第35話・放たれた災厄
「もうこんなに
ダンストのロビー。
たまにはオンライン対戦をしようとネットの広大な海に飛び出したは良いが、ふと目に留まったカレンダーの前でガンマは
休職終了期間が近付いている。
それはつまりフィーと出会ってから早くも6ヶ月が経つことを意味していた。
幸い仲間の協力のおかげでストリーマーとして大成している。
お金の心配が無くなっている今、辛い場所に戻ることは無いと誰もが思うところだろう。
(でもなぁ)
とはいえ、ことはそう単純ではない。
環境が悪いだけで、仕事は好きなのだ。
嫌な上司さえいなければ喜んで会社に行っている。
また、ストリーマーが何処までいっても安定を見込めない職業なのも不安だ。
己のパフォーマンスで給料が決まる世界。やっていける自信はまだまだ持てなかった。
「あっれー? そこにいるのはもしかして、天下のガンマ様ですー?」
気味の悪い声が耳に入った瞬間、悪寒が走った。
振り向いてはいけない。
体が全力で拒絶を
だから聞こえなかった振りをした。
だが。
「無視はひでーんじゃねーのー」
回り込まれた。
そして、逃走を防ぐように首に腕を回された。
「なぁ、ガンマ様ぁ」
腕のホールドがきつくなる。
ダンスト内のため痛みこそ無いが、
「な、
「分かってんなら最初から反応しろや」
一方的な物言い。
人を人とも思っていない
まさしくガンマが最も
悪魔のような顔つきもヘビのように長い腕も変わってない。
「中野さんも、ダンスト……やってたんですね」
「まーな。つっても俺はガンマ様みたいなすげー結果は残してねーけどな。会社休んでねーから」
チクチクと責め立ててくる。
言葉の1つ1つを受け入れるたび、頭がおかしくなりそうだった。
「なー、ガンマ様」
「そのガンマ様、っていうの。止めて、貰えませんか?」
「あー?」
今度は首に指がめり込んだ。
同時に、ロビー内での戦闘禁止の
「良いじゃん。お前だって女に言わせて喜んでんだろ?」
「ち、違いますよ。あれはその、本人が自発的に言ってるだけで」
「マジかよ、イカれてんな」
フィーを馬鹿にする言葉に頭にトゲが刺さったような不快感が走る。
全く持って事実ではあるものの、彼女をロクに知らない人間が文句を言うのは違う気がした。
「ところでさー。頼みがあんだけど」
「頼み、ですか」
嫌な予感がする。
「俺と勝負してくんね? 1戦だけでいいからさー」
「勝負?」
「そう勝負。いいだろ1戦ぐらい。時間は取らせねーよ」
正直なところこれ以上関わりたくない。
しかし、もし断って、
1回の我慢で済むならば悪くはないだろう。
「分かりました。受けて立ちます」
「へー、良い目してんじゃん。じゃあ次の土曜日の17時からでどうだ?」
「え? 今からやるんじゃ?」
話が違うとばかりに
「お前こそ何言ってるんだよ。今からメンバー
「は? チーム戦ってことですか?」
「ダンストでガチ戦すんなら当然だろう?」
理屈はそうだ。
だが、彼女達にこの人間に関わって欲しくない。
「俺だけじゃ、駄目ですか?」
「駄目だ。つまんねーからな」
即答。
こうなっては説得は無理そうである。
「仲間の都合がつくか分かりませんよ」
「無理にでも合わせろよ。それとも何か?」
中野が口元を
「有名人は俺達下の者とは対戦する価値がないってか?」
「そんなこと!?」
(思ってない!)
思ってるはずがない。
瞬間、初めてガンマは中野に
「そう怒んなよ、ガンマ様」
言って、腕のホールドを解除する中野。
ガンマとの距離を取っても、
「んじゃ、詳細は後で連絡すんよ」
「……はい」
「逃げんなよ」
ガンマは強く鳴り続ける心臓の上を手に当て、倒れるように椅子に座った。
(情けない)
震える足を見ながらマイナス評価を下す。
勿論自分にである。
(うざってぇ。クソッ)
嫌な奴から逃げたのに、まさか相手から追い掛けてくるとは予想だにしてなかった。
何故そっとしておいてくれないだろう。
と、ガンマは両手で顔を覆いながら世界を呪った。
「連絡しとくか」
ぽつりと呟くと、ガンマは仲間に向けて事の顛末を送った。
出来るだけ彼女達が参加を渋るよう暗めの文章。が、全員から返ってきたのはまさかの「参加OK」だった。
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