第19話『採掘量が減ってるの?』
「ケンカ?」
フィカヨがちょっと俺に顔を寄せて言った。
それは……ない気がするんだけど。たまにはすれ違う感じになった事あるけど、声を荒げてケンカするなんて今まで無かったし。
「ちょっと目を離したらー。もう、楽しい酒じゃないんだったらさっさと帰って来てよね!」
二人の間にハヤが入って、キヨの腕に取りついて引っ張った。キヨはまだ微動だにしないでシマにガンくれている。
「はっ、優男はお迎えが来ちゃったな。冒険者やめて美人のおうちに帰った方がいいんじゃね」
シマがそう言うと、キヨは「てめぇ……」と言って飛びかからんばかりになっていた。
ハヤが抱きついて止めると、背後からさっきまでキヨと話していた冒険者まで手を伸ばした。
「兄ちゃん、もういいだろ」
シマの方も、別の冒険者が声を掛けつつ肩を叩いて意識をそらせようとした。
「ほらお前も、こっち来いよ」
二人とも憎々しげに睨み合っていたけど、息をついて離れた。ハヤはキヨの腕を取って「もう帰ろ」と言いながら引っ張って行く。
ハヤはチラッと俺たちに視線を送って、それから出るって感じに頭を振った。俺とフィカヨは慌てて二人を追った。店を出てからそっと追いつく。
振り返ってみたけど、レツとコウは追ってきてなかった。シマの方を見てるのかな。少し店を離れてからハヤはキヨを解放した。
「もー、退場するにしても派手すぎるっつの」
「退場させるならシマを引っ張れよ」
キヨは小さく息をついて「もうちょっと飲めると思ったのに」と言った。
いやタダ酒の話は聞いてませんって。っつかその前にハヤとデキてるみたいに見せてたんだから、いくら店変えたっつってもシマに鞍替えとか無理だろ。
「あれ、結局なんだったんだ?」
本気でケンカしてたってわけじゃないよな。キヨももう怒ったような顔はしてないし。
「鉱石狩りの間に、最近の採掘量減に関する猜疑心があるみたいで。俺が話してたヤツらとシマが話してたヤツらがやりあい始めちゃったんだよね」
「採掘量が減ってるの?」
キヨはチラッとフィカヨを見て小さく肩をすくめた。
だとしても、ただそこで一緒に話してただけの他人のキヨとシマがケンカに発展することなくないか?
「まぁな、別に鉱石狩りがあそこでケンカ始めたとしても、俺には関係ないんだけど。ただどっちの味方みたいに引き込まれても困るしなーと思ってたら、シマも同じだったらしく」
それでなんで二人のケンカになるんだ。全然意味わかんねぇよ。
俺が怪訝な顔でいたら、ハヤが小さくため息をついた。
「なるほど、それで双方のスタンス取ったまま勝手にケンカしたんだ。鉱石狩りのあれこれとは無関係の二人が無関係に熱くなっちゃったら周りが冷める」
キヨはとぼけるように眉を上げた。
あ、そういう?
本日初対面の別に仲間でもない二人がお互い個人攻撃始めたら、対立のきっかけとは言え鉱石狩りたちは尻馬に乗れない。実際二人のケンカを鉱石狩りたちも止めていた。
じゃあ、あの前まではあの鉱石狩りたちがやりあってたのかな。
「あー……それで僕たちに伝言したのか」
ハヤはそう独りごちた。伝言?
「苺の季節。僕たちが無関係の冒険者だから伝えて来たんだ。鉱石狩りだと、知らないうちに敵対関係になってるかもしれないじゃん」
なるほど、じゃあ彼女も最初から、俺たちが見かけない顔だから声掛けてきたのかもしれない。
「でも人前でケンカしちゃって大丈夫? 明日には一緒に発つのに」
フィカヨが伺うように聞くと、キヨもハヤも小さく笑った。
「そのための勝手なケンカだよ」
「あのまま鉱石狩りたちのケンカがエスカレートして双方が二人を抱き込んだら、実は仲間でしたとか絶対バラせないけど、それと関係なく勝手にケンカした冒険者ならその後どうなろうが鉱石狩りが口出せない。宿が同じだったから仲直りしたとかでもね」
「実際俺たちは鉱石狩りの諍いには関係ないからな。俺は関係ねぇって言えるけど、シマはそういうタイプじゃないだろ」
二人の説明にフィカヨは思い至ったみたいに頷いていた。
「にしても、採れる鉱石が減ってるのが、他の鉱石狩りの所為ってなんか変じゃない?」
「変だな。だいたいもともとが偶然で発見されるような代物だってのに、人為的に減らせるわけがない」
鉱石は探して見つかるものじゃない。だから今まで偶然発見されるに任せていた。偶然でも鉱脈が見つかればたくさん手に入るんだろうけど。
「でも誰かが採っちゃったらなくなっちゃうよね。そんなに鉱石狩りが居たら、この辺の鉱石はみんな取り尽くしちゃってんじゃねぇの?」
フィカヨは首を傾げて言った。
だから鉱石狩りたちがやり合ってるとか! 縄張りみたいのがあって、勝手に別の鉱石狩りが採っちゃったから減ったんじゃない?
俺の言葉にキヨは眉間に皺を寄せた。
「縄張りとか言ってられる範囲じゃないだろ。直線で行っても四、五日はかかるエリアだぞ」
あ、そっか。街道に沿って行ったら一週間以上だしね。うーん、そしたら広すぎて相当な数の鉱石狩りが居ないとならないな。
冒険者だって旅の途中にそこまで会わないってのに、鉱石狩りがそんなにいるかわからない。
ただ探しにくいものではあるけど、魔法で見つからない訳じゃないのはこの前のハヤでわかった。冒険者ならモンスターを倒して近辺に居ない事を確認してからなら、その範囲だけなら感知でも探せるはず。
「ダーハルシュカで鉱脈が見つかったから有名になったんだとして、この辺に鉱石狩りがたくさんいるのは、そうやって探せるからなのかな」
「でも商売敵がたくさんいる所より、知られてないところで探した方が見つかりそうじゃない?」
そしたらなんでみんなこの辺を拠点にしてるんだろ。
「だから鉱石がどういうところに、どうやってできるのかはわかってないって話だっただろ」
キヨは宿兼飲み屋のドアを開けて俺たちを通しながらそう言った。
どうやってできるかわかんないから、とりあえず見つかった辺りを探してるってことなのかな。
俺たちは一階の飲み屋の店内を過ぎて、奥の階段から部屋へと向かおうとした。キヨは通りすがりにチラッとカウンターを見る。
「まだ飲む気?」
それだけでハヤに突っ込まれたけど、キヨはとぼけるみたいに眉を上げた。
「仲直りしないとだろ」
キヨはハヤの肩を叩くと、カウンターへ向かった。……まぁ、普段街に居る時の飲んで帰る時間には早いしね。
ハヤはちょっとだけ呆れたようにため息をつき、
「ダーリン、ハニーを置いてくとか許されないっしょ」
と言ってキヨを追った。
「フィカヨも行く?」
フィカヨはちょっとだけ悩むように口を曲げた。
「飲みたい気持ちはあるけど、また何かあったら普段の二人じゃないフリとかしそうだし、俺が居てぶち壊しちゃうと困るからやめておくよ」
それにお金も貯めないと、と言って笑った。
金を酒につぎ込んでそうなキヨが、ある意味反面教師になってるな。
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