第25話:無双①

 何が起きている。


 チームを束ねるリーダの身でありながら、そう思わざるを得なかった。


 自分達のチーム『チェイン』はストリーマー枠の参加でありながら、プロチームにも引けを取らない面子がそろっている。


 事実、メンバーの一人はプロの前線で活躍している。

 相手にも有名な選手はいるが、現在の活躍度でいえばこちらの方がはるかに上だ。


 自分含めその他のメンバーも悪く無い。

 全員ダンスト歴は10年以上で高みを目指している連中の集まりだ。


 コンディションも上々。


 だが、それがどうして。


 ここまで一方的な展開となる……!?


「敵の斥候レンジャーこちらに向かってきます! リーダー! どうすれば!」

「落ち着け! 斥候レンジャーの防御力は低い。冷静に迎撃げいげきすれば勝てない相手ではない!」

「ですがっ!? ぐわぁ!?」

「どうした! 状況を伝えろ。おい!」


 突如通信が途切れる。

 通信者コミュニケーターの能力を妨害されたわけではない。


 単純に、通信相手の味方が倒されたのだろう。


 チームバトルの処理条件は2つに分けられる。

 チーム内の誰かがダンジョンを踏破とうはする。

 または対戦相手のチームを全滅させる。


 今回のレギュレーションでは、パーティーメンバーがランダム配置ということもあり、後者の方が比較的難しい。


 しかし現実はどうだ。

 チーム:チェインに残された人間は既に自分のみだ。


 開始からまだ5分も経過していない。

 いくら力の差があろうとも、中級者以上であればここまでの差はつかない。


(何かやられている? まさか)


 思い当たる1つのワードが頭に浮かぶ。


 確かに敵に居た。

 世界で初めてダンストのバグ技を見つけた人間が。


 しかしながら、そこまで有用な技を持っているかと言われると、はたはた疑問だ。

 そうであればもっと有名に違いない。


(いいや。その認識が誤りということか)


 現実は嘘をつかない。

 自分達がここまで負けているということは、想像も付かないほどの効果の技を使われているに決まっている。


「!?」


 思考を働かせながら無我夢中に道を突き進んでいると、曲がり角の向こうから男が現れた。


 職業は執事バトラー

 ということは、彼がうわさのバグ技使いなのだろう。


 考えるよりも早く構えを取り接敵する。

 向こうは対人戦闘が不慣れなのか、反応が少しばかり遅れている。


 お互い仲間を助ける補助職。

 と、くれば先に仕掛けたほうが断然有利だ。


 通信者コミュニケーターは宝箱から入手した短刀を相手の胸へと向けた。


 対処は不可能。

 仮に出来たとしても執事の素早さであれば、後のアクションはこちらが断然有利。


 そう判断して力を込めた。


 刹那――、


「ぐっがぁ!?」


 軽い衝撃が顔面に走る。


(何をされたっ!?)


 このひりつくような痛みには覚えがある。

 魔法職が用いる炎だ。


 有り得ない。

 絶対に有り得ない!


 執事が出来ることは味方への能力アップだけ。

 それは決して魔法などではない。


「何をやった! 何を!」


 あまりの衝撃に対戦相手への敬意を捨てた口調で叫ぶ。

 ひりついた皮膚ひふが余計に現実から自分を遠ざけた。


「残念ながら今それを言うことは出来ません。ただ――」

「『ただ』何だ!」

「大会が終わったら公表するので、しばらくお待ちください」


 彼はそう言うと、後ろ手に持っていた剣を自分へと振り下ろした。


 何から何まで圧倒されてしまった自分は回避行動を取ることが出来ず、自殺志願者のように攻撃を受けた。


 膝を折りながら眼前に『LOSE』の表示が流れていくのを見つめる。


 訳が分からなかった。


 いや、敗北に対してではない。

 最後に繰り出された攻撃に対して、だ。


(だってそうだろう)


 執事バトラーは剣を装備することが出来ないのだから。


 これではまるで。


(魔法剣士ではないか)

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