第28話・打ち上げ②
「お疲れ様ー!」「お疲れー!」「お疲れ様です!」「お疲れ様でした!」
中身の詰まったグラスを4人がぶつける。
そして勢いのままに、各自飲み物を口に入れていた。
「まさか本当に勝てるとはねー。アンタ達を誘ったシグマの目に狂いは無かったわ」
「私はあまり活躍出来なかったので何とも微妙な気分ですが」
「何言ってんの! あとで見返したけど、最後の自爆特攻は
「そうですよ。それにゴールまでの道筋を見つけたのも、シータさんだって言うじゃあないですか。大活躍ですよ!」
「逆にそこ以外がダメダメでした」
「もう」と、一言残し金髪幼女がビールの入ったジョッキをあおる。
居酒屋。
それも個室なので誰からも文句を言われることはないが、小学生中学年ほどの証書が酒をかっ込む様は、やはり異様な光景である。
「勝ったんだから良いのよ、気にしない! シグマだって最終戦は何もしてないに等しいんだから」
「本当何してんです? 相手チームの幻想師を倒したのアタシですし」
言って、フィーがコーラを一口。
唯一の未成年である彼女はソフトドリンクだ。
「その幻想師のせいで、相手プレイヤーどころかモンスターとも
「つまりただ歩いていただけと」
「そうよそう! 良いじゃない、最後以外は活躍したんだから! お代わり!」
彼女は残っていたビールを飲み干すと、パッドを操作し追加の飲み物を注文した。
彼女以外はまだまだ中身が残っているのを察してか、彼女が他に要望を
「ガンマはどうしたの? やけに静かじゃない?」
「あ、いえ。何か今更ながら実感が
「本当に今更ね」
シグマには飽きられてしまったが、今回の優勝は非常に大きい。
事実チャンネルフォロワー数も前日と比べると倍以上に
「お気持ちは分かります。私も人生であんなにも
そして、彼女はお酒のジンをジンジャーエールを割った飲み物に口を付けた。
「そうですよ。誰もかれもがシグマさんみたいな
「そういうアンタだって淡々としてるじゃない」
「アタシは他人の賞賛なんてものは、ご
「フィーさんはぶれませんね」
赤髪が言いたいことは誰もが理解出来た。
彼女にとっての一番は決まっているのだ。
「そういえば賞品はどうするの? 商品券の類は素直に4等分で良いかしら?」
「それで構いませんよ。特に
これは本当だ。
ガンマにとってはフォロワー数の方が大事だった。
何故なら賞品はその場限りのことだが、フォロワー数は毎月の収益数に直結するのだから。
「あ、そうだ。俺のチャンネルの配信の収益も分けようと思うのですが。結構みんなに出て貰ってたし」
ガンマの提案を聞いてシグマとシータが目をぱちくりさせる。
まるで意識外のことだったらしい。
「う、受け取れませんよ。私、大してお役に立ってませんし」
「こっちはシグマのチャンネルにも出て貰った時があったからノーカン。感謝の気持ちがあるなら、今回の飲みを
「あ。私もそれで構いません。というか是非そうしてください」
「二人が良いならそれで」
「てかフィーには聞かないのね?」
関係ないとばかりに、チキン南蛮をつまんでいたJKが顔を上げる。
彼女の口の周りにはタルタルソースがべったりと付着していた。
「フィーとはメンバーに加わって貰った時に、既に取り決めしてるんで」
「普通にお金を貰うと法律的に面倒なので、交通費とジム代。それとご飯代を出して貰ってます。アタシ的にはそんなの要らないので、もっと欲しいものがあるんですが」
「へー。というと」
「そりゃあ勿論、ガンマ様の
「お前最近、遠慮が無くなってきてるぞ!」
「ガンマ様も手を上げることに抵抗なくなってきてませんかぁ?」
涙目で
確かに暴力は良くないが、相手が止まることを知らない暴走列車なのだから無理やりブレーキを掛けるのも仕方ない。
「仲が宜しいことで。しばらくチーム戦は無いだろうし、チーム練習は時々で良い?」
「はい、私も学校の試験があるので、むしろそれでお願いします」
「それじゃあ、しばらくお二人とはお別れですかね」
「別れって言っても、ジムには居るだろ」
反論しつつも、今まで同じ時間を共有することが多かっただけに
例え同じ建物に居ようとも、時を分かち合えなければ一緒に居るとは言えない。
「それはそうですけどぉ」
「ふふふっ。出来る限り時間を作って練習しに行きますよ」
「シータさんしゅきー」
酔ってるのかと思えるほどの勢いでフィーがシータに向かって抱きついた。
女子はパーソナルスペースが狭いというが、男の目から見て近過ぎるように感じられた。
(すげぇ)
フィーの頭がすっぽりとシータの胸で隠れていた。
本当に現実なのかと疑ってしまうほどの大きさである。
「シグマも暇になったら行ってあげるわ。それよりガンマ」
「はい?」
顔を赤らめた少女が真面目な口調でこちらを見てくる。
徐々に酔ってはいるようだが目力が強かった。
「今度こそアンタのせいで世界が変わるわよ。覚悟しておきなさい」
放たれた言葉は胸に刺さったものの、痛くはなかった。
そんなことを言われても想像が出来なかったのだ。
しかしながら、彼がその言葉の意味を理解するのにそう時間は掛からなかった。
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