第48話 オノゴロ
……
……
気が付くと
前後左右上下に至るまで全て白に塗り潰されている。それは色彩の喪失、或いは暴力であり、自身さえも世界に溶け込んで何も視認することが出来ない。
あぁ、俺は死んだのかな。直感的にそう思った。
やはり、
恵理香が、
『そうだな、私が知るお前はいつもそうやって後先考えずに行動してばかりだった』
突然、声がした。辺りを見回すが、やはり白に支配されて何も視えない。それでも確かに、その声には聞き覚えがあった。
『ひょっとして、親父なのか? いったい何がどうなっているんだ』
それは俺の父親【
『ずっと、お前が来るのを待っていた。初めまして……いや、久し振りと言うべきかな。なかなかに複雑な気持ちだよ』
それは間違いなく親父であった。しかし、どこか様子がおかしい。親父であって親父でないような……言いようのない違和感を覚えた。
『親父、どういうことなんだ。ちゃんと説明してくれ。ここはどこなんだよ!』
知らず知らずのうちに声を荒げてしまう。それが死の恐怖か、再会の喜びか、或いは漠然とした不安からなのか、自分でもよく分からない。
『ここがどこか……そうだな、まずはそこからか。おそらくここは西洋で言うイデア界、日本風にすれば
イデア界とは古代ギリシアの哲学者プラトンが提唱したもので、人間の認識の背後にある完全な真実で作られた世界のことだ。人類共通の無意識層、或いはアカシックレコードのようなものかも知れない。
そして、
『じゃあ、やはり俺は死んでしまったというわけか』
『いや、そうではない。少々悲観的な物言いをしてしまったか。では、何か別の名前を付けるとしよう……そうだな、オノゴロと呼ぶのはどうだ』
オノゴロ、か。それはまた畏れ多いことで。
かつて、
そして、
『それで、ここがそのオノゴロだとして何で親父はここにいるんだ? 隠れてないで早く姿を見せてくれよ』
『隠れている訳ではない。何も見えないのは、お前の認識がまだこの空間に追い付いていないからだ。もっとも、そうなってしまったら手遅れなのだがな』
訳が分からない。しかし、親父の言葉にはどこか既視感があった。それはまるで、あのときハヤちゃんと迷い込んだ
『そうだ、心配しなくてもこれは一過性のもの……過剰な力を行使した副作用だと思えばいい。あの女子高生と同様に、じきにお前も元の世界に帰れるだろう』
そうなのか、それを聞いて安心した。てっきり、俺は死んでしまったとばかり思っていたが、どうやら気を失って夢でも見ている……みたいなものなのかな。
『ああ、今はその認識で構わない。本来は声も聞こえないのだが、お前の意識レベルが落ちたことで、皮肉にも【
そう言えば、Family Listにおける親父の表記はずっと灰色がかったままだった。それはつまり、覚醒時には会話が出来ない状態……この空間に囚われているということなのだろうか。
『いったい、親父に何があった? なぜ、ハヤちゃんと引き合わせたんだ? いい加減、知っていることを教えてくれよ』
『ああ、恐らく今しかその機会はないであろうからな。私が知る世界の秘密を教えよう。お前にとってはありふれた、私にとっては初めてとなる父と子の会話として』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます