第26話・無双②

 困った。


 ガンマは敵味方含めて誰とも出会わない状況にあせりを感じていた。


(決勝戦ともなると相手もしっかり対策してくるなぁ)


 今回使用しているバグはプレイヤー同士の交流が無ければ実現しないものである。

 これまでは最序盤に味方と出会えることが多く上手くいっていたが、今回は人っ子一人現れない。


 単純に運が悪い可能性はある。

 しかしながら、ガンマはこの状況は相手が作り出したものと考えていた。


 何故なら対戦相手のチームが幻想師というジョブを採用していることを知っているのだから。


 幻想師はマイナスのステータス補正の代わりに、ダンジョン全域に効果を及ぼす幻覚を作り出すことが出来る。

 内容としてはモンスターの攻撃命中率を下げたり、次の階層への道を分かりにくくしたりと色々だ。


 そして幻想師が使用出来る術の中には、視界を狭めるというものがある。

 効果が敵・味方に及んでしまうためイマイチ使い勝手の悪い能力だ。

 が、対戦相手がバグの効力から発生方法にアタリを付けていると仮定した場合、この力は対策として一番効果的なのは間違いない。


 事実何となくではあるが、何時もより目の見え方が悪い気がしていた。


(こうなったら索敵さくてきスキルの高いフィーに頑張って貰うしかないんだが)


 甲冑を身にまとった兵士をり飛ばしながら赤髪について思いをせる。

 必要ない時にすぐに駆けつけてくる彼女も、今回ばかりは姿どころか影すら見えなかった。


 こういう時にこそさっさと現れて欲しいものである。

 ガンマは通路を駆けながら至極しごく失礼なことを考えた。


「「っ!?」」


 階段を駆け上がったところで、正面にプレイヤーの背中が見えた。

 そして、相手もまたこちらに気付いたようで、すぐに一歩距離を取って構えを取った。


かぶとっぽいもの付けてるし戦士系か? きついな)


 と、思った瞬間。

 ガンマが抱いた幻想は一声によって打ち砕かれた。


「あれ、ガンマさん!?」

「あ、シータさん!」


 相手はチームメンバーだったらしい。

 薄暗うすぐらいダンジョンのせいで彼女の仮面に気付かなかったのだ。


「他の面子は?」

「残念ながら私だけです。何故だか見通せる範囲が狭い気がしていて」

「やっぱりですか。多分それ幻想師の力だと思います」

「ガンマさんもそう思いますか! 全ての職業の固有能力を把握はあくしているわけでは無いので、あまり自信が無かったのですが確信を持ちました」


 彼女が真っすぐにこちらを見てくる。


「ガンマさん、幸いボス部屋まではマッピング出来ています。私一人では到底勝てないボスですがガンマさんが居ればどうにかなりますよ!」

「おお、流石シータさん! じゃあ早速!」

「はい、やりましょう!」


 お互いに手を宙でスライドし、ウィンドウを開く。

 そしてプレイヤー情報から職業欄のヘルプを選択後、おもむろに相手の手首を掴んだ。


 それはシータも同じ。

 彼女もまたガンマの左手首を掴むと、自身の職業欄へと誘導していた。


 互いが相手の職業に手を触れた時点でバグは完成した。


 こんな簡単な動作で彼等は、執事バトラーでありながら罠師。罠師でありながら執事バトラーとなった。


 シンクロバグ。

 発見者の一人であるフィーはこう名付けていた。


 配信外で彼女とガンマがふざけて遊んでいる時に偶然見つけた技だが、非常に効果が高い。

 何せ相手の特性と能力が丸々得られるのだ。


 はっきり言ってズル以外の何物でも無い。

 大会が終わり次第、修整されるのは目に見えていた。


 執事バトラーと罠師の場合は特性面での優位性は薄いが、代わりに面白いことが出来た。


「行きましょう!」


 シータが声高々に言う。

 同時に迷宮のゴールに向かって走り出していく。


「やはり凄いですね、これ」


 楽しそうに仮面の少女が言葉をつむぐ。

 向上した敏捷性びんしょうせいが功を奏しているようで、シータの走りも弾むような動きだ。


「あそこです」


 階段を降りた先、そこにはとんがり帽子と杖を持ったモンスターと戦う相手チームが居た。

 それも3人。

 幻想師以外は相手チームの面子は揃っているようだ。


「どうされますか? このままでは先にクリアされてしまいます」

「正攻法だと分が悪いですね。と、なるとあの手が一番かと」

「あれ、ですか……」


 シータが露骨に嫌そうな声色を飛ばしてくる。

 ガンマが提案した内容を心底理解しているようだ。


 ダンジョンにボスは一体しかいない。

 そのため敵チームが既に戦闘中の場合、こちらは相手プレイヤーを倒さなければボスにダメージを与えることが出来ないかせがある。

 これはプレイヤー同士の横取りを防ぐための処置だ。


 弧の仕様は一見、先にボスに到達した方が有利に思えるが、実はそうでもない。

 ボスと後からやってきたプレイヤーの両方を相手取る必要性が生まれるからだ。


 出遅れたチームにとってはボスとのタッグを組むことで、相手を殲滅せんめつすることも出来る。

 どんなルールもプレイ次第なのである。


戸惑とまどっていても仕方ありません。覚悟を決めていきましょう」

「……はい」


 観念したようにシータが罠師の能力を発動した。

 ガンマの手に爆弾をくくり付けたのだ。


 これはプレイヤーに致死量のダメージと引き換えにぶつかった相手に大ダメージを与えることが出来る、滅多めったに使用しないスキルである。


「逆にテンション上がってきますね」

「私には分かりませんよ、その気持ち」


 しゃべりながらガンマもまたシータに爆弾をプレゼントする。

 その後、二人はお互いに防御力の上がるのスキルを使用した。


「じゃ、仲良く爆発しましょうか!」

「何でそんなにやる気なんですかー!」


 駄々をこねる彼女の手を引き、ガンマはボス部屋へと駆け出した。


 真っ先に気付いたのは相手チーム後衛の狙撃手スナイパー

 きっとこちらのチームが現れる可能性に意識を割いていたのだろう。


 彼は急いで周囲に伝達すると、こちらに向けて牽制射撃けんせいしゃげきを撃ってきた。


「はっ」


 無意味な攻撃に思わず笑みがれる。

 何せこちらは防御バフを掛けているのだ。簡素な攻撃がまともに通るはずがない。


「お先に行ってきまーす!」

「うぇえぇぇぇぇっっ!? ガンマさん!」


 身体の奥から湧き出る愉快さに身をゆだねながら、戸惑う狙撃手スナイパーに突撃する。

 そうして高い敏捷力を活かして、相手に向けタックルした瞬間、


 手に付けられていた爆弾が爆発した。


「うわああああああああああああああああああっっっっ!?」


 爆音と共に狙撃手スナイパーの悲痛の叫びがボス部屋内に響く。

 ガンマは爆発によって噴き出た砂煙を肌で感じながら、ひっそりと笑った。。


 そして煙が収まってきた頃。

 

 モンスター含め誰もが自爆テロ犯を見ていた。

 それも有り得ないものを見る目つきで。


 何故生きている?


 相手チームの誰もが思っていることだろう。

 これもまたシンクロバグがなせる技である。


「す、すみませーん!」


 そうして相手の動揺が解けないまま、今度はシータが文字通り自爆特攻を仕掛けた。意表を突かれた相手2人は虚をつかれた上、隣にいたこともあり仲良く爆散。


 瞬間、チーム・キャラクターの勝ちをしらせる文字が視界に映った。

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