第3話 高校では、カットマンは生き残りにくい

「翔真はさ、なんでカットマンをやってるの?」


 練習2日目。練習前の準備中、松原先輩が聞いてきた。


「あんまり深い理由は無いんですよね。中学で卓球を始めたとき、顧問の先生にカットマンにならないかって言われたからです」

「でも、それだけじゃ、ここまでカットマンを続けてないでしょ? 昨日の練習を見た限り、翔真はかなり上手いし。何か理由が無かったら、こんなキツい戦型でやる必要もないでしょ?」


 確かに、中学の時の顧問の先生にカットマンを薦められた、というのはキッカケにすぎない。卓球を始めたばかりの頃はプレースタイルの違いなんて分からなかったから、薦められるままにカットマンになった。カットマンになった理由は、本当にただそれだけだった。

 そして、カットマンがどんな戦型よりも練習量が必要で、そして現代卓球では昔よりも不利な戦型だと言われていることを知ったのは、カットマンになってからだった。


「カットマンを続けている理由……。そうですね、その……、カットマンであることの快感を知ってしまったというか。試合会場で視線を釘付けにできるような派手さがあって、何か格好良いじゃないですか、カットマンって」


 前陣で打ち合うことが多い卓球というスポーツにおいて、台から離れた位置でプレーするカットマンは希有なプレースタイルで、試合の中で派手なラリーの数が増える。どんなボールにも食らいつき、相手よりも多く返球して粘り勝つカットマンというプレースタイルは、正にロマン溢れる戦型なのだ。


「確かに、カットマンは格好良いもんね。俺がカットマン続けてる理由もそれが大きいし。でも、覚悟しといた方が良いよ。高校だと、男子は特にカットマンは生き残りにくくなっちゃうから。一緒に頑張ろうぜ、県内でも数えるくらいしかいないカットマンが同じ高校に2人も居るなんて、奇跡的なことなんだから」


 女子はともかく、男子はカットマンの数は中学の時と比べて明らかに少ない。特に、ボールに回転が掛かりにくく、球足が速くなったと言われるプラスチックボールにボールが変わったことも、カットマン減少に拍車を掛けることとなった。


「でも、なんで高校だとカットマンが減るんですか?」

「それは……、多分、言葉で説明するよりも、今日の練習で感じた方が早いんじゃないかな。中学までと何が変わるのか、きっと分かると思う」


 そう言いながら松原先輩が移した視線の先には、練習着に着替えて、各自でストレッチを始めた先輩方の姿があった。

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