第27話・賛美

「ストリーマー部門優勝は! チーム・キャラクタァァァァァァ――――!!」


 司会者が力強い雄たけびを上げた瞬間、会場は耳をつんざくような賞賛しょうさんの嵐が巻き起こった。


 コメント欄の盛り上がりも負けていない。

 誰もかれもがガンマ達の健闘をたたえていた。


田中太郎:フィーちゃんおめでとう!!

コンマ8秒:俺達のシグマは最高だぜ!

RUTA:シータちゃんも最後めちゃ良かった!


 次々にスクリーンに映っては消えていくめ言葉の数々。

 ただ、ガンマに対するコメントが少ないのは、バグ技の効果がチート寄りだからだろうか。


 そんなことを思いながら、ガンマは仲間達と共に壇上だんじょうへと登った。


 大勢のギャラリーがこちらを見つめてくる光景に足が震える。

 が、それ以上に胸に込み上げてくる気持ち良さがたまらなかった。


(やったやったやったぁ!)


 さっきから天にも昇るような気持ちがいてくる。


 何せ今は自分がやっていたことが報われている。

 一言で表せば「至福」だった。


「本当におめでとうございます。それではお一人ずつ感想を頂ければと思います」


 司会者の女性がシグマにマイクを近付ける。


「まずは皆さん応援ありがとうございました」


 到底想像出来なかった丁寧ていねいな言葉遣いに、思わず魂が引っこ抜かれたような気分になる。

 まさか破天荒はてんこうさが売りの彼女がこんなまともな台詞を言うとは、夢にも思わなかったからだ。


「こうして良い結果を出せたのは会場の皆様やリスナーの方々。また、チームメンバーのおかげです。本当にありがとうございました」


(なんて殊勝しゅしょうな態度なんだ。本当にこの人はシグマさんなのか?)


基底ちゃん:誰だこの人……

ぺこり:俺達のシグマちゃんを返せ!


 どうやら彼女を応援していた人達も同じ気分のようだ。


「それはそうと愚民共!! シグマはやったわよ! シグマを信じてきて良かったでしょう!!」


 前言撤回ぜんげんてっかい

 人間の本性というのはそう簡単には変わらないらしい。


EIM:良かった。いつものシグマちゃんだ

ぺけれった:ひやっとしたぜ


 だが、彼女のリスナーはいつものシグマの方が良いようだ。


「はい、ありがとうございました。それでは次はシータさんにコメントを頂きます」


 司会者は淡々と受け流すと、今度はマイクを仮面の少女へと向けた。


「わ、私は活躍出来た試合が少なかったので、正直なところ悔しいという感情が強いです」 


 彼女はとても努力して初心者から駆け上がってきた。それを知っているからこそシータの気持ちは理解出来た。


「ですが改めて、ダンストって面白いんだな、と感じることが出来て本当に良かったです」


卑しか男ばい:良い子だ……

BLUE:俺もシータちゃんのプレイ見れて良かったよ!

ジオ:最後の自爆特攻良かったよ!!


「私なんかを誘って頂いたチームメイトには感謝の気持ちしかありません。ありがとうございました」


 何て清廉せいれんなコメントなのだろう。

 ガンマは静かに頷くと、熱くなった心にそっと胸を当てた。


「ありがとうございます! 次はフィーさんお願いします」


 次は赤髪の少女の番。

 彼女は鼻息を荒くしながら、マイクへと口元を近付けた。


(おい、余計なこと言うなよ頼むから)


 フィーに向かって念を送る。

 だが、テンションの上がった彼女に伝わることは無かったようで、


「推しのお役に立てたことを生涯誇しょうがいほこりにしていきます。明日死んでも良い気分ですっ!」


 通常運行だった。


田中太郎:死なないでー!!

ベンジャミン:でもフィーちゃんなら推しのためによみがえりそう

三六協定:ゾンビかな?


 何故かリスナーも普段と変わらずだった。


「ちなみに推しとは?」


(突っ込むな司会の方も!)


「ガンマ様です!」


 食い入るようにフィーが叫ぶ。

 刹那せつな、会場の視線がこちらを向いた。


 想像だにしなかった光景に自然と足が震え、視界が上下した。


「えー、敬称が『様』なのは、あこがれによるところでしょうか」


(そこ! 掘り下げなくていいからぁ!!)


「はい、ガンマ様はアタシにとっての神様なので。神様を崇拝すうはいするのは当然です」


田中太郎:驚いただろ? これ真面目に言ってんだぜ

MLM:可愛いし、まあ良いんじゃないかな

ペンシルライト:せやな

三六協定:それでも好きだぜ、フィーちゃん!


 何処と無くコメントが引いていた。

 それは会場内も同じで、高まっていた熱量がストンと落ちたような気を覚えた。


「は、はい。ありがとうございました。最後はガンマさんからコメントを頂きます。どうぞ」


 沈静化した雰囲気の中、マイクを向けられる。


 馬鹿フィーのせいで、考えていた台詞は全て吹っ飛んでしまい、頭の中はかすみが掛かったように空虚くうきょだった。

 その上、会場内に爆弾低気圧が投下されたおかげで、コメントのハードルが高くなった気もした。


「会場の皆様、配信を見て頂いているリスナーの方々。それからチームを組んでくれたシグマさん、シータさん、フィー。ありがとうございました!」


 ひとまず素直な感想を述べる。


「今回の勝利の要因となったバグ技、自分達はシンクロバグと呼んでるんですが――」


 会場内から息をむ音が聞こえた。

 皆秘密を知りたがっているようである。


「詳しいやり方を説明した動画をこのあと公表するので、是非ご覧になってください。もしかしたら、すぐに修正が入って使えなくなるかもしれないですけど」


 ちょっとだけ会場がいた。


「最後に、これからもこのチームで頑張っていきたいと考えていますので、応援して頂けると大変嬉しいです。ありがとうございました!」


 たどたどしいながらも、何とか詰まらずに最後まで言い切った時、


 喝采の波が押し寄せていた。


天晴:88888888

りっか:見に行くわ

komeko:また新しいバグ期待してるぞ!


「ありがとうございます。会場並びに配信をご試聴の皆様。今一度大きな拍手をお願いします!」


 会場を震えるどの力強い音が響き渡った。

 この日得た昂揚感こうようかんは、ガンマの人生にとって忘れられないものとなった。


―――――――――――――――――――――

現在のチャンネルフォロワー数:96417


《ガンマのバグ技チャンネルからリスナー様へのお願い》


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