第7話『人を「消す」魔法って無いよね?』
ハヤはちょっとだけ伺うようにキヨを見る。何となく、答えがあってるか確認するみたいな。
「鉱脈って、マレナクロンにあったみたいな?」
あの街には廃墟の地下に黄鉱石の鉱脈があって、それを街のギャングが取り合ってたんだった。鉱石は魔法道具に使われるから、その魔力に応じて高値で売れる。
「鉱脈ってそんなに簡単に見つかるもんでもなくね? あれって偶然見つかるしかないって聞いたけど」
「基本的にはな」
キヨの話では、鉱石を探そうとして感知の魔法を使うとモンスターを引っかけてしまうから、魔法で鉱石だけを探すことはほぼ不可能らしい。感知魔法には、モンスターと鉱石は同じ魔法の存在として現れてしまうのだ。
実際、モンスターを倒すと得られるゴールドも高品質の鉱石だから、その辺同じなのかも。
鉱石は石だから基本的に地中から見つかるんだけど、どういうところにあるってのはわかって無い。ただ鉱石を探すのをメインにしている冒険者はいるらしい。鉱脈を発見できたら一攫千金どころじゃないもんな。
「でもキヨくん、その鉱脈がわかったところで、フィカヨとどう関係すんの?」
「人なんて、魔法以外で消えないだろ。人的でもない、モンスターでもない。他にあるのはエルフか鉱石だけだ。エルフが脈絡もなく唐突に人消しに来るとは思えない。だとしたら残るのは鉱石。単に転がってる鉱石に人ひとり消せる力はないだろうけど、消すほどの魔力になるなら鉱脈レベルかなと」
いつもながら論理的……あれ、でもさっきの話では鉱石って感知の魔法で見つからないんじゃなかった?
俺がそう言うと、キヨはとてつもなく不機嫌な顔で俺を見た。う、話聞いてたのかって顔に書いてある……
「そっか、キヨはある前提で探したから見つかったってことか」
あー、鉱脈を見つけたくて何もないところで感知広げても、範囲内のモンスター片っ端から引っかけてくるから何が鉱石で何がモンスターか判別つかないけど、鉱脈があるところで感知広げたら、当たり前だけど鉱脈を見つけられる。そういうことか……
「普通の感知だと表面的だから、地下深くになると難しい。さっき団長がやった時に歪みをつかみ損ねたとは言ったけど、鉱脈が見つかるような感知ができてなかったから、その辺、地中の奥まで見えるように改良させてもらった」
「めっちゃ疲れたよ、何させてんの」
キヨはハヤの言葉に笑っていた。
キヨは改良してたけど、その魔法陣を維持してたのはハヤなんだよね……キヨ、ホント人使い荒い。
「そしたら、その不自然な鉱脈ってのが……地下? にあるとして、それからどうする?」
「それはどう不自然かによるかな」
キヨはそう言ってハヤを見た。
鉱脈って普通どんな感じなのかわかんないから、何が不自然なのかわからないぞ。
「僕が見たのは鉱石の集まりみたいなのがいくつかに分かれて点在してる。だから鉱脈って言うのはおかしいのかな……」
「固まってたら脈じゃねぇな」
コウが肩をすくめるとハヤも頷いた。
「距離は?」
「さっきの感知だと一キロ範囲くらいだったかな。深さはまちまち。でも等距離に点在してる。ざっくりあの辺が中心部」
ハヤはさっきまでみんなが居たところを指さした。
俺は思わず少しだけ後ずさった。そうじゃん、フィカヨが消えたところが何らかの魔法の作用が働くんだったら、そこにいたら俺たちも消えちゃうかもしれないんじゃん。
「キヨくん」
キヨはコウを視線だけで見た。
「人を『消す』魔法って無いよね?」
「……俺の知る限り無いな。物理的に消すならできるけど血も肉も残る」
いや物理的にやらないでください……キヨが言うとマジでシャレにならない。
「じゃあ、フィカヨは消えたんじゃなくて、移動したってことでOK?」
