第43話 方針決定


「なるほど、イザナミに生玉いくたま……兄様は既にやつらと遭遇していたのですね」


 俺は沙那さな黄泉国よみのくにでの経緯を説明する。今ではもう随分と前のことのように感じるけれど、あれがハヤちゃんとの始まりだったんだよなあ。


「そうなると、作戦目標は大きく分けて二つですわね。一つは葦原あしはら学園に捕らえられている人々の中から、条件に合うスキルを保有する者を救出してパーティに加える」

『そして、大幅なパワーアップを遂げた兄さんがイザナミの隙を突いて生玉いくたまを奪還し、ハヤちゃんと協力して黄泉国の勢力から学園を解放するのよ』


 しみじみと昔を回想している俺を尻目に、二人が何やら物騒な話を進めていく。あまり気が進まないけれど、ハヤちゃんもうんうんと頷いているし、やはりそれしかないのかな。


「でも、その後はどうするんだ? 今度は天津神あまつかみの軍勢と戦えって言うのかよ」


 高天原たかまがはらの勢力は黄泉国よりも数段上だろう。東京には中日本を治めるニニギ率いる十柱の神々。そして、西からは九州、四国、中国地方を統一したヒコイツセの別動隊が迫ってきているという。


 そういえば、天津神とイザナミの関係って実際のところはどうなんだろう。イザナミは神々の母と呼ばれているが、それは主に葦原中津国あしはらなかつくにのことであって、つまりは国津神くにつかみから見た話だ。


 アマテラスにせよ、イザナギが黄泉国から帰還した後のみそぎで生まれたわけで、もしも人間の血縁関係を強引に当て嵌めるのであれば、再婚した元夫の子ということになる。


 もっとも、天孫てんそんニニギの妻となるコノハナサクヤヒメは、国津神であるオオヤマツミの娘であるから、天孫降臨てんそんこうりんと国譲りを契機として両者の融合が図られたとも言える。


 これをさらに歴史的事実の比喩と仮定して考えると、古代日本を征服した大陸からの外来勢力が、現地の有力な血筋を取り入れながら支配体制を盤石にしていったとも、或いは逆に現地側が支配者を民族的に同化させて取り込んだとも推察できるが、話が脱線しすぎだろう。


『噂では両勢力は同盟関係にあるらしいけど、統治形態からいって大きく異なっているわね。天津神は神気しんきと呼ばれるもの……これは神にとっての力そのものらしいけど、それを人間に吸収させて教化しているわ」


 教化された人間は天津神を信奉する神徒しんとになる。そうして、現在のインフラを維持しながら穏便に支配していくのが天津神のやり方なのだという。


「それに比べて黄泉国の方は随分と原始的というか、鬼どもが恐怖と暴力で支配しておる。確かに天津神の方が幾分マシかも知れぬが、奪還した学園をみすみすくれてやることもあるまい」


 つまり、両方とも戦うってことね。まあ、先のことを考えても仕方ないか。まずは葦原学園の方を何とかして、ハヤちゃんの大事なものを取り返してあげよう。


 俺がそう告げるとハヤちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。この笑顔を守るためならば、多少の無理も通さないといけない。


『そうと決まれば、今夜はこの辺で解散としましょう。兄さんと女狐が傾城傾国ニューワールドを行使すれば、敵に見つからずに学園に潜入できるはずよ』


 そうか、俺と沙那がハヤちゃんを挟むように手を繋げば、三人ともすっぽり効果範囲内に収めることが出来る。これを独りでやろうとすれば、かなり無理をしなければならなかっただろう。


「うむ、もうチビっ子も寝る時間よな。では兄様、後ほどゆっくりと続きを……」

『ああ言い忘れてたけど、兄さんのモニターは24時間オートでやってるから何かあったらすぐに気付くわよ』

「はて、それがどうかしたのか。兄が大人になるところを知りたいのは、妹として分らぬでもないが」


 そうして、またもや俺のスキルを挟んで睨み合う二人。あれ、さっきは同盟締結とかしていなかったっけ。


「ダメだよ、お兄ちゃんは私と寝るんだから。ねっ?」


 しかし、思わぬところでハヤちゃんが自己主張する。うん、俺の服の裾をぎゅっと掴んでいじらしい。これ幸いと俺もそこに乗っかることにした。


「じゃあ、俺はハヤちゃんと寝るから。お前たちも明日は遅くならないようにな」


 俺たちは手を繋いで二階の自室に向かおうとする。そんな後ろ姿に二人から暴言が浴びせられた。


「ま、まさか兄様がそんな趣味をお持ちであったとは……不覚!」

『ちょっと兄さん、ロリコンなのは構わないけどそれは犯罪よ?』


 おいお前ら、人を変態みたいに言うなよな。

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