第30話 見えた光明


 『天羽々斬あめのはばきり』チームの隊長・武見たけみは考えていた。


 スキルを用いた戦いはとにかく先手必勝である。相手が能力を使う前に制圧することが望ましい。それは神相手でも同じはずだと。


仲田なかた、初っ端から仕掛けるぞっ! 琴司ことし炉主ろぬしも自己の判断で行動せよ!」


 そして、武見が【金剛不壊ダイヤブロック】により金剛石ダイヤモンドの盾を顕現すると、仲田が【骨騰肉飛ブレインマッスル】を発動する。


 今回はあらかじめ隊服を脱ぎ捨て、みるみるうちに半裸の筋肉ゴリラと化した仲田は、武見と共に前方に盾を構えて突撃した。


 シールドバッシュ、或いはシールドチャージというべきか、盾を武器として使用する。金剛石ダイヤモンドの硬度にゴリラの勢いを乗せ、敵を圧し潰そうという作戦である。


 やがて、金剛石が鋭利な角を形成し、凄まじい速度で天津神あまつかみたちに迫っていく。そして、船上に座すニニギに狙いを定めたところで……タケミカヅチに片手で受け止められた。


「……参ったな。あの相撲取りみたいなやつにならともかく、こんなお嬢さんにいとも簡単にか」


 武見は嘆息した。短甲たんこう(胸鎧)を身に付けてはいるが、相手の外見は端的に言えば、まるで欧州からの女子留学生のようである。どちらかと言えば体型も細身な方で、アメノウズメと比べたら慎ましいくらいだ。


 しかし、そんな女性――と言って良いのかは分からないが――に対して、自衛隊の猛者が二人、それも片方はスキルで超強化されているにも関わらず、霊剣はおろか膂力りょりょくだけで易々と止められてしまっている。


「二人とも下がってください! 炉主ろぬしさん!」

「あいよっ!」


 後方から琴司ことしの声が飛び、我に返った武見たちが飛び退く。それを確認して、かさず炉主が構えていた5.56mm機関銃ミニミを掃射する。


 目標は隊長たちと同じくニニギ。ただでさえ、数に劣る四人が総大将を狙わない道理はない。しかし、先の湘南海岸での戦いのとおり、天津神の発する神気しんきの前に無力化されると思われた。


「これは……アメノタヂカラオ、前に出よ!」


 銅鐸の髪飾りを付けた可憐な少女、オモイカネが咄嗟に指示を出す。放たれた弾丸の雨は減速することなくニニギに向かい……今度はアメノタヂカラオに受け止められた。


 しかし、僅かながらに先の戦いと異なる点は、アメノタヂカラオの体表が衝撃を受けたように赤みを帯びていることである。


「何の真似だ。あの程度の攻撃が我に傷を付けると思うたか」

「いや、お召し物がほつれたら私が面倒」


 ニニギの詮議にオモイカネが不遜な態度で答える。記紀きき神話では両者は甥と伯父の関係にあり、またオモイカネは今回の征討軍における参謀、或いはお目付け役でもあることから、他の神々に比べて自由な振る舞いが許されていた。


 一方で、琴司ことしは先の現象に対して手応えを感じていた。八岐大蛇やまたのおろち戦での無反動砲と違い、機関銃は爆発で推進力を得るが、実際に当てるのは弾丸そのものである。


 つまり、火属性ではなく純粋な運動エネルギー、それに反対属性を付与する【二律背反ダブルスタンダード】を行使したらどうなるか……結果はご覧のとおりだ。


 ある種の精神エネルギー、気のようなものを帯びた結果、それが天津神の神気を中和、或いは無効とさせたことが窺える。


「じゃあ、どんどんいこうかね。こっちも頼みますよ」


 まるで思考を先回りしたかのように、炉主が【刀槍矛戟インフィニティ】で武器庫と空間を繋ぎ、さらに三丁の5.56mm機関銃ミニミを取り出す。


 そして、琴司が気属性を付与し、武見と仲田を加えた四人が一斉掃射に掛かろうとして……高速で接近したタケミカヅチに銃身を切り落とされてしまう。


 再び武見は金剛石の盾に持ち替え、仲田と共に押し合いを始めた。さすがは軍神、今の攻防でもう気付いたようだ。


 ――琴司の【二律背反ダブルスタンダード】は、天津神にさえも届き得るのだと。


炉主ろぬし琴司ことしを連れて下がれ! そして、後方の四人と合流してここから撤退しろっ!」

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