第4話 黄泉路に舞う
無数の屍が斃れ伏す祭壇で返り血ひとつ浴びず、幼女は凛として佇んでいた。
俺にも妹がいるので、あれくらいならそう……小学校低学年、8~9歳くらいだろうか。少なくとも二桁はいっていないと思う。
しかし、そんな年端もいかない彼女の周辺には、あまりにもグロテスクな光景が広がっていた。
その内の二十ほどは俺が
いったい何がどうなっているのかは分からないが、彼女は黄泉の軍勢と戦っているようだ。
しかし、日本神話で該当するような記述はない。イザナギには思えないし、次に黄泉国……正確には
それでも両神ともイザナミと戦うどころか、会ったことすらも不確かなのだ。やはり、そのいずれにも該当しない。
もっとも、妙な話ではある。神話とは古代の人々による作り話、フィクションだ。仮に何らかの歴史の比喩であったとしても、現代に生きる俺とは時間的に隔絶されている。
「ほぅ、なかなかやるではないか。さすがは
不意に、貴賓席から
しかし、それを受けても彼女は微動だにせず、正面に座す女王を見据えたままだ。俺はその言葉の意味を頭の中で反芻した。
そして地上世界、古代日本である
このとき、
なお、これは一説には、海外から渡来した騎馬民族が現地の在住民族を征服した歴史を示唆しているのではないかとも言われている。
そして、日本神話において
一方は、先のとおりアマテラスの命を受けて
そして、もう一方は……
「ギャーギャァー! グワアアアァァァァァァ!!」
突如、場内に響き渡る大絶叫に俺は意識を引き戻される。気が付けば、彼女の周りを再び鬼の大群が囲っていた。
どうやら観客席から祭壇に流れ込んでいったらしい。鬼たちの興奮した熱気が俺のところにも押し寄せてくるようである。
しかし、彼女がその華奢な手を翳すと、あるものは焼け、あるものは凍り、また裂け、圧し潰された。
まるで舞いを踊るかのように、彼女は四方から迫りくる鬼たちを殲滅していく。それはファンタジーの世界に登場する魔法にも思えた。
再び辺りには
俺はしばし、その神秘的な光景に我を忘れてしまっていた。いつまでもその姿を見ていたいと願っていた。
ここがどこなのか、目の前で何が行われているのか。夢か現実か、生か死か、神話か未来か、何ひとつ分からない。
でも、あの子はあんなにも強く、そして美しい。それだけが確かな真実であった。
それは無限に続くようにも思われた。とうに1,500の軍勢は消滅していた。
しかし、ここは黄泉国。総数1,500とは残存数ではなく、同時に存在できる数であったようだ。
躯の消滅と共に、新たな鬼が観客席に補充されていく。それはまるでゲームの世界で、モンスターが無限に湧き続けているかのようだ。
そして、幾陣目かの攻防の末、彼女はゆっくりとその場にくずおれていった。
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