第12話 スキルの目覚め


「……以上が、今回の首相会見の概要となります」


 ちょうど日付が今日に変わった頃――事態発生からおよそ12時間を経て、二度目となる首相会見が行われた。


 それは最初の会見からかなり踏み込んだ内容となり、深夜にもかかわらずネットを中心に大きな反響を呼んだらしい。


 もっとも俺はその最初の会見も知らないため、国営放送のパネル表示や解説を聞きながら、ただただ驚くばかりであった。


 首相会見の要点は大きく分けて以下の三点である。


 まず一つ目として、世界各地で同時多発的に核兵器が使用された可能性が極めて高い。その影響で土砂や重金属、水分などが上空に巻き上げられ、非常に厚い高層雲こうそううんを形成している。


 これらが太陽光を乱反射させることにより、夜間でも日中の曇り空ほどには明るいのだそうだ。しかし、同時に人工衛星との通信遮断が発生してしまっている。


 さらに、海上では放射性物質を含んだ霧が本州から九州までの周辺海域を覆うように形成しており、電波の乱れから外部との連絡が取れないとのことだ。


 これだけでも十分過ぎるほど由々しき事態であるが、その先はさらに度肝を抜かれるものであった。


 二つ目は、日本各地で正体不明の生物、UMAが多数目撃されていることである。


 それは鬼やゾンビ、シャドーピープル、土蜘蛛などの魑魅魍魎だけでなく、巨人や三本足の怪鳥、多頭の龍など多岐に渡り、個人により撮影された動画がネットに溢れかえっているらしい。


 鬼やゾンビは黄泉国よみのくにで遭遇した黄泉戦よもついくさ黄泉醜女よこつしこめだと考えられるが、もともと鬼や亡者の伝承は日本中にある。


 しかも巨人や龍に至っては、明らかに黄泉国にはいないはずの神話生物であり、それらが一斉に地上に姿を見せるなど悪い冗談にしか思えなかった。


 通常であれば、政府がそのような非科学的な発表をすることなどあり得ないことだが、あまりにもネットで拡散が進んでしまったために、黙殺することが出来なくなったようだ。


 もっとも、あくまで主題としてはそれらの存在を認めたというよりも、先の放射性物質の拡散と合わせ、不要不急の外出を避けて屋内待機を呼び掛けるものであった。


 一方で、現時点で避難指示に踏み切るべきだという意見もあり、避難の是非は各自治体に任されているようだ。


 そして、三つ目の発表により事態は更なる混迷を極め、物議を醸す結果となった。


 日本人固有のものとして、国民全員に不思議な力が宿っているという。それは神通力スキルと呼ばれるもので、その種類や効果には個人差があるが、いずれも超常的な能力を発揮できるらしい。


 にわかには信じられないが、その手順を首相自らが報道陣の前で披露したようだ。


 まず、スキルの存在を深く信じ込む。次に、頭の中に沸いたイメージに従い行動する。実に単純明快だ。


 ちなみに、当の首相本人のスキルは物体を高速で投擲とうてきする能力だったらしい。


 テレビには首相が素人同然のフォームから剛速球を投げる様子が映し出されており、もう少し早ければ政治家ではなく野球選手になっていたというユーモラスなコメントが添えられていた。


 また、なるべく多くの国民がスキルを確認し、この未曽有の事態に備えてほしいとも訴えていた。この発言には無責任ではないかとの批判もあったが、それだけ状況が切迫しているということなのかも知れない。


 アナウンサーはスキル使用はあくまで自己の判断で行うようにと伝えていた。そんな得体の知れない力など、どんな悪影響があるか分からないからだ。


 それよりも身の回りで不足品がないかを確認し、また助けが必要な場合は近隣や町内会で助け合うなど、一般的な災害対応を心掛けるように呼び掛けていた。


 しかし、俺は知っている。ハヤちゃんの存在といい、黄泉国の出来事といい、これらは現実に起きていることであり、また遠からず危機的状況を迎えるであろうことを……。


 俺は先ほどの手順に従い、スキルの使用を試みることにした。まずはスキルの存在を信じ込むことだ。


「スキルが使える、スキルが使える、スキルが使える……」


 ハヤちゃんが不審な目で俺を見ていた。一瞬、心が折れかけたが、目を瞑って闘技場でのハヤちゃんの雄姿を思い出す。


 あのとき、ハヤちゃんはそれこそ不思議な力を行使していた。あれがスキルなのかは定かではないが、あんな力が俺にも宿っているのかも知れない。


 これからは俺がハヤちゃんを守っていかねばならない。そのためには、このスキルと呼ばれる力が絶対に必要となる。


(頼む、俺に力をくれ。どんなものにも負けない強い力を……)


 その想いが功を奏したのか、やがて不思議な感覚が自分の中に広がっていくのを感じた。これがテレビで言っていたことなのだと本能的に理解する。


 そして、再び目を開けると――そこには巨大な文字枠ウインドウが表示されていた。

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