第29話 天羽々斬チーム


 アメノウズメの舞いにより、湘南海岸に布陣した自衛隊は教化され、逆に首都東京に侵攻する天津神の先遣隊とされてしまう。


 そして、オモイカネが天鳥船あめのとりふねを操作すると、巨大な未確認飛行物体UFOはダウンサイズし、羽の生えた帆船のような姿かたちに変化した。


 ゆるりと進む船の上で、ニニギたち十柱の神々が地上を見下ろしていた。前方には戦車隊と歩兵隊が進軍し、人々はその絶望的な光景に恐れおののき、逃げ惑う。


 日本政府は九州地方における失態を繰り返すように、自衛隊同士の交戦という最悪の事態を避けることに終始し、予備戦力の投入には及び腰であった。


 市民の中には、勇敢にも身に付けたスキルで船を攻撃する者たちもいた。しかし、天鳥船あめのとりふねもまた神気を纏っており、アマノイワト機構がなくとも並の攻撃を寄せ付けなかった。


 逆にアメノコヤネの祝詞のりととフトダマの真賢木まさかきから発せられた神気を浴びて、彼ら彼女らもまた天津神の尖兵と化していった。


 抵抗勢力さえも取り込み、軍勢を拡大して東京へと迫る天津神。やがて、横浜周辺を通過したとき、上空を陸上自衛隊の輸送ヘリコプターCH-47JAチヌークが飛び、そして8つの人影が降下した。


 教化された歩兵隊が5.56mm機関銃ミニミを構える。そして、一直線に飛んで向かってくる集団へと一斉掃射した。


 しかし、その銃弾は先頭に展開された金剛石ダイヤモンドの壁に弾かれる。次の瞬間、唐突に歩兵隊のいる地面が陥没し、更にその上を延伸した街路樹が覆い尽くした。


 同じ現象があちこちの部隊で起き、ついにはその殆どがまるで巨大な落とし穴に落ちたかのように無力化されていった。


鳥見とりみ横田よこた、よくやってくれた! 後は俺たちに任せて、ヘリに戻れ!」


 一団の指揮官と思しき男が二人を労う。しかし、彼らは黙って首を振ると、船上に座す天津神を目で示した。


 先の出雲国いずものくに(島根県)で行われた八岐大蛇やまたのおろち討伐作戦。神話の怪物をたった8人で退治した日本最強のハイスキル部隊『天羽々斬あめのはばきり』である。


 隊長の武見たけみのスキルは【金剛不壊ダイヤブロック】。先の金剛石の壁は彼が顕現したもので、その効果はくだんの討伐を経てさらに磨きが掛かっていた。


 また、鳥見の【積土成山ブルドーザー】、横田の【一樹百穫ツリースト】の成長も目覚ましい。戦車の多くが破棄されていたとはいえ、湘南海岸の自衛隊をたった二人で実質的に無力化したのである。


「すまない、お前たちは空中では不利だ。地上に降りて嶋戸しまと浮田うきたのフォローを頼む!」


「「了解!」」


 嶋戸の【古今独歩エア・ウォーク】が飛翔を可能とし、浮田の【鄒衍降霜コール・オブ・マーン】が能力向上バフ自動治癒オート・ヒーリング効果を与える。


 しかし、後方支援特化の二人には戦闘能力は皆無だ。天津神の反撃に備えて、四人は地上で待機し、部隊の支援に回ることになった。


仲田なかた琴司ことし炉主ろぬし! 俺たちは敵船に突貫するぞ! 本職の自衛官の意地を見せてやれ!」


「「「了解!」」」


 そして、武見率いる四人の攻撃陣アタッカー天鳥船あめのとりふねに乗船し、ここに神と人間の頂上決戦が始まろうとしていた。

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