第29話・アンチ
「近頃『グリッチレス』というワードを聞くことが多くなってきましたね」
珍しく雑談がメインの配信でガンマは放った。
メインは大会の反省だが、ここ数ヶ月が忙しかっただけに、だらだらやれれば良いと考えていた。
ちなみにフィーは居ない。
彼女は絶賛授業中だ。
レイン:グリッチレスの方が公平性高いしなー
みゆう:グリッチ有りはガンマニキが有利過ぎて
ぼとらー:最近は公式も徹底的にバグを潰してるという
thunder:シンクロバグみたいなものが他にあるとバランスブレイカーだし
「あのレベルのものはそうそう見つからないですけどね」
シンクロバグは大会から2日で修正されてしまった。
残念ではあるが、予想した通りではある。
あんなものを許容してしまっては、ダンストにおける対人戦は仲間を見つけるだけのゲームとなってしまう。
ガンマとしても、ダンストがつまらなくなる要素を排除してくれるのは大歓迎だ。
暗殺者ギルド課長:ガンマニキならまた見つけるでしょ
「バグ見つけるのも大変なんですよ。楽しいですけど」
ぺぺらんて:たのしいwwですけどwww
Luly:絶対大変だと思ってないやつー
(俺より俺のこと分かってる奴が増えてきたなぁ)
フォロワー数が多くなったことで平日だというのに
去年の自分を考えれば有り得なかった光景である。
「今度は見た目が面白くて、有効度が低いものを見つけたいですね」
Falawa:持ってるバグは公表した奴だけ?
「いや、しょうもないものは沢山ありますね」
夜誰:例えば?
「HP表示がマイナスになったり、腕が頭から生えてくるものとか?」
べな:しょうもなっ!
フムキ:地味に気になる!
「じゃあ今度やってみせますね」
ペットボトルの水を
ダンストをプレイするのも楽しいが、第三者と下らない話をするのも意外と良い。
そう思った時、とあるコメントが目に入った。
れん草:くだらない。まともにプレイしろよ
分かりやすい誹謗中傷である。
人口が増えれば自分ことを良く思わない人間も増えてくる。前にもそういう人間は居たが、視聴者の母数が増えると当然アンチも増えてしまった。
それは防ぎようのない自然の
有名になった者なら誰もが通る道のようだ。
(こういう時はスルー。酷いようならさっさとブロックする)
金髪幼女先生に教わったことを思い出す。
自分のことを
フィー:はぁ!? 真面目にプレイしてますがぁ!!
「お前が反応するんかいっ!!」
何処からか野生の相方が飛び出してきた。
今の時間は11時を越えたあたり。
ばりばり授業中である。
マスマティー:フィーちゃんを怒らすんじゃない!
伊久留:メンバーの中で一番狂ってんだぞ! 早く謝っとけ!
リスナーの中で謎の団結力が生まれていた。
ダンストパーティの優勝者コメントの件もあって、彼女が狂人なのは周知の事実である。
暴言を吐かれたガンマのことより、フィーのことを気にしてるのが残念なところではあるが。
れん草:はっ、別に怖くねーし
(イキってんなぁ)
分かりやすい強がりについプレイルームに投影された人口の空を見る。
晴れてはいるものの、雲の分厚さが目立つ模様だった。
フィー:
しかし、コメント欄に突如投下された爆弾によって、ガンマは正気に戻った。
リルル:神よ、静まり給え!
マスマティー:やべーよやべーよ
田中太郎:ガンマニキ早くBANしろ! 死人が出るぞ
まるで土着神のような扱いに笑みが
一刻も早く彼女の暴走を止めなければ、リスナーが予想する結果が待っているだろう。
ガンマは手早くコンソールを操作すると、喧嘩を売ってきた『れん草』をブロックした。
「『れん草』さんをブロックしました。俺が言うのもなんですが、誰振りかまわず
フィー:残念です。悪を
三六協定:フィーちゃんが犯罪者にならなくて俺達は安心だよ
ベンジャミン:フィーちゃんは安心して勉強してな
「本当だよ。フィーは今しか出来ないことをちゃんとしなさい」
フィー:はーい
素直な返事が飛んでくる。
狂ってはいるが馬鹿では無い。
これで勉学に戻ってくれるだろう。
「フィーは良い子なんですけどね。たまに暴走するだけで」
カクマ:ほんとほんと。あんたには釣り合わん子だよな
フィー:あぁ!!!!!!
(全然戻ってなかった!?)
べな:何故わざわざ地雷を踏みに行くのか……
華天:ま、これも人生。勉強してこ
「諦めないでっ! みんなも止めてー!」
ライティン:むーりー
リルル:はよBANしときな
マスマティー:でもどうなるか見てみたい気もするが
「絶対ろくなことになりませんよ! ああもう今日に限って何でこんな」
情けない声を出しながらブロックしようとした時である。
カクマ:おい逃げんなや。事実やろがい。やっぱズルしてる奴は違うな
(あ……)
超えてはいけないラインを越えてきた。
無論、ガンマの
田中太郎:可哀想に
伊久留:死なないように祈っとくわ
コメントを見て、ガンマもまた小さく十字を切る。
何が起こるかは予想できないが、悲劇が起きるであろうことは理解出来た。
カクマ:ダンパもどうせチートでも使ったんだろ?
何故ここまで攻撃的なのか理解に苦しむが、突発的に有名になった人間には珍しくないらしい。
その後も相手の
が、ガンマは特に対応せずにスルーしていた。
カクマ:女囲って良い気になりやがって。どうせフィーも
(んな訳ないだろ)
田中太郎:こいつ新規か?
夜誰:エア視聴民だったかー
レイン:ただ攻撃したいだけのゴミじゃん
みゆう:むしろニキが
ありがたい。
自分のことを分かってくれる人間がこんなにもいる。
ガンマは体の内側が熱くなるのを感じた。
フィー:SNSや配信色んなところで悪態吐いてるみたいですねー。特定したらどうなってしまうんでしょう
不穏な書き込みに思わず重い息が飛び出た。
元ネットストーカーとしての実力が発揮されている様子は正直言って見たくは無かった。
フィー:何なら開示請求しても良いのですか
カクマ:はっ? こっちは脅しなんかに屈しないぞ
フィー:へぇ、まだ学生さんなんですね
瞬間、ぞわっとした悪寒が走った。
止めなければ人一人の人生が失われる。
そう思ったら手が勝手に動いていた。
「カクマさんをBANしましたー。えっと、人への文句はほどほどにねー」
田中太郎:ナイスBAN
ぼとらー:英断
レイン:あまりにも早いBAN。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
カクマがフィーからお仕置きを受けようがそれは自業自得だ。
フィーが怒るのも彼女の性格を考えれば理解出来る。
しかし、だ。
こんな相手にフィーの時間を取らせたくは無かった。
「フィーもほどほどにな。でも、俺のために怒ってくれたのはありがとうな」
フィー:おっふぁらぁあかなしむこまな!?
田中太郎:フィーちゃんがバグった!?
それっきりフィーがコメントすることは無かった。が、授業中の彼女にとってはこれで良いだろう。
「皆さんも安易に暴言吐いちゃダメですからねー」
ガンマは一呼吸置くと、再度雑談を開始した。
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