第41話 三妹同盟締結


万理一空ユビキタスはただの通信系スキルなんかじゃない……パーティメンバーのスキルをコピーすることが出来るのよっ!』

『『『な、なんだってーー!?』』』


 俺たちはその念話に声を揃えて驚く。いや、その前にだな……


恵理香えりか、無事だったのかっ!』


 間違いなく、それは久方ぶりに聞く恵理香の声であった。おそらく命に別状はないことは万理一空ユビキタスのFamily Listで分かってはいたが、実際にこうして話が出来たことで確信できた。


『えぇ、心配かけてごめんなさい。ちょっとばかし昏睡状態に陥っていたみたいで、先ほど目が覚めたばかりなのよ』


 その返答に絶句してしまう。天津神あまつかみによる首都急襲で少なくない犠牲者が出たことはネットの情報で知っていたが、あわや恵理香もそうであったかと思うと今頃になって寒気がした。


『でも、もう大丈夫よ。まだ詳しい場所は言えないけれど、都内の秘密の隠れ家に匿われているから』

『そうか、とにかく無事みたいで安心したぞ』


 中日本は既に天津神の支配下にある。容易には助けることも助けられることもないだろうが、ひとまずは互いの無事を確認できただけでも朗報であった。


『それで恵理香よ、先ほどの発言の真意を問おうか。まさか兄様のスキルにそのような力が隠されていたとでもいうのか』

『そうよ女狐、兄さんならそれくらい出来て当たり前じゃない。まあ、赤の他人のアンタには兄さんのことなんて何も分からないでしょうけど』


 実妹と偽妹ぎまい、恵理香と沙那さなは犬猿の仲で、顔を合わせると口喧嘩の応酬となる。さっそく、俺のスキル越しに火花を散らしあうのはやめてほしい。


『まぁまぁ恵理香、沙那には色々と助けられてるんだから程ほどにしとけよ』

『えっ、さな……? ちょっと女狐、アンタ兄さんに何したのよ!?』

『フハハ、それは若い男女が一つ屋根の下に二人きり……何も起こらないはずがなかろうて』

『大丈夫、お兄ちゃんの貞操は私が守るから』


 なんだろう、このカオスな会話は。恵理香が加わったことで急に騒がしくなった。女三人よればかしましいとはこのことだろう。


『話を戻すわね。先ほど私の【一切皆空アーカーシャ】でも確認したわ。兄さんの万理一空ユビキタスにはパーティメンバーのスキルを共有化し、自分のものとする能力があるみたいね』


 恵理香のお墨付きとあらば間違いないだろう。俺が試しにParty Listを開いてみると、以前見たときとは少し表示が異なっていた。


【Party List】

 ニギ ハヤ

 天道てんどう 沙那さな傾城傾国ニューワールド

 (2/7)


 ハヤちゃんと沙那の名前がある。そして、沙那の横にはスキル名があるが、これが共有の証なのかも知れない。その下の数字は日付じゃなくて……7人中2人という意味かな。


 俺を加えて8人がパーティの上限らしい。つまり、あと5人、5種のスキルの取得が可能ということを意味している。


 それだけスキルがあれば、もう少しマシなことが出来るようになると思う。東京の恵理香のように皆でどこかに秘密基地でも作って、黄泉国よみのくにの勢力の目を隠れて暮らすことも可能ではないか。


 少し先行きに希望が持てた気がした。しかし、頭脳明晰な恵理香の考えていたことは俺の思考の遥か先を行っていたようである。


『ねぇ女狐、葦原あしはら学園に捕らえられている人たちの中に、能力向上ステータスアップ系のスキル保有者はいなかったかしら。或いは段階成長レベルアップ可能とか、魔法の使用無限アンリミテッドとかでも良いわ』


『ふむ、確かにそんな輩もおったな。体力が脆弱なのに能力ステータス倍増とか、鬼の一匹も倒せないのに段階成長レベルアップ可能とか、魔法が使えないくせに使用無限アンリミテッドとか、ほんと宝の持ち腐れと笑われておったわ……あっ』


 恵理香の問いに、沙那もまた真意を得たように反応を示す。おいおい、俺たちを置いてかないでくれよ……って、ハヤちゃんも何やら神妙に頷いているし。


 『いいこと、兄さん。これはとんでもないことになるわよ。スキルはね、個人が単独で使用するだけでは限界があるの。先の横浜頂上決戦において天羽々斬あまのはばきりチームが敗北したことで、仙台の臨時政府もようやく運用体制の本格的な見直しを進めているわ』


『さよう、私の傾城傾国ニューワールドとて、直接敵を倒すことには適してはおりません。しかし、そこに攻撃系スキルが加わればどうなるか……相手に気付かれずに倒すことも可能です』


『そして、敵を倒すことで段階成長レベルアップ可能スキルにより基礎能力を向上させ、さらに能力ステータス倍増スキルで上乗せする。それに魔法を覚えた状態で使用無限スキルを行使すれば、お兄ちゃんは魔法が撃ち放題になる』


 三人揃って俺に講釈する妹たち。うーん、君たち頭良すぎない? それとも俺の回転が鈍いだけなのかな。それに何だか息もぴったりのようで、俺を無視してどんどん話を進めてしまう。


『女狐、ハヤちゃん、ここは一時休戦としない?』

『ああ、希望が見えてきたのだ。他ならぬ兄様のために私たちがやらねばなるまい』

『うん、これもお兄ちゃんのためだもんねっ!』


 あのー、もしもし? あなたのためとか、一番あてにならない言葉なんだけど。しかし、どうやら三人の間には異常なまでの熱気が迸っており、俺の声など届きそうになかった。


『一人は、お兄ちゃんのために……』

『皆は、兄様のために……』

『私たちで兄さんを神にも負けない最強のスキル使いにするわよー!』

『『『おぉーー!!!』』』


 これが人類史の分水嶺ぶんすいれい――

 後の世に長きに渡り語り継がれる一大反抗作戦『国譲不くにゆずらず』の序文『三妹さんまい同盟』締結の瞬間であった。

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