第34話・調和
「ごめんなさい!」「申し訳ありませんでした!」「ごめん!」
久し振りに全員で集まったダンスト内のロビー。
女性陣は顔を合わせるなり、
「アタシ、自分のことばかりで皆さんのことを全然考えて無かったです。本当にごめんなさい!」
「私こそ出過ぎたことを言ってしまって、申し訳ありません」
「それを言うならシグマもそうよ。少し人気が回復してきたからって、調子に乗ってたわ。ごめんなさい」
全員が前回の件について謝っている。
それ自体は良いことだ。
「アタシの方が!」
「いえ、私が!」
「シグマが!」
(まったくこの人達は)
今度はしなくともいい謝罪の波が起ころうとしていた。
このままいけばまた
「ほらほらストップストップ。全員また
「むっ、そうね。同じ過ちを繰り返すところだったわ」
3人とも分かりやすく息を吸う。
熱が入り過ぎて、新しい空気を取り込んでなかったと言わんばかりに。
「はい、もうこれ以上の謝罪は不要ですね」
「そうですよ。せっかくまた集まれたんですから、早くダンストやりましょう!」
「そうね」
フィーとシータがダンジョンへと歩みを始める。
遅れてガンマが続こうとしたところで、服の
「ガンマ」
「? どうかされました?」
彼を呼び止めたのは金髪幼女だった。
ガンマに用があっただろうに、何故か目を
「この間は、手……叩いて悪かったわね」
初めて見る照れくさそうに
「え、可愛い? 何か悪いものでも食べました? 病院行きます?」
「ブッ殺すわよアンタ!」
「ぐへぇ!?」
思い切り尻を
少女のような可愛らしさがあっという間に消え失せ、すっかりと鬼の顔へと
「すみません。俺もこの間は中途半端な態度を取ってしまって申し訳ないです」
「ふんっ。今日は特別に許してあげるけど、次に茶化したらぶん殴るからね!」
「はいぃ」
言い放つなり、彼女はダンジョンへと駆け抜けていった。
文句をぶつけていたはずなのに、去っていく女の子の姿は何処となく嬉しそうだった。
「あいたたたっ、変なこと言っちゃったな。何であんなこと言っちゃったんだろ」
自問自答。
だが、まるで答えは出ない。
結局ガンマは答えを出せないまま、もやもやとした気持ちを抱えて彼女達の跡を追った。
★
「フィー! 回り込んで!」
「合点!」
「シータ、次あいつ狙うわよ!」
「分かりました!」
上手く連携を取りながら、バージョンアップで追加された新ダンジョンを突き進んでいく。
心機一転にはちょうどいいとのことで、タイムや対戦を考えずに選んだものの、少しばかり問題があった。
立派:全然見えねぇ。視聴者泣かせのダンジョンだ
「画面右下の太陽のボタンを押していただければ改善するので試してみてください」
突如、シータがリスナーに向けたアドバイスを送る。
動きに余裕は無さそうだが、思考力はそうでもないらしい。
立派:見えるようになった! ありがとう!
ルピー:シータちゃんに気に掛けて貰えたとか、うらやま
ハロワ:シータちゃん、いつの間にかすげー動けるようになってんなー
「
魔女のようなモンスターと戦いながら、リスナーとの会話を楽しむシータ。
視聴者の言う通り、彼女の動きにはキレがある。
それも敵のみならず、味方の行動までも先読みしているような感じだ。
(視野が広くなってる?)
確信はない。
だが、様々な事象への対応を考えるに予想はずれてはい無さそうだった。
「ガンマ様!」
巻き起こる
ガンマに
完全に意識の外の出来事。
が、赤髪の少女が
「こっの!」
そして敵にはシグマの
ガンマ以外は見事な連携だった。
「大丈夫ですか、ガンマ様!」
「うん。悪い、ありがとう」
「推しを守るのはファンの役目ですので!」
はつらつと応えるフィーに笑みを返すと、今度は剣を
「シグマさんもありがとうございます」
「気を抜き過ぎ。今度は守らないわよ」
「はい、気を付けます!」
「ったく」
言いたいことを吐き出したのか、彼女は前線へと戻っていった。
怒られたものの悪い気はしない。
それよりもチームが成長し、機能している事実の方が嬉しかった。
フィーは突っ走る
ガンマを除く全員が自分に求められていることを理解し、突き進んでいる。
(俺も頑張らないと)
このままでは一人置いていかれる。
ガンマは危機感を覚えると、目の前のダンジョンへと意識を集中させた。
(ここからは仲間の観察は終わりだ。俺の良さを出していくぞ)
一呼吸置き駆けだす。
押し寄せる敵モンスターからフィーを守り。
シグマには、より有利な立ち位置に行けるように誘導。
そして、シータに攻撃のかわし方を
そんなことを続けた結果。
セプツェン:踏破おめ!
一味:あっさり突破したのすげぇ!
コメントの通り、初見のダンジョンを見事にクリアしてしまった。
割と難易度が高めなダンジョンだったものの、今のチーム力なら大した難しさではなかったようだ。
「まだ先があるようですが」
シータが指を差した先には確かにまだ通路が続いている。
クリア表示は出ているが、まだ隠し玉があるらしい。
「面白いじゃない。行くわよ」
「ちょっと! 1人で先行するのは危ないですよぉ!」
突っ走り始めたシグマを追ってフィーもまた駆けていく。
「俺達も行きましょうか」
「はい!」
少し遅れてシータと一緒に2人を追いかける。
すると通路を十数メートル進んだところで、光が
(出口?)
速度を落とさず進み続けると、先行したフィー達に追い付いた。彼女
「どうされました?」
と、シータが尋ねる。
たが、彼女もまた外を見ると、愚問だったといわんばかりに押し黙った。
ガンマもまた皆に続いて光の先を見る。
眼前に広がったのは、虹だった。
それも大海の上に架かった大きな虹。
バーチャルであるはずなのに、潮の香りや海風が頬を叩く感触も相まって、
「きれい」
やっと
この光景を味わえた事実だけで満足だった。
いや、違う。
信じられる仲間と最高の景色を見られたことに、ガンマは心から満足したのだ。
この日、チームキャラクターにとって忘れられない日になったのは言うまでもない。
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