キヨはちょっとだけ無言のまま考えるような顔をしていたけど、それからゆっくり頷いた。
「どういう作用で移動したのかわからないから無事とは言えないけど」
レツがそれを聞いて小さく「ええええ……」と言った。
俺たちはハルさんの奇跡のような移動魔法ばっかり見てるから、あれが当たり前だと思ってしまうけど、そんなことないんだった。
「移動魔法は、術自体はやっちゃえばできるもんだけど、どこへ出るかを確実にできないから実はかなり危険な魔法なんだ。どこへ飛ぶかは術を練る段階で決めるんだけど、その時の……場所の指定ってのかな、それを確固たるものにできない。意図してやってもそんなだから、鉱石の作用で飛ばされたフィカヨが無事開けた空間に居るかどうかは確約できないよ」
便利な魔法だと思ったけど、それで誰でも魔法で移動したりしないんだな。移動できる先に広い空き地が無かったら、それにそこまで飛べるかどうかは自分の魔力にかかってるなんて怖くて使えない。
ってことは、鉱石の魔法の作用で知らずに飛ばされて、もし地下の土の中に出現してたら、あっという間に命を落としてしまうんじゃないか……?
「早く、探そうよ……」
俺は傍らのレツの袖を引っ張った。
どこにいるのかわかんないけど、せっかくツェルダカルテの人になったのに、自由を満喫する前に地下深くに飛ばされたりするなんて絶対やだよ。
レツは俺を見て、それから俺を元気づけるみたいに少し笑って力強く頷いた。
「探すよ、絶対に見つける。それでちゃんとダーハルシュカに連れて行くよ」
レツはそう言うと、俺の頭に手を載せた。
……こういう時、可能性が低かったらキヨたちはこんな風に言ってくれない。でもレツだけは、どんなに難しくても俺が聞きたい答えをくれる。気休めとか子ども騙しのウソじゃなくて、レツ自身がそう信じてる言葉をくれる。俺は俯いたまま頷いた。
「そしたら作戦はどんな感じ?」
「とりあえずそっちの四人は、ここを中心にして一キロ範囲内で地下への入口を探してほしい。どう不自然なのかわからないけど、その鉱脈見てみないと何とも言えないし。人を飛ばせる程の魔力があるなら、無闇に飛ばすより鉱脈自体に引き寄せる方がしっくりくる感じもあるんで。今のところモンスターの襲撃がないところを見ると、もしかしたら近くにエルフの街があるのかもしれないけど、一応ここだって5レクス外だから四人で行動して」
キヨはシマに何か投げ渡した。
シマはチラッと見てポケットにしまう。俺たちは揃って頷いた。
「キヨと団長は来ないの?」
「団長はここで感知してもらう。つかみ損ねた歪みがまた現れるんだったら、それを追いたい。俺は団長の護衛」
護衛が単にモンスターだけを指すんだったら、コウとかシマでもやれるだろうけど、魔法の事で何かあったらキヨがいた方が絶対いいもんな。
「キヨリン、感知くらいだったらもう自分でできるんじゃないの?」
「なんで自分より何倍も読み取れるヤツがいるのに俺がやらなきゃならないんだよ」
それはつまりハヤがキヨよりずっと高精度な感知魔法が使えるって意味なんだろうけど、キヨが言うと単に面倒くさいだけにしか聞こえないんだが。
シマは馬を近くに繋いで身支度を整えた。ぐしょ濡れのマントは脱いでった方がいいよな。
何か見つかっても一旦は戻ることにしたから、荷物を置いてここを今日のキャンプ地にした。でもフィカヨが消えた場所だと怖いからその辺りからは離れて。
「じゃ、とりあえず出発」
「いってら」
レツにハヤが手を挙げて応えた。
「一キロなら、定期的に戻る形で探すか」
シマはそう言うと、一度来た道の方へと進んだ。
俺たちはちょっとだけ顔を見合わせたけど、シマについて行った。
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