第27話 十柱の神々


「……アマノイワト機構に損傷を認める。主機エンジンの出力も低下中」


 天鳥船あめのとりふねの内部にて、白絹の衣に黒絹の(スカート)を合わせた少女が報告する。


 顔立ちはまだあどけなく、銅鐸どうたくを模した髪飾りを付けており、いかにも可憐という言葉が似合いそうな容姿である。


 しかし、その正体は高天原たかまがはら随一の智慧ちえの神にして、天津神あまつかみの参謀兼船長を務めるオモイカネであった。


「なかなかやるではないか、人間ども。そうでなくば、天界より降りてきた甲斐がないというものよ」


 それに応えたのは、深紫に染められた礼服を纏い、右手には天叢雲剣あめのむらくものつるぎ、左手には八咫鏡やたのかがみを持ち、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの首飾りを付けた貴人。


 アマテラスより三種の神器を授けられ、葦原中津国あしはらなかつくにを支配するべく高千穂峰たかちほみねに降臨した天孫てんそん、天津神軍の総大将ニニギである。


 そして、ニニギの後方に侍るは五伴緒いつとものお。かつて、岩戸隠れをしたアマテラスを誘い出すため、開戸かいとの儀式を司った五柱の神々である。


 天安河あまのやすかわ八咫鏡やたのかがみを作ったイシコリドメ。

 八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを作ったタマノオヤ。


 太占ふとまに(占い)を行い祝詞のりとを唱えたアメノコヤネ。

 同じく真賢木まさかきを捧げ持ったフトダマ。


 そして、煽情的な踊りで八百万やおよろずの神々を沸かしたアメノウズメ。


 相模湾で日米艦隊を壊滅させたタケミカヅチ、フツヌシ、アメノタヂカラオを武の神とするならば、五伴緒いつとものおしゅの神である。


 これら総勢十柱の神々が天津神の尖兵にして、葦原中津国平定あしはらなかつくにへいていの使命を受けた征討軍であった。


「どうする。このまま都まで強行するか」

「いや、ここで良い。いたずらに犠牲を増やすなというのが皇祖神の宸意しんいだ」


 こうして、恐怖の象徴であった天鳥船あめのとりふねは湘南海岸に不時着した。ニニギとオモイカネが船外に姿を見せると五伴緒いつとものおが続き、先に出撃した三神も集う。


 そして、それらを待ち受けるように、国道134号線にずらりと16式機動戦闘車が布陣した。随伴する歩兵も5.56mm機関銃ミニミを構えている。


 上陸した神々の侵攻を止めるため、東京を始め関東地区住民の避難の時間を稼ぐため、陸上自衛隊東部方面隊が決死の覚悟で至上の存在に挑む。


 しかし、ニニギはそんな人間の身命を賭した抵抗も意に介さず、傍らに佇むオモイカネに疑問を投げかけた。


「それで、アイツの存在は感じ取れるか?」

「分からない。地上にいるのは間違いないが、反応が微弱過ぎて感知できない」


 ニニギはさも詰まらなそうに顔をしかめる。アマテラスより自身と同じ使命を帯びながら、天界を裏切り地上に逃れたもう一柱の天孫てんそん……不肖の妹をの神は探していた。


「まあ良い、今は先にするべきことがある」


 日本全土を支配すれば、自ずと居場所も判明するだろう。当初の目論見どおり首都東京の占拠を優先した司令官は、臨戦態勢の自衛隊を睥睨へいげいし、全隊に響き渡る声で言い放った。


が高いぞ、く垂れよ」

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