警戒しながらリュックサックから取り出した飲み物を口に含んだ。
恵理香の言うことは正しい。もしも事前に攻撃手段が得られれば、それだけ潜入時の行動の幅が広がる。
しかし、それはあくまでベストの状態であり、現実にはベターな条件で実行しなければならないことが多い。
果たして、現在の葦原市にどれだけの人々が隠れ住んでいるのか、俺たちはおろか
そんな偶然を当てにして手をこまねいていては、いずれは焦りから致命的なミスを犯すか、或いは到底覆せない決定的な戦局を招いてしまうかも知れない。
まあ、今のこの状況がもう既に決定的に近いわけだが、それに抗おうと四人で決めたのだからいつまでも弱音を吐いてはいられない。
恵理香と沙那の口論、もとい議論は終わりそうもない。しかし、そろそろ結論を出さなくてはと俺が身を乗り出そうとしたとき――先ほどからずっと黙っていたハヤちゃんが俺の袖を引いた。
「ねぇ、お兄ちゃん。この家から誰かの……泣き声がする」
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