第38話 ヤバい夜這い
『
およそ3週間ぶりに念話が可能となる白字表記となった実妹に対し、俺は繰り返し呼びかけ続ける。
しかし、無常にもその返答はなく、俺の声だけが虚しくパーティー間で響き渡るだけであった。
「ふむ、あのブラコン気質の恵理香がだんまりとは妙ですわね。でも、これで最悪の事態だけは避けられたのではないかと」
俺は再びソファに腰を下ろす。
──良かった。
本当は、あの日恵理香は死んでしまったのではないかと考えていた。
俺は妹のそばに付いていてあげることが出来なかった。守ってやることが出来なかったと悔やんでいた。
それが生きていてくれたのだ。そのこと一つを取っても、俺はこのスキルを得て本当に良かった。
いつの間にか、眼下の床には雫が落ち、俺の頭には二つの手が重ねられていた。それは一方は艶っぽく、そして他方は小さな手であった。
………
天道の登場により、俺たちは計画の見直しを余儀なくされた。とはいえ、それは上方修正だから好ましいものである。
天道のスキル【
一般的に両手を広げた長さと身長はほぼ一致するという。天道の身長が160cmくらいだとして、腕の長さは各50cmくらいになる。
つまり、自分を中心として半径50cm以内にあるものは不可視とすることが可能となる。これで近隣から食糧などの物資を安全に調達することが出来るわけだ。
天道に
もっとも、さすがに常時発動とはいかないようで、途中で何度か休憩を挟みながら、向こう三軒両隣が終わる頃には、時刻は夜の8時を指そうとしていた。
もう夜が暗くないことにはすっかり慣れてしまったが、それは寝なくても良いことを意味するものではない。
俺たちは天道が集めてくれた物資で軽く夕食を済ませると、交代で風呂に入って今日は早めに休むことにした。
明日の予定があるわけではないが、色々なことがあったせいか、みんなぐったりとしていた。特にスキルで活躍してくれた天道は、気丈に振る舞ってはいたが疲労が見て取れる。
「ありがとな、天道。お前が来てくれて助かったよ」
風呂上がりの天道を認めて俺は声を掛けた。なんだかんだ言って、彼女のスキルがなければ食事にありつけることも、こうして今日を無事に過ごすことも出来なかったかも知れない。
「もう、兄様ったら。いつになったら
そうして、拗ねたような口振りで俺の隣に腰掛ける。着の身着のまま逃げてきた天道には学園の制服一式しかなく、さすがにハヤちゃんのように恵理香のものとはいかないため、俺の服を貸していた。
ハヤちゃんはまだ子どもということもあり、いつも寝るのが早い。今夜も眠たそうな目をしていたため、先ほど恵理香の部屋で寝かせてきたばかりだ。
「本当に感謝してくださるなら、せめて態度で示してくださいまし」
背が高い方とはいえ、やはり男ものの服ではダブついてしまうようだ。たるんだトレーナーの首元からは鎖骨がチラリと見え、胸元は暗闇へと続いている。
下はジャージを履いているが、下着の替えがないということで、どうやらそのままにしているようだ。時折身をくねらせた際には、
「今だけは、私のことを
彼女は
あれれ、なんかこれマズくない? ヤバいよ、夜這いだよ。
